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2023年03月27日04:57

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ゼロ戦を語る米軍兵士


米軍兵士が語る。今、思い返してもあのゼロ戦には悪魔が乗っていたと思う。コクピットには、人間ではなく悪魔が乗っていたのだと思う。ゼロ式戦闘機は低空ギリギリにやって来た。ほとんど海面すれすれだった。しかも空母の真後ろからです。

米軍の空母は近接信管付きの砲を撃ちまくったが、海面が電波を反射して、目標に到達する前に爆発してしまう。ゼロ戦は、近接信管の弱点を知っていたのだろうか。しかし近接信管が駄目でも、近づけば機銃がある。この頃、エセックス級の空母にはおびただしい数の対空砲と機銃が備えつけられていた。

五インチ砲十二門、四〇ミリ機銃七十二挺、二〇ミリ機銃五十二挺、まさにハリネズミ状態です。このハリネズミに噛みつくことは不可能です。ゼロ戦が4000ヤードまで近づいた時、四〇ミリ機銃が一斉に火を噴いた。たった一機の飛行機に何千発もの機銃弾が撃ち込まれるのです。

機銃ごとに色違いになった無数の曳痕弾がゼロ戦に向かって飛んでいく。ついにゼロ戦が火を噴くのが見えた。やったぞ、と叫んだ。黒煙を吐いたゼロ戦はいきなり急上昇した。機銃員たちは慌ててその後を追ったが、鋭い動きについて行けなかった。ゼロ戦は燃えながら上昇し、機体を捻って背面になった。

そして空母上空に達すると、背面のまま、逆落としに落ちて来た。米兵士たちはなす術 もなく、悪魔が上空から降りて来るのを見ていた。あんな急降下は一度も見たことがない。いや、燃える飛行機にあんな動きが出来るのか。ゼロ戦はまさに直角に落ちて来た。命中の瞬間、米兵士は目をつむった。ゼロ戦は飛行甲板の真ん中にぶつかった。

ものすごい音がしたが、爆弾は炸裂しなかった。不発だったのだ。ゼロ戦は甲板の真ん中で燃えていた。周りには飛び散ったゼロ戦の破片が散乱していた。後になって何人かの水兵に聞いたが、ゼロ戦は甲板にぶつかる直前、翼が吹き飛んだという。俺たちは全員、声も出ないほど震えていた。

甲板にゼロ戦のパイロットのちぎれた上半身があった。それは悪魔ではなかった。俺たちと同じ人間だった。誰かが大声で叫びながら、その死体に拳銃を撃った。甲板の火はまもなく消し止められた。そこに艦長が降りてきた。艦長は半分にちぎれた遺体をじっと見ていたが、その遺体に向かって言った。

「我が軍の優秀な迎撃戦闘機と対空砲火をくぐり抜け、よくぞここまでやってきた」その思いは俺たちも同じだった。このゼロは、俺たちの猛烈な対空砲火を見事に突破した。「我々はこの男に敬意を表すべきだと信じる。よって、明朝、水葬に付したい」この男の爆弾が不発でなかったら、我々の何人かは死んでいたかもしれないのだ。

しかし艦長は我々を睨みつけた。それは「この決定には口を挟ませないぞ」という目だった。われわれは飛び散った遺体を集めた。その時、誰かが日本兵の胸ポケットから一枚の写真を取り出した。「赤ん坊だ」その声に、皆が写真を覗き込んだ。俺も見た。着物を着た女が赤ん坊を抱いている写真だった。「くそっ。俺にもガキがいるんだ!」

ルー・アンバーソン曹長が吐き捨てるように言った。それから写真を丁寧に遺体の胸ポケットに返した。そして部下の水兵たちに言った。「一緒に葬ってやれ」遺体は白い布でくるまれ、艦橋下の待機所に安置された。俺は遺体をくるむ時、パイロットの開いていた目を閉じてやった。怖かった顔が優しい顔になったのを覚えている。

ゼロ戦の残骸は海に投棄された。コックピットに残っていた遺体の半分は取り出すことが出来ず、そのまま投棄された。ゼロ戦が抱いていた爆弾も信管が抜かれ、同じように投棄された。翌朝、手空きの総員が甲板に集まった。今では、あの時の艦長の態度は立派だったと思っている。艦長の息子は真珠湾で戦死したと知ったのは戦後だ。

それを聞いて、尚のこと、あの時の艦長は立派だと思った。一夜明けると、我々のほとんどが、この名も知らぬ日本人に敬意をいだいていた。特にパイロットたちは、彼に対して畏怖の念さえ持っていたようだ。彼らが言うには、ゼロ戦のパイロットはレーダーに捕捉されないように何百キロも海面すれすれを飛んで来たのだろうということだった。

それには超人的なテクニックと集中力、そして勇気が必要だということだ。「奴は本物のエースだ」とカール・レヴィンソン中尉が言った。レヴィンソン中尉は「タイコンデロガ」のエースパイロットだった。多くのパイロットが頷いた。「日本にサムライがいたとすれば奴がそうだ」俺もそうだと思った。

しかしこのパイロットがサムライなら、俺たちもナイトでありたい。手空きの総員が甲板に整列する中、弔銃が鳴り響いた。艦長以下士官の挙手の礼に送られて、白布でくるまれたパイロットの遺体は道板から海中に滑り落とされた。鎖の錘をつけられた遺体は、ゆっくりと海の底に沈んでいった。

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