ナイス・レイシズム
（副題）なぜリベラルなあなたが差別するのか？
ロビン・ディアンジェロ著
甘粕智子訳
出口真紀子解説
明石書店
買ってから気付いたのですが、前著でベストセラーの「ホワイト・フラジリティ」に続く同テーマの第二弾のようです。前著を読まないと理解できないのかなと思いつつ読み始めましたら、そこは配慮されているようで大丈夫でした。著者はカバーのプロフィールによりますと「批判的言説分析と白人性研究の分野」が専門だそうです。批判的言説分析って何かなと思いググってみました。言説と差別や権力の構造の関係を研究するのはなかなか興味深いですね。「言葉は中立ではない」（P２１）という立場の方です。
本書の多くは、著者と仲間が反レイシズムのワークショップ等の活動から得られた経験を元にしていて、とてもリアルです。副題にあるように、白人の無自覚なレイシズムを分析して改善していこうというのが目的です。時に、白人である著者自身の誤った発言によって黒人を傷付けてしまい悲しみにくれる、反省する、といった場面もあります。その姿勢は徹底していて、白人の差別的な発言や行動だけでなく、内面の偏見までも消し去ろうとしているようです。
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白人の大半にとって黒人と持続的な交流関係を持つことはまれだが、黒人の方は自分たちの生活の多くの面を支配する白人たちと毎日のように接しなければならない。レイシズムをなくすなんて簡単だ、互いに相手をよく知りさえすれば解決すると主張する人々がいるが、私はそうは思わない。相手のことをよく知る人々もまた、人種差別をし、人を傷つけているのだ。レイシズムをなくす基本は、ラディカルな関係性―すべての生き物は相互につながっており、独立しては存在していないという認識に基づく解放運動―だというのが私の主張だ。
・・・・・（P４９〜）「すべての」に傍点
という主張です。この白人と黒人が接する非対称性は、支配／被支配の関係から生じているのでしょうか。
著者の定義するレイシズムには、あからさまな差別発言や、賃金や福祉等の差別だけでなく、なんと、白人が黒人（や先住民や非白人）を賛美する事や、白人が黒人に優しくする事も含まれます。また、傷付けてしまった相手に赦しを求めるのは相手の負担になるので止めるべき（P１７３〜）という徹底ぶりです。確かに、他者の肌や髪、容姿に言及するのは避けるべきだという指摘はよく聞きます。しかし、本書においては、容姿以外の「わあ、話がお上手ですね！」も禁止（P１７８）で、何であれ、白人が黒人を褒めるのは差別的だとしています。白人は白人であるだけで制度的に黒人を差別しているのだから、賛美も優しくするのも差別である、というのが、本書全体を貫いているロジックです。一般的なレイシズムの定義とはかなり違うのではないでしょうか。ですから、著者達が行っているワークショップ等における参加者である白人の反発や不理解の例がたくさん挙げられています。本書はあくまでも、そういった「自分はレイシストではない、むしろ反レイシズムに熱心な、進歩的な白人である」という人達の欺瞞を暴き気付かせるのが目的ですので、日本人が（たぶん）興味を持っている、白人と黄色人種や黒人と黄色人種の間にある差別、白人同士の差別、については扱っていません。ただ、アメリカの白人の階級問題については、
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私は、階級差別に集中して取り組めば、同時にレイシズムに対処できるとは主張しない。メツルが論じているように、非白人に対する反感は、貧しい白人に階級的な抑圧を受け入れさせ、それに耐えさせるよう仕組まれているものであり、両方同時に取り組むしかない。（後略）
・・・・・（P２６５）
と指摘しています。
本書の文中や巻末にある内省やディスカッションの具体的なテーマは、主に白人向けではありますが、差別に無自覚な日本人がやっても気付きがあると思います。ただ、日本では国籍や所属コミュニティに基づく差別はありますが、人種（肌の色）による差別はほぼ存在しないので、ちょっと応用力というか想像力が必要かもしれません。
�勝並茖隠鮎蓮砲砲�ける著者の恵まれない生い立ちと白人女性である事の原罪意識はかなり心にきます。このパートを冒頭に持って来る方が良かったかも？と思いました。ただ、この原罪意識を白人全体に広げる事が反感を呼んでいるのではないかと感じています。また、私は「内面の偏見は無くせない派」ですので、仮に人種的な偏見に囚われているのだとしても、言葉や態度に出さないように努力する事が大切だし、不注意で偏見が漏れてしまっても、それはお互い様なので赦し合う社会の方が健全だと思います。たぶん、アメリカ社会はそれが不可能なくらい、差別の歴史が人々の間に根付いてしまっているのでしょう。そういう学びも得られました。
蛇足
解説者が、日本人が本書を読む必要性として、「日本人は、アジアにおいて人種・民族的ヒエラルキーの頂点に立っている」としていて驚きました。ずいぶん古い認識ではないでしょうか。中国人や韓国人に知られたら鼻で笑われると思います。また、ロシアがアジアの国である事も忘れているのでしょうかね。
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