mixiユーザー(id:1742111)

2022年01月15日11:47

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人の個性に優劣なんか無いように、絵というものにも本来は優劣など無い。絵の上手い下手は優劣と無関係だ。・・というのが芸術の話。それとは全く逆に上手い下手によって優劣が決まるのが職人の世界。職人は寸分違わず同じものを作れなければならない。お手本どおりに出来るほど優れたものとなる。芸術家と職人は対極にいる。この二つを混同している人があまりに多いのでアートの話はやたらとややこしくなる。だもんで僕はほんとはその手の話をあまりしたくない。

中谷宇吉郎が随筆「ディズニーの人と作品」(1955年)の中で、ディズニー映画のアニメーターを「精密機械の歯車のような画工」と的確に表現している。ウォルト・ディズニーは芸術家だが、ディズニーアニメを描いているのは職人なのだ。ある意味ディズニーにとってアニメーターひとりひとりは単なる画材にすぎない。

僕の昔の友達(故人)にアニメーターがいた。今でも名前を検索すれば彼の参加したアニメのデータが出てくる(それぞれ結構有名なアニメらしいが僕はアニメを全く知らない)。彼の描いた漫画をいくつか見たことがあるけど、いかにもアニメ画を描きそうな上手い絵だなあという印象を持った。あるとき僕らはグループ展をやることになったのだが、彼の用意した絵がアニメ画とは全く違ったものだったので、なんだか意外に思えた。当たり前といえば当たり前かもしれないけど(アニメ仕事は生活費を得る為の労働だし)、いかにもな感じのアニメちっくな絵しか見たことが無かったので、意外だったのだ。その絵で初めて彼という人物を見たような気がした。職人芸としてのアニメ画と、芸術としての絵画の違いということだ。

ところで、いつのころからか画伯という言葉の意味が変化して今では下手すぎる絵を描く人という意味になったわけだが、画伯の絵は上手い絵よりもよっぽど魅力がある。上手い絵というのは、「上手い」というところからも分かるように要するにどこかにお手本があるのだ。つまり職人芸なのだ。それに対し、画伯の絵は一応「下手」という価値基準で計られるものの、自由すぎてお手本など関係無い次元に位置する。お手本からの距離があまりに遠く、その距離感に個性らしきものが立ち現れる。そこが面白いのだ。画伯の絵は真面目に描いてあればあるほど面白い。

ところで僕の妻は毎年年賀状のために干支の動物の絵を一日がかりでリアルに描く。もともと結構な画伯なのでリアルに描くのにものすごい時間がかかる。で、その画伯、年末にトラの写真を見ながら丸一日かかって丹念に描いた絵がマントヒヒそっくりになってしまい、納得がいかずにひとりで大騒ぎして荒れていた。僕はそのマントヒヒが結構気に入っていたのだが、本人は本当に納得いかないらしく次の日に一日がかりで修正して完成させて満足気であった。見ればきちんとトラになっている。しかしやっぱり僕はあのマントヒヒの方が魅力的だったなあと思うのだ。
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