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2020年12月18日09:30

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連載小説第3弾 淋しい生き物たち − 誰か私の小説を読んでください 第34話

         〇    〇    〇

 全てを語り終えるまでに祖父は3度、冷蔵庫まで足を運んだ。
「ありがと、おじーちゃん。でも私、アルバムのことでそんなにもおじーちゃんが苦しんでたなんて全然知らなかった」
「まぁ、そういうこともあったというだけのことさ。今はどうということもないよ。未だに不可解には思うけどね」
「そうだよね。すごく不可解な話だと思う。どうしてそんなことになっちゃったんだろう?」
「それはもう永遠の謎と言うしかないんだろうけど、もういいさ。クーちゃんもこのことは忘れてくれたらいい」
「私がどう考えたって謎解きなんでできないしね。もうそれについては口には出さないようにする。でも忘れることはできないな」
 私のそんな言葉に、祖父は少し憂いを含んだ顔つきで小さく頷いた。私は空気を変えたくて付け足した。
「それはともかくとしてだけど、細かい話までいっぱい聞かせてくれて本当にありがとう。あのときと違ってすごく勉強になった」
            フォト
「勉強っていうのはおかしい気もするけど、ま、それだけクーちゃんも大人に近づいたっていうことかな」
 そして祖父は私の手にある閉じたノートに目をやりながらさりげなく言った。
「書けそうなのかい?」
 やっぱり読まれていた。
「うん、おじーちゃん。私、多分、降ってきた! だから初めて完結できると思う。おじーちゃんに一番に読んでもらうから、待っててね」
「そうかぁ、よかったねぇ。降ってきたとき思わず手を叩かなかったかい? ぼくはいつもそうだった」
「私、思わず膝を叩いた。おんなじだね」
「ホントだ。それはきっとモノになるよ。クーちゃんの初めての小説かぁ。しかもぼくに取材して。それはすごく楽しみだ。それを読むまでは絶対死ねないな」
「やめてよ。何か私が小説完成させたら死んじゃうみたいじゃない。それなら私、一生小説完成させないよ」
「あはは。二作目も三作目も読みたいさぁ」
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