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2020年12月23日09:05

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連載小説第3弾 淋しい生き物たち − 誰か私の小説を読んでください 第39話

【連続ブログ小説 第20話】

 私はその箱を部屋まで運び、そこに何百枚も放り込んであった写真を、1枚1枚取りのけていった。1枚ごとに心拍が高まるようだった。何とも懐かしい写真がいくらでも出てきたが、そんなものは無用な紙切れだった。たった1枚、キャビネ版のモノクロ写真、詰襟とセーラー服が並んだ集合写真以外に今は全く用はなかった。
 1枚、1枚、いや、上の方に重なるカラーのスナップを束にして除外していけば、乱雑な写真の重なりはどんどん低くなていく。色褪(いろあ)せたカラーにちらほらとモノクロが混じるようになり、私はふいに、その写真が見つからない方がいいのかもしれないと思った。怖かったのだ。もしそこに・・・・。

「わかりますわ。お話を聞きながらわたくしも少し怖くなってきましたもの」

           フォト
 あっ!
 心臓がわしづかみにされた。詰襟とセーラー服が並んだモノクロのキャビネ。顔を引きつらせながら取り上げたその写真は、しかし2年2組の学級写真だった。2年2組の記憶はある。2年生のクラスが彼女と同じだった記憶はない。もちろん、そこに彼女の微笑みがあるはずはないのだ。
 ふーっ。心が一気に緩んで私は大きな溜息をついた。けれども乱雑ながらある一定の規則性を持って写真を投げ入れていたとしたら、このもう少し下の方に1年7組のそれはあるはずなのだ。再び私は明らかな心拍の響きを耳に覚えながら、1枚1枚写真を取り除いていった。
 箱の横にプリントが小山をなし、箱の中身が残りわずかになったとき、それはついに姿を現わした。私はそれを手に取ることさえできなかった。写真の下端には2年2組のそれと同じように、はっきりと「1969年度1年7組 4月10日」と印刷された文字が並んでいる。無意識に握りしめた手のひらにビュッと汗があふれた。

 箱の中のそこに、彼女の笑顔はなかった。どれだけ制服の群れを見つめても、彼女は笑いかけてくれなかった。私は濡れた手で頭を抱えた。

★作中に登場する人物団体等は実在のものと一切関係ありません。
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