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2023年08月11日00:54

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映画『ひろしま』

数年前にテレビ放送され録画していた幻の映画を、広島原爆投下から58年目の日に、ようやく見た。なるほど衝撃的な作品である。映画の語り口としては、少なくとも今の目で見ると稚拙で教条的な部分も多いが、やはり原爆投下から8年後に、実際の被爆者たちも大挙出演して作られたリアリティは一見の価値がある。
戦後から始まり、非常に説明的な台詞で進む導入部はいささか稚拙な、それが言い過ぎなら古風な作りで、少々不安になる。1945年8月6日の再現はさすがに迫力があるのだが、あまり体が崩れている人はいないし、みんな服を着ているしで、現実はとてもこんな程度の悲惨さではないはずだとも思ってしまう。

本作の真価は、むしろその後にある。即死は逃れたものの次々と息絶えていく人々。行方知れずになった肉親の死に直面する人々。何年も経ってから原爆病(放射線障害)でバタバタ倒れていく人々。そして親を失った戦争孤児(浮浪児)たちの描写など、原爆投下当日の描写よりもはるかにリアルに見える。それはある意味当然で、原爆投下直後の地獄図は通常の劇映画では再現できないが(再現したらとても正視には耐えない)、戦争と原爆によって肉体的にも精神的にも生活的にも破壊された戦後の暮らしは、出演者の多くにとって、ごく身近にある日常、今そこにある生活だったのだから。

個人的にとりわけ印象に残った点は2つ。1つは、同じ広島人の間でさえ、直接 被爆して後遺症に苦しむ人たちは、そうでない者から「原爆に甘えている」と白い目で見られていたこと。これは福島の原発事故の被災者に対する差別とまるで同じ構図ではないか。
もう1つは浮浪児たちの描写。あそこに出てきたのが本当の浮浪児たちなのか子役なのか分からないが、前者である可能性も高そうだ。それほどまでにリアル。目つきから何から全ての存在感がザラザラとささくれ立っていて、生々しい危険さを身にまとっていた。

映画としての構成や演出はそ、こまで傑出したものではない。しかしそのような巧拙を超え、通常の「よくできた映画」では見られない生々しい痛みや怒りが、このフィルムには封じ込められている。製作から70年経った今も、その鋭さは鈍っていない。全人類が一度は見ておくべき作品だろう。

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