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2022年12月12日17:05

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【映画】『グリーン・ナイト』再見

『グリーン・ナイト』再見。
 
 
やはり目覚めながら見る夢のような映画。何から何まで好みであり、「自分にとって理想の映画」という意味で1つのスタンダードとなりうるほどの作品だ。ただその辺の魅力については最初の観賞時に語ったので、今回はテーマ的なものについて。
初見の後いろいろ調べたのだが、原作『ガウェイン卿と緑の騎士』とは設定や展開そのものが違う部分があるだけでなく、同じような展開でも意味することがかなり変えられているように思える。では「一炊の夢」など中国の故事を思わせるような終盤で、この映画は何を語ろうとしたのだろうか?
 
 
以下は完全にネタバレで書いていくので注意。まあネタバレとか本当にどうでもいい作品だとは思うけれど。 
 
 
この作品を貫く最大のテーマは、ずばり「死の受容」。「死を受け入れてこそ生がある」ということだと思う。
物語は、「1年後に同じ傷を負うことと引き換えに名誉と戦斧を得る」という約束のもと、ガウェインがグリーン・ナイトの首を切り落とすことから始まる。この首切りゲームの不条理さが理解できないのは前回書いたとおりだが、実はこれは人生そのもののメタファーではないのか?と思えてきた。
人は一度生まれたら必ず死ぬ。それが1年後か数十年後か分からないが、100%確実に、逃れようもなく死ぬ(首を切られる)。しかし生きている間は、勇気があれば生の喜び(名誉と戦斧)を得ることも可能だ。逆に言えば「生の喜びを得るための条件として、逃れ用のない死がある」わけだ。
 
ここで鍵となるのが、緑の腰帯だ。それを身につけていれば傷つかないという腰帯。しかし「1年後に同じ傷を負うこと」という約束がある以上、本来それを身につけることはルール違反だ。しかもガウェインは、それを身につけながら、なお首を切られる恐怖にひるむ。彼はどこまでも「死」を拒絶する。
しかし彼は死を前にして、まさに一炊の夢のごとく「この場から逃げることで、今後ありうるであろう人生」を幻視(体験)する。そこで彼はおじアーサーの王位を継ぐものの、息子を戦いで失い、民衆の不興を買い、国が滅亡に瀕するなど、偽りによって得た名誉(=不名誉)がもたらす人生の悲劇を味わう。そして幻視の末に、彼はいかなる時も外すことがなかった緑の腰帯を外す。するとガウェインの首が切れて転がる。それははるか以前にグリーン・ナイトによって切られるべきだった首であり、その運命を甘受することなく誤魔化し続けたが故に、周りにも不幸をもたらす不名誉な死を迎えたのだ。
この幻視の後、ようやくガウェインは死を受け入れる覚悟を決め、緑の腰帯を外し、グリーン・ナイトの前に首を差し出す。一度生を受けたものには、その代償として必ず死が待っている。その運命に従うことにしたのだ。するとグリーン・ナイトは、表情を和らげ、「首と共に立ち去るがいい」とガウェインの首を切らず、生きていくことを許す。これは形式的な面で言えば、幻視の中で首が切り落とされたので約束は果たされたということだろう。「二重処罰」が科されることはないというわけだ。
だがそれ以上に重要な寓意は、ガウェインが幻視の中で、死を拒絶したまま不名誉に生きることの虚しさを理解し、死を受け入れる覚悟をしたことで、逆に生きる権利を獲得したということだ。死を受容すること無しに、真の生を得ることは無いという真理…これこそ彼が冒険の果てに得た最大の宝だ。
 
このような視点で、あらためてガウェインの旅を俯瞰すると、「死の拒絶」と「死の受容」の間で何度も揺れ動いた末、最終的には、死の受容によって逆説的に生を獲得するまでのプロセスであったことが分かる。ウィキペディアで確認しただけだが、原作『ガウェイン卿と緑の騎士』は、ほとんど同じ要素で構成されているものの、特に終盤の展開が大きく違う。あくまでも映画を独立した物語として見た場合、上記のような解釈が妥当に思える。
 
しかしまたもや「死の受容」…『川っぺりムコリッタ』『マイ・ブロークン・マリコ』『生きるLIVING』『未来惑星ザルドス』『すずめの戸締まり』『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』『土を喰らう十二ヵ月』『千夜、一夜』『アフター・ヤン』と、最近そんな映画ばかり続くのは何の偶然なんだ! 
 
だがそのようなテーマ以上に、『グリーン・ナイト』の最大の魅力が、見果てぬ夢のようなイメージの連続にあることは間違い無い。生と死、現実と幻想の境界を曖昧にし、時間の観念さえも溶かしてしまう映画の魔術。今後、残された人生の中で何度も繰り返し見ることになるであろう作品と出会うことができた。

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