※画像は先日行った神田川沿いの江戸川公園の桜
東京の桜が満開である。
コロナ禍で迎える3回目の桜の季節である。
桜はやはり美しい。特に「花の雲」のように桜が爛漫と咲き乱れ雲がたなびくように見える様はなんとも言えない迫力と風情がある。
花の雲鐘は上野か浅草か 芭蕉
この桜の姿を見ると「また一年、桜の咲く季節まで生きてこられた」という何とも言えぬ感慨が湧いてくる。
しかし、今年の花見もマスクを着用し、飲酒を伴った宴会禁止の寂しい花見である。
花見とは日頃の鬱屈を吹き飛ばす日本人にとっては大事な「ハレ(晴れ、霽れ)」の行事である。
参考
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【ハレとケ】
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AC%E3%81%A8%E3%82%B1
早く大手を振って桜の木の下でお花見を堪能したいものである。
この桜の「ハレ」を迎えつつも憲さんにとっては陰鬱な「ケ(褻)」の日常が始まろうとしている。
すったもんだの末に一年遅れでコロナ禍で強行された東京オリンピックだが、その後始末の仕事の依頼が憲さんの会社にも案の定きた。
東京臨海部の晴海にある選手村の建物をマンションの内装に替える工事である。
先日二日ばかり行ったのだが、現在、将来マンションの住戸になる各戸の部屋の間仕切の壁などを解体して搬出している。
今回の選手村は将来マンションに転用する(これを『レガシー(遺産)』と呼ぶ)ように設計されており、オリンピック、パラリンピックの期間のみ、各国の選手を受け入れる選手村として活用する(これを「オリパラ」と呼ぶ)のである。
それは将来住戸となるコンクリートの戸境壁で区切られた空間を、さらに間仕切りでいくつがに区切ってその空間に何人かの選手が寝起きする空間を作るのである。
しかし、当然それは簡易宿泊施設のような空間に過ぎず、そこにはトイレとユニットシャワー等があるのみでキッチン等はなく、なので選手村として用を足してしまった後には改めて各戸の中にある特殊なレイアウトの間仕切りを壊して、新たに家族が住めるマンションのレイアウトの間仕切り壁を構築しなくてはならないのである。
憲さんの仕事はその間仕切の壁の墨(設計図通りの線)を新たに置き床の上に出すミッションである。
これは憲さんの職歴の中でも始めてのミッションだ。
というのも、何もないまっ更な置き床に間仕切の墨を出すのならいつもやっていることだが、いくつかオリパラ仕様とレガシー仕様で共用できる水回りのパイプスペースなどの壁を残したまま、それに合わせて墨を出すという特殊な作業は空前絶後の作業であり、今までやったことがないからである。
それも、今回の工事はそれでなくても一年オリンピックが遅れた故にマンション購入者との間でゴタゴタが起きていると聞き及んでおり、結構スケジュールもタイトに組まれていると想像出来る。
参考
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五輪延期に伴う選手村マンションの引き渡し遅延、購入者による集団訴訟に発展
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/01369/
このような状況の中、この特殊なミッションに憲さんが投入されたのである。
否応なく“憂鬱感”が高まるのは当然であろう。
そんな現場に昨日、一昨日と本来の作業ではない仕事を兼ねて先行して下見がてら行ってきた。
憲さんは第一次工事(本来の躯体を作り、オリパラ仕様の内装を作る工事)にも来ていたので、久しぶりに合う職人も多く、同窓会のような雰囲気であった。
また、監督は上層部はほとんどそのまま変わらないのであるが、主任以下の若い監督は総入れ替えされていたようである。
そんな中、今回憲さんの会社に声をかけてくれた監督が一次工事からいるI監督である。
この現場、一次工事の時から朝礼で監督が一人ずつ持ち回りで訓話を話す慣わしがある。
そして、昨日の朝礼はこのI監督の順番だったようだ。
朝礼台に上がったI監督は「いつもは仕事や安全のことを話して堅苦しい話が続くので、今日は季節柄桜の話をします」と言って話し出した。
そして、この現場の中庭にある桜も満開に近づいていることを指摘し、日本で一番定着している“ソメイヨシノ”の事を話始めた。
参考
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【ソメイヨシノ】
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%A8%E3%82%B7%E3%83%8E
桜マニアの憲さんにとっては、とても嬉しい展開である。
そして、I監督はソメイヨシノが江戸時代に江戸の“染井村”で品種開発されたこと、エドヒガンとオオシマザクラの交配種であること、全てが接ぎ木によって増えたクローンであること、それ故ソメイヨシノ同士では結実しても種子が発芽に至ることはなく、ソメイヨシノ以外のサクラとの間での交配は可能であること等を話していた。
ちなみに、これらの話しは“桜マニア”の憲さんにとってはどれも知っていることである。
参考
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憲さん随筆アーカイブス 彼岸の花見 勝木俊雄著『桜の科学』を片手に〜
https://hatakensan.cocolog-nifty.com/blog/2021/10/post-d5c34f.html
しかし、いつもはそれこそ「堅苦しい」作業の話や安全の話を聞かされている者としてはとても新鮮に感じられた訓話であった。
新鮮過ぎて、I監督がどのようにこの話をまとめたのかは失念してしまったくらいである。
しかし、これから陰鬱な「ケ」なる作業に入っていく身にとっては少しは気持ちも安らぐ 訓話であったことは間違いない。
これから、どう作業を進めるか考えただけでも陰鬱になる。
早く終わってほしいと願うばかりだ。
桜が散り終わった頃には憲さんは「ケ」なる作業の日々を過ごしているのであろう。
(´Д`)=*ハァ〜
どーよっ!
どーなのよっ?
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