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2020年12月31日09:14

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連載小説第3弾 淋しい生き物たち − 誰か私の小説を読んでください 第47話

【連続ブログ小説 第24話】

「すみませんでした。くだらない年寄りの繰り言を長々と。あなたに聞いていただいたおかげで少しすっきりしましたよ。ありがとうございました」
「それはお役に立てて何よりですわ。でも、不可思議なものは不可思議なままなんですわね。忘れておしまいなさいなと言っても消し去ることのできない。
 でもそれはそれとして、あなたが初恋の話をなさった孫娘さんも今は大きくなっておられるんでしょうね」
 不自然な話題の転換は、もしかしたら少女の気遣いだったのだろうか?
「はい。もう高校生になっています。未だにこんな老いぼれを慕(した)ってくれて、私も可愛くてしかたがないんですよ」
「それじゃ、そのお嬢さんのお話も少し聞かせてくださいな」
「あなたさえよかったら喜んで。
 孫は高校で文芸部に入っていましてね、今、初めての小説を書いているんですけど、それが何と、たった今あなたに聞いていただいた、大昔の私の初恋にまつわる話を題材にしているんです」
「まぁ、素敵だこと。おじいさまと孫娘さんと、二代続き、ではありませんわね。隔世二代にわたる、同じ題材の物語って」
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 孫娘は数日前から、書きあがった分だけを毎日少しずつ私に読ませてくれる。それは遺された日々の中の至上のひとときだ。正直なところ、上手いとか拙いとかの判断はできない。愛してやまない孫娘が認(したた)める、私を題材にした小説など、あまりにも情緒的に過ぎ、感情を移す部分が多すぎて、冷静に評価することなど不可能なのだ。ただただうれしいとしか言いようがない。

「本当に素敵なお話ですわ。今は、お幸せですのね」
「もちろんです」
「ただ、それでも時おり、不可思議な記憶があなたを惑(まど)いの世界に引き戻してしまうこともある」
「そう、孫の作品を読み終えることができたら思い残すことはないんですけど、あえて残っているものと言えば、初恋の君の謎が解けないままということだけですね」
「いわゆる心残りというものですわね。そのことがあなたのお心に僅かでも影を落とし続けるのでしたら、わたくしにはその影を消して差し上げることができますわ」
「はあ?」

★作中に登場する人物団体等は実在のものと一切関係ありません。
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