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2020年12月29日08:41

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連載小説第3弾 淋しい生き物たち − 誰か私の小説を読んでください 第45話

【連続ブログ小説 第23話】

 けれども、「受け流すのが一番」という少女のような達観に至るところまではいかなかった。何かのおりに、かつてほどではないにせよ、あれは一体何だったのか?と物思いに沈むことはあった。自分を疑う苦悩から逃げることはできたとしても、あれほど脳裏に鮮明だった彼女がひとひらの淡雪のように消えてしまった謎は厳然と残る。苦しみは薄れても、不思議で不可解で、そこにこの手の届かないことがもどかしく、納得はできていないままなのだ。
 たとえ手のひらの淡雪が消えたとしてもそこにかすかな雫(しずく)は残る。そしてこの雫は私の頭から死ぬまで消えることがない。ばかりか、時おり小さなつむじ風を巻き起こし、ふいに私を煩悶(はんもん)に誘(いざな)う雫だ。
 つむじ風は砂や小石を巻き上げ、ときに人を傷つけることもあるらしい。昔の人の豊かな想像力が、そんな経験から「かまいたち」という妖怪をこの世に産み出したのだと言う。その「かまいたち」は世紀をまたいで今の世にも生きており、ふいに現れては私の心に小さな傷を遺したりもするのだ。
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 少女が言うように、そんなものだと全てを受け容れた上で受け流すことは、凡人の私にはできなかった。この奇妙な少女にならできたのかもしれないけれど。

 そんな思惟(しゆい)や微(かす)かな傷が去来したとき、私は幻想にしか過ぎない、あるいは妄想でしかありえない初恋の舞台となった母校を見下ろす高台に上がり、ぼんやりと私ひとりの物憂(ものう)さに落ちる。
 何があったのか、どうしてこんなことになったのか、もうそんなことは考えないようにしていたが、私の頭の中にしか存在しない、かつて憧れた彼女の面影を追いかけてみたり、発端と言えばそこが発端となっている、もう高校生になった孫娘が小学生だったときの、ふたり旅での会話を思い起こしてみたり。

 現実離れした不思議な少女に声をかけられたのは。そんなときだったのだ。そしてぼくは奇妙な少女への長い話を語り終えた。

★作中に登場する人物団体等は実在のものと一切関係ありません。
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