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2020年12月21日09:40

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連載小説第3弾 淋しい生き物たち − 誰か私の小説を読んでください 第37話

【連続ブログ小説 第19話】

 しかし私たちの中学生時代にデジカメなど想像もつかなかった。私自身はずいぶん先進的にデジカメに飛びついた方だが、それ以来、画像はパソコンで管理するものになり、時代の流れで、プリントされたフィルム写真も、それを整理して閉じ込むアルバムもどんどん存在価値と住処(すみか)を失っていった。私の思い出の古いプリント写真が入った箱も、きっと納戸か裏の倉庫で長く眠ったままだ。
 けれどもその中に、たった1枚、彼女の写った写真が存在するはずではないか? そう、彼女とぼくが在籍した1年7組の学級写真が。
 私は狭い裏庭に設けてある簡易倉庫の、錆(さ)びが浮いて立て付けの悪くなった扉をガリガリと開いた。長い間停滞していた空気に特有の匂いがした。狭い倉庫の中には雑多な懐かしい不燃ゴミに交じって、段ボール箱がすし詰めになっていたのだが、そう苦労することもなく、その箱を見つけることができた。明らかに私の拙(まず)い筆跡で、「圭史 写真」と太い文字が記されていたからだ。
           フォト
 あった。けれどもその途端に私の心は針金で縛(しば)られたようになった。
 これで彼女の笑顔に会うことができるという期待ではない。不精(ぶしょう)な性格だからきちんと整理していたわけでもなく、適当にプリントを突っ込んであるだけのこの箱の中に、果たしてあの学級写真が含まれているだろうか? 自宅で彼女の姿を見ることのできる唯一の写真を私は箱に投げ入れることなく、机の中かどこか別に保存し、そのままいつしか紛失してしまっているかもしれない。
 でも私が感じたのは、箱の中にただ1枚の写真が入っているかどうかという不安でもなかった。私が金縛りにあったようになってしまったのは、この箱の中の1年7組の学級写真に、彼女が写っているのだろうかというおののきだった。小学校の卒業アルバムに姿がなかったのだから、もうそこである種の結論は出ていたのかもしれないが、それでも何かにすがりたかった。彼女がぼくだけに見える妖精か妖怪か何かだったなんて、そんなロマンティックな、あるいは安易な映画のようなエンドロールにしたくはなかった。

★作中に登場する人物団体等は実在のものと一切関係ありません。
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