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「書けそうなの? じゃ、クーちゃんが書くのをぼくも手伝うよ」
彼はとてもいいことを思いついたような目をして言った。
「手伝ってくれるのはうれしいけど、どう手伝ってくれるの? 文章を書く手伝いって、昔なら鉛筆けずるとか清書とかあったかもしれないけど、パソコンに文章打ち込んでるんだし、肩でももんでくれるわけ?」
彼が私をサポートしようとしてくれていることが伝わってくるだけに、私はおちゃらけた言い方をした。
「うーん、そうだねぇ・・・・。肩でも、何ならどこでももんであげるけど、何かそういうことじゃなくて・・・・」
「いやだ、肩以外もんでもらわなくていいよ」
このごろほんの少しだけ、かすかにセクシャルな会話がふたりに忍び込むようになっている。
「あっ! いいこと思いついた!」
「くだらないこと言ったら今の私はケン君を逆さ吊りにしちゃうよ」
決してくだらないことなど言いそうにない彼に私はわざとそんなことを言った。
「クーちゃんの小説にさ、ぼくが挿絵を描くよ。連載もするんだろ? 何回くらいになるのか知らないけど、何十枚でも何百枚でも、ぼくがクーちゃんの小説に挿絵を描く!」
それは私の想像の範囲を完全に超えた提案だった。何か少し胸が熱くなった。
「ただし、鉛筆の素描だよ。それとダメ出しはNG。ぼくが描いたものはどんなに下手でもイメージに合わなくても無条件にOKってことで」
そういう彼にはきっと自信があるのだろうと感じた。私には・・・・。
「別に最初から全部書き上げなくていいじゃない。ぼくには小説を書くなんてどんなことかわからないけどさ、クーちゃんがちょっとずつ書いて、クーちゃんが書いた文章を読んでぼくが挿絵を描く。その挿絵を見てクーちゃんが続きを書く。ぼくが描く。クーちゃんが書く。ぼくが描く、クーちゃんが書く。うわ、すごい名案だと思わない?
あっ、ダメか・・・・。それだとおじーちゃんより先にぼくが読んじゃうことになるもんな。ダメだ」
私はあふれるものをこらえきれず、流れたままにしながら抗議した。
「ダメじゃない!」
書けると思った。降ってきたものと彼にもらったものとを合わせて、私の中で、もわっとしていたものがムクムクと形をとり始めている。書ける!
そう思った瞬間、私は彼に抱き着いていた。
「えっ!」
彼はひと声だけ小さく吠えた。
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