【連続ブログ小説 第21話】
「まぁ! やはり1年7組の写真にも。なんということなのかしら。お気の毒ですけど決定的ですわね」
「はい。もうそこまででした」
結局私は、彼女の当時の消息を、いや、彼女が存在していたかどうかさえ確かめることができなかった。元々消息を訪ねて何をする気もなかったのだが。
そうしたささやかな探索の結果、あるいはそれとの引き換えに、以来、私は自分の脳に疑いを抱かなければならなくなった。これだけ明確な、絵の才能さえあればはっきりと描くことができるくらい明瞭な記憶が、実際にはあり得なかったということが、これでもかというほど明らかになったのだ。それが幻想であったにせよ、記憶の混乱であったにせよ、それはつまり私の脳に大きな不具合が生じていたということではないか。
あれだけ魅力的だった彼女の肖像は、私の頭の中だけにしかない。
認知症などということも考えた。その病に侵された人たちは、ありもしないか、幼児期に戻ってか、現実世界とは相いれない記憶を作り出すらしい。正にそれが私の初恋だったのではないか?
その憂いは大きかった。これまで、孫娘をはじめ家族たちにおかしな言動を指摘されたことはないが、それだって自分だけの世界に入り込んでいたとしたら誰に何を言われようとこの耳に入ってくることはないのだ。もしかしたらもう自分は自分だけの次元に入ってしまっているのではないか?
もうそれほど長く生きることはない、そうは思ってもその仮説は正直恐ろしかった。既に他者には理解しがたい自分だけの世界に入り込んでしまっているとしたら、ある意味、それはそれで幸せなのかもしれない。少なくとも本人は。
けれども家族たちにはそうではないかもしれない。友人や家族たちに、大きな負担や苦痛を強いているのかもしれない。自分だけが幸せならそれでいいのか? それは赦(ゆる)されることなのか?
★作中に登場する人物団体等は実在のものと一切関係ありません。
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