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2023年05月25日02:28

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館林・大泉紀行９　田中正造記念館

　３日水曜日は、武鷹館を出た後、隣接する田中正造記念館を訪れました。
https://www.google.com/maps/place/%E7%94%B0%E4%B8%AD%E6%AD%A3%E9%80%A0%E8%A8%98%E5%BF%B5%E9%A4%A8/@36.2467261,139.5377686,19z/data=!4m15!1m8!3m7!1s0x601f300e0c1a3fdf:0x4cdbc468ea73764d!2z44CSMzc0LTAwMTgg576k6aas55yM6aSo5p6X5biC5Z-O55S6!3b1!8m2!3d36.2460959!4d139.5413649!16s%2Fg%2F1pxyc5c7r!3m5!1s0x601f3ab073e4fee1:0x805f7e7efbc2f1ef!8m2!3d36.246795!4d139.538488!16s%2Fg%2F121xkg9_

　田中正造(1841～1913)は、下野国安蘇(ｱｿ)郡小中村(現；栃木県佐野市小中町)の名主でしたが、領主である高家(ｺｳｹ)の六角家に反抗したため慶応４(1868)年初頭に投獄されてしまい、翌年出所しています。
　明治３(1870)年に江刺(ｴｻｼ)県花輪支庁(現；秋田県鹿角市)の官吏となりましたが、翌年、上司の木村新八郎殺害の容疑者として投獄されています。明治７(1874)年に釈放されて小中村に戻り、明治９(1876)年まで隣の石塚村(現；佐野市石塚町)の造り酒屋蛭子屋の番頭を務めました。
　明治11(1878)年に区会議員として政治活動を開始し、『栃木新聞』が創刊されると、翌年には同紙編集長になり、紙面上で国会の設立を訴えるなど、自由民権運動に参加しました。また、嚶鳴(ｵｳﾒｲ)社や交詢(ｺｳｼﾞｭﾝ)社に社員として参加しています。
　明治13(1880)年に栃木県議会議員となり、明治15(1882)年４月に大隈重信が立憲改進党を結党すると、その年の12月に入党しています。薩摩藩出身の栃木県令三島通庸(ﾐｼﾏﾐﾁﾂﾈ)と議会で対立し、自由民権運動激化事件である加波山事件に関係したとして明治18(1885)年に逮捕されますが、三島が異動によって栃木県を去ると年末に釈放されています。明治19(1886)年の第13回臨時県会では議長を務めました。
　明治23(1890)年の第一回衆議院議員総選挙に立憲改進党から栃木３区で出馬し、当選を果たしますが、この年渡良瀬川で大洪水があり、上流にある足尾銅山から流れ出した鉱毒によって稲が立ち枯れる現象が流域各地で確認され、騒ぎとなります。

　明治24(1891)年、鉱毒の害を視察した正造は、第二回帝国議会で鉱毒問題に関する質問を行い、明治29(1896)年にも質問を行っていますが、政府側対応は鈍い物でした。
　そこで、正造は群馬県邑楽(ｵｳﾗ)郡渡瀬(ﾜﾀﾗｾ)村(現；館林市)の雲龍寺で住民を煽動する演説を行い、農民の鉱毒反対運動を激化させて、東京へ陳情団が押しかける事態を招きました。当時、この運動を農民達は「押出し」と呼んでいました。正造は鉱毒について帝国議会質問を再三行ない、農商務省と足尾銅山側は予防工事を確約、脱硫装置等が実際に着工されましたが、効果は微弱でした。
　明治33(1900)年２月13日、農民達が東京へ「押出し」へ出かけようとしたところ、途中の群馬県邑楽郡佐貫村大字川俣村(現；邑楽郡明和町川俣)で警官隊と衝突して流血の惨事となり、農民多数が逮捕される川俣事件が起こります。この事件の２日後と４日後に正造は憲政本党を離党したうえで、衆議院で事件に関する質問を行います。これが「亡国に至るを知らざれば之れ即ち亡国の儀につき質問書」で、偏向した連中からは日本の憲政史上に残る大演説だとされていますが、時の内閣総理大臣山縣有朋侯爵元帥は「質問の意味が判らない」として答弁を拒否しました。
　この年の川俣事件公判の傍聴中、正造が欠伸(ｱｸﾋﾞ)をしたところ、態度が悪いとして官吏侮辱罪に問われ、裁判にかけられました。なお、川俣事件は仙台控訴審での差し戻し審に於いて、起訴状に担当検事の署名が無いとの理由で明治35(1902)年に公訴不受理、一審で無罪だった者については控訴棄却との判決が下り、全員が釈放されています。
　明治34(1901)年10月23日、正造は衆議院議員を辞職しましたが、鉱毒被害を訴える活動は止めず、主に東京のキリスト教会などで鉱毒に関する演説を度々行っていました。
　そして、同年12月10日、東京市日比谷において、帝国議会開院式から還幸中の明治天皇に足尾鉱毒事件について、死を覚悟の上で直訴を行う行動に出たのです。途中で警備の警官に取り押さえられて直訴そのものには失敗しましたが、東京市中は大騒ぎになって新聞の号外も配られ、直訴状の内容は広く知れ渡る事となりました。直訴状は、幸徳秋水が書いた物に正造が加筆修正したと伝えられています。

　正造は即拘束されましたが、首相兼内務大臣の桂太郎子爵大将は単に「狂人」が馬車の前によろめいただけだとして不問にする事とし、即日釈放されました。しかし、明治35(1902)年に欠伸事件の判決が下り、重禁固40日の実刑とされて服役しています。この時に獄中で聖書を読んで強い影響を受けましたが、キリスト教への転向はしませんでした。
　同年、桂首相は渡良瀬川下流に貯水池を作って鉱毒を緩和する計画を打ち出しますが、正造は建設予定地となっていた埼玉県川辺村・利島村の反対運動に参加して煽動を行い、計画は白紙となりました。
　しかし、翌明治36(1906)年には栃木県下都賀郡谷中(ﾔﾅｶ)村が貯水池になる案が浮上、正造は明治37(1904)年７月から実質的に谷中村に住み付きました。同年、栃木県会は秘密会で谷中村買収を決議し、藤岡町へ合併させる事を決定、貯水池にするための工事が始められます。
　明治39(1906)年、谷中村議会は藤岡町への合併案を否決しますが、白仁武(ｼﾗﾆﾀｹｼ)栃木県知事は「谷中村は藤岡町へ合併されて消滅した」と発表、谷中村は強制廃村となりました。しかし。正造はその後も旧谷中村に住み続けます。明治40(1907)年、第一次西園寺公望(ｻｲｵﾝｼﾞｷﾝﾓﾁ)内閣は土地収用法の適用を発表、「村に残れば犯罪者として逮捕される」と圧力をかけます。多くの村民は村外に出ましたが、正造は強制破壊当日まで旧谷中村に住み続けて抵抗しています。結局この土地が正造の終の棲家となりました。
　明治41(1908)年に第二次桂太郎内閣は谷中村全域を河川地域に指定し、明治44(1911)年４月、旧谷中村村民の北海道常呂(ﾄｺﾛ)郡サロマベツ原野への移住が開始されました。
　正造は土地の強制買収を不服とする裁判を起こしたりして住民煽動を続けましたが、大正２(1913)年８月２日、古参の支援者らへの挨拶回りの旅の途次、栃木県足利郡吾妻村下羽田(現；佐野市下羽田町)の支援者庭田清四郎宅で倒れ、９月４日に同所で客死しました。享年71。死因は胃癌とされています。財産は全て鉱毒反対運動等に使い果たし、死去した時は無一文でした。

　さて、田中正造記念館の正式名は「足尾鉱毒事件田中正造記念館」で、館林市足次町の旧渡瀬保育園の空き室を改装して平成18(2006)年に開館しました。当時は40㎡の小規模施設でしたが、手狭になったため平成25(2013)年に現在地へ移転、面積は約４倍となったのです。
　NPO法人「足尾鉱毒事件」が管理運営し、当時の写真や資料によって足尾鉱毒事件や田中正造について学ぶ事とが出来、今まで出版された事件関係図書も揃えられています。