8月5日、豪雨を押し切って初日に駆けつけた。ユナイテッド橿原、客は10人ほど。
傑作『バッド・ジーニアス』以来、バズ・プーンピリヤ監督は私のアイドルだ。
公式
https://gaga.ne.jp/puan/
予告編
https://youtu.be/CcZkHdfus_A
公開直前にたまたまYouTubeで予告編を見て「絶対に観る!」と決めた。
※以下、ネタバレ全開のあらすじと感想です!
NYマンハッタンでバーを経営し、享楽的な生活を送っているタイ人のボス(Boss)。
ある日、彼のもとに、タイに戻ったウード(Aood)から数年ぶりに電話が入った。
「白血病で余命宣告を受けたので、最期の頼みを聞いてほしい」という。
バーを閉めてタイに駆けつけたボスが頼まれたのは、ウードの元恋人たちを訪ね、思い出の品を返す旅の運転手役だった。
「俺は父親に最期の挨拶をしなかったからさ。葬式に出なかったことも後悔している」と言われると、思いが残る元カノたちに今生の別れを告げたいという病人のワガママな願いを無碍にできない、お人好しのボス。
ウードは、やはり癌で亡くなった父の車に、父がDJをしていた音楽番組の録音テープを積み込んだ。スマホのアドレス帳にある元カノの居所をボスに伝え、「病気の件は元カノに絶対秘密」と口止めする。
古いBMWのカーステから流れる曲は、2人がまだ親友だった頃の記憶を呼びさます。
(この映画に使用された楽曲のプレイリスト。懐かしさを感じさせる洒落た選曲)
https://www.youtube.com/watch?v=jOxHsuV83KA&list=PL1qRJSliguntBPksY7DBdkH3cZj9arJVd
1人目の元カノはダンサーのアリス。長年預かっていたピンクのバッグを返し、円満に別れることができた。
ウードはミッションを遂げるごとに、相手の名前をスマホから消していった。
(表示画面には「Alice」「Boss」「Dad」の名が並んでいた)
2人目の元カノは女優のヌーナー。(『バッド・ジーニアス』の主演女優)
NY時代に出会った頃は駆け出しだった彼女は、タイ映画で主演を張るまでになっていたが、撮影で壁にぶち当たっていた。
取りつく島のないヌーナーに、ウードが話しかけるチャンスを作るため、ボスは一計を案じて撮影を中断させた。おもちゃのオスカー像を返そうとするウードに対し、精神的にいっぱいいっぱいのヌーナーは怒りを爆発させ、オスカー像を投げ捨てる。が、そのお陰で迫真の演技ができ、ケガの巧妙で高い評価を得る。
その夜、川辺のレストランで強い酒を飲みまくり、へべれけになったボスはトイレで吐くが、ウードも血を吐いて意識を失う。ウードの体調悪化を心配するボスを押し切り、2人はアポを取っていたルンの自宅へ向かう。
3人目の元カノは写真家のルン。NY時代に結婚寸前まで行ったが、彼女は突然タイに帰国した。その後、ルンは裕福な白人と結婚し、一女をもうけた。
ウードらは幸せな再会を夢想するも、現実はルンに居留守を使われた。責めるボスに、ルンは「一方的に押し掛けられる側の気持ちを考えてない!」と逆ギレする。NYで2ショットを撮ったフィルムは渡せず終いだった。
その後、ウードは「親父の墓参りをしたい」とボスに頼む。
草深い墓に参り、金属の骨壺を持ち出したウードは、広い川を渡る橋の上で散骨する。
夕方のセンチメンタルな情景と、風に吹かれて消えていく骨粉の儚さが切なかった。
「これでいいんだ」 父を弔う心残りに片をつけたウードは満足げだった。
彼はスマホから「Dad」を消した。
最初はチャラ男にしか見えなかったボスは、実は人情深くて本当に良い奴だった。
逆に、一見地味なウードが、実はとんだモテ男だったことに私は驚かされた。
(骸骨みたいな頭にカツラと帽子を被った瞬間「イケメンじゃん!」と思ったが)
だって、元カノが「ダンサー」「女優」「カメラマン」だよ? 派手すぎる!
単に「DJの息子」だけでここまでモテるか? ウードはいったい、何者なの??
いろんな意味で、ボスとウードは対照的だった。
ここまでが【A面】=「Aood(ウード)の過去を巡る旅」。
ウードは「せっかくここまで来たのだから、母親に会っては」とボスに促す。
ボスの母親は、超高級リゾートホテル経営者の後妻に収まっていた。
贅沢なスイートルームに落ち着くと、ボスはウードをバーに誘った。
そして、「アリス」「ヌーナー」「ルン」をイメージしたオリジナルカクテル(どれも趣向が凝らしてあって美しかった!作る手さばきも良かった)を振る舞った。
心残りに決着をつける旅の打ち上げをしよう、という粋な計らいだった。
しかし、ウードは突然こう言い出した。
「本当の目的は違うんだ。大事な秘密がある」
「お前にも返したいものがあるんだ」
そして、ボスに「4杯目」をリクエストした。「ニューヨークサワーを」と。
ニューヨークサワーは、プリムとの思い出の味。
彼女は、ボスにとってもウードにとっても、忘れられない元カノだった。
(余談だが、元カノは後に登場する人ほど魅力的だった。プリムはまさに真打)
カセットテープが裏返り、【B面】=「Boss(ボス)の過去を巡る旅」が始まる。
母親が富豪と結婚する際、ボスは義家族に「弟」と紹介されていた。
秘密を抱えるボスは家族の中に居場所がなかった。
彼は当時まだ未成年だったが、憂さ晴らしにホテルのバーへ行き、酒を注文する。
それを上手にいなした美人バーテンダーが、後に彼の恋人となるプリムだ。
彼女が最初に覚え、ボスに初めて出したカクテルが、ニューヨークサワーだった。
店内にはシナトラの「One For My Baby (And One More For the Road)」が静かに流れていた。(この歌詞を知っていたら心憎さに痺れること請け合い!)
歌詞解説
http://www.fujiura.com/fgod/songs/oneformybaby.htm
喪失感で鬱屈した酔っぱらい男を程よい距離で労るような、優しく小粋な曲調。
孤独とやるせなさで荒れているバズの姿は、曲の主人公にオーバーラップする。
男は、酒場で愚痴を長々と吐き出して自分をなだめ、ようやく立ち直ってきた。
カーブや坂、凸凹、ぬかるみもある、長い人生の旅路へと、また歩み出していく。
俺のワガママに付き合って、聞いてくれてありがとう。お陰で気持ちが収まった。
バーはただの「酒を飲む店」ではなく、辛い人生の休憩所だ。この旅路に、乾杯。
プリムはボスに夢を語った。彼女の亡父はNYでバーテンダーをしていたという。
「いつかNYで自分の店を持ちたい。店名はもう決めているの」そう言って、
「One For The Road(この旅に乾杯)」と大書したコースターをボスに示した。
見た瞬間、これが映画のタイトルでいいじゃん!と私は思ったが、帰宅して調べたら
原題はズバリ『One For The Road』だった。爆
えー、なぜ『プアン』にしたの?? 絶対『One For The Road』が良かった…。
ボスとプリムの関係はどんどん深くなっていった。
食事の席で、高校卒業後のボスを海外留学(という名目の厄介払い)させる話が出ると
ボスは進んで「大学で学ぶより、NYへ行ってバーをやりたい」と申し出た。
もちろん、プリムと一緒に、という目論見だ。
2人はウードの母親が手配したマンハッタンの高級アパートで暮らし始める。
けれど、NYの物価は高い。
生活のため、就労ビザを持たないプリムはタイ料理店で必死に働くしかなかった。
一方のボスは、子供気分が抜けないのか、必死に働いている様子はなかった。
ウードはタイ料理店の先輩従業員だった。彼はプリムに恋心を抱くようになる。
プリムにバーテンダーの仕事を紹介し、彼女がボスと喧嘩すると自宅に住まわせた。
(ボス母はプリムにこっそり多額の送金をしていた。それを知ったボスは激怒した)
バーテンダーのコンテストに出場するため、練習で1ヶ月ほどシフトを減らしたいとプリムが相談した時も、自分がシフトを代わってやるとウードは彼女を応援した。
(ウードは優しいマメ男、こりゃモテるわと納得。対してボスは子供っぽい)
1ヶ月後、プリムはウードの部屋からコンテストに旅立とうとしていた。
好成績を祈り、上等な日本製シェーカーを贈るウード。すっかり彼氏気分だった。
なのに、プリムは「私たちは【友だち】でしょ」とつれない。シェーカーも拒んだ。
「そりゃないぜ!」
「1ヶ月も俺のベッドで寝てたのに! このシェーカーも高かったのに!」
ウードの情けない恨み言は、驚くほどにリアルだった。
(女の気持ちも分からなくはないが、「ちょっと虫が良すぎ…」と私は思った。
でも、実際の若い子たちってこんな感じだよなー、リアルだわ…とも思った)
後でインタビューを読んだら、この作品は「ほぼ俳優のアドリブだった」とのこと!
仰天の演出手法だ。役者たちも凄い。
https://ananweb.jp/anew/431431/
ウードはある日の仕事終わり、姿を消したプリムを探して落ち込むボスと出会った。
「彼女はバーテンダーの白人彼氏と一緒に遠くへ行った」と、ボスに嘘をついた。
その後、地下鉄で強盗に遭い、線路に投げ出されて意識を失ったボスを(迷った末に)助けたウードは、誘われるままボスの高級アパートに転がり込んだ。「親友」として。
「金持ちの生活を覗いてみたくなったから。俺は、お前に嫉妬していたんだ」
死期が迫ったウードは、ボスに懺悔した。
結局、ウードはルンの後を追って突然タイに帰国し、ボスの店を手伝う約束を開店直前に裏切ってしまった。それ以来、数年間も音信不通だった。
最後にして最大の心残りをなくすため、ウードはボスにメモを渡した。
「プリムはタイに戻っている」「会ってくれるかな」「きっと会ってくれるよ」
ウードの真の目的は、男の友情を取り戻し、友が失った幸せを償うことだったのだ。
その3ヶ月後。(NYの街を俯瞰、道路に白でデカデカと「3 MONTHS LATER」)
ボスはNYへ戻り、バー経営を見事に黒字化。母親の顔を立て、窮地を際どく脱した。
リゾートホテルを独りで満喫しきったウードは、父の愛車で出立した。
ボスとのわだかまりを解消できてやっと心が晴れたウードは、それまで頑固に拒んでいた化学療法に取り組むと宣言したが、既に手遅れだった。
ボスはパタヤビーチで移動型バー(キッチンカー)を営業しているプリムと再会。
ニューヨークサワーをオーダーし、2人のヨリはめでたく戻った。美しい夕景。
ラストに流れる主題歌「Nobody Knows」が甘酸っぱくほろ苦く心に沁みる。
それはきっと、ニューヨークサワーの味。
https://www.neol.jp/culture/31776/
(白いBMWのハンドルを握っているのがプリム役のヴァイオレット・ウォーティア)
エンドロールの冒頭、黒バックに白文字で「For Loyd」とクレジットが出る。
彼はプーンピリヤ監督の友人で白血病患者、ウードの演技指導をしたという。
残念ながら、ロイド氏は映画の完成をみることなく、この世を旅立った。
そう、この作品はプーンピリヤ監督自身の「実人生を投影した」物語なのだ。
プーンピリヤ監督は、首都バンコクでバーを経営するほどのカクテル好き。
そして、「元カノへの懺悔旅」は、監督自身も行ったことだそう。
(この映画を作るにあたり、ウォン・カーウァイPから勧められたという。
元カノたちを作品のモデルにすることについての許可どりを兼ねていたようだ)
それにしても、ボスとウードを演じた俳優たちは素晴らしかった!
ウード役は瀕死の病人に見えるよう「17kgも減量」し、
ボス役はウードの痩せっぷりが際立つようにと「15kgも増量」したという!
2人ともモデルだというが、それでも15kgもの体重コントロールはエグ過ぎる…。
全編ほぼアドリブでやり遂げた件も凄いと思うし、本当に自然な演技だった。
本国タイでNo. 1ヒットしたというのもうなずける。
日本では「ウォン・カーウァイ製作」ばかりが大きく宣伝されているけど、
皆そろそろ「バズ・プーンピリヤ監督」を覚えましょ。お願いします、覚えてね。
本作はひねった構成の上、フラッシュバックや幻想シーンがバリバリ入っているため、少々分かりにくいかもしれないが、それを補って余りあるセンスの良さを感じる。
要するに、「とにかく私はめっちゃ好き!」「皆に見て欲しい!」と言いたい。笑
客観的に評価すれば、『君を想い、バスに乗る』の方が断然分かりやすいし、
『ドライブ・マイ・カー』の方が賞レースでは高い評価を得ている。
でも、とにかく斬新でカッコいい!から、贔屓の引き倒しで★5をつけました。笑
https://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=1833905&id=5365978
今、アジアで一番おしゃれな映画。
そして、「1本で2本分楽しめる」凝った作品だ。
バズ・プーンピリヤ監督の名は絶対覚えておいた方がいい。
前作『バッド・ジーニアス』とは系統こそ全く違うが、スタイリッシュな感覚は健在。しかも今作は「監督の半自伝的な物語」とのことで、ノスタルジックでエモーショナルな青春ロードムービーに仕上がっている。バズ監督はさぞモテるだろうなー!と得心すること請け合い。
俳優は美男美女揃い、映像は完璧、音楽も趣味が良くて、本当に心地よかった。
場面転換時の編集方法(音だけ先に次のシーンへ行く)はテンポ良くスタイリッシュで、129分の尺にこれだけ沢山のエピソードを詰め込んでも無理が生じないのは流石だと感じた。
ただ、好き嫌いは分かれるかも。ノリに着いてこれる人だけが感動&絶賛する秀作。
監督インタ
https://ananweb.jp/anew/431431/
キャスト紹介
https://dolly9.com/puan-cast-arasuji/
映画.com編集部の見どころ解説
https://eiga.com/movie/97180/special/
場面写真による作品裏話解説
https://www.cinemacafe.net/article/2022/05/25/78963.html
バズ役/トー・タナポップについて
https://www.cinemacafe.net/article/2022/07/11/79753.html
ウード役/アイス・ナッタラットについて
https://www.cinemacafe.net/article/2022/07/26/79983.html
https://eiga.com/news/20220715/3/
ネタバレあらすじ
https://cinemarche.net/drama/puan-tomodatitoiwasete-sakura/
Filmarks レビュー
https://filmarks.com/movies/103132?page=1
映画.com レビュー
https://eiga.com/movie/97180/review/
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