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2020年12月13日08:26

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連載小説第3弾 淋しい生き物たち − 誰か私の小説を読んでください 第29話

【連続ブログ小説 第15話】

「はい。あまりにもおかしな話です。人々の記憶を消すようなタチの悪いウィルスでも蔓延(まんえん)したのかと思ったくらいです。でも私のことを憶えている人は多かったんですから、そんな話はない。正に狐につままれたような気分でした。いや、だんだんもう空恐ろしくなっていましたね。ぼくよりはずっと存在感があった彼女を同性の誰も憶えていないなんて、あまりにも理不尽で、私はムキになったと言うか、火がついたと言うか、もう矢も楯もたまらない心境になっていましたよ」
「わかりますわ。彼女の動向を何となく知りたかった最初のモチベーションとは違うお気持ちになられたのね」
「その通りです。不気味でもありました。気立てのよかった彼女の人柄から考えてあり得ないことではあるんですけど、ある時点で彼女が女子たちにとんでもない裏切り行為のようなことをして総スカンを喰らってしまった。彼女は女子たちの記憶にないのではなく絶縁されてしまっているのではないか?なんていうことも考えました。でもそんなことはやっぱりあり得ないことなんです」
           フォト
「それで、あなたはどうなさったの? その不可思議なできごとの謎が解けずに物思いに沈んでおられるのかしら?」
「まぁ、結論から言えば当たらずとも遠からずですけど、まだ私は探索を続けたんです。いいですか?」
「もちろんですわ。こんなところで放り出されては今夜眠れませんもの」
「ありがとうございます。ぼくもここまで語ってここではやめられません。
 さっきも言いましたけど、私は60歳まで教員だったんですよ。それも彼女と私が出会った中学校と同じ市内の採用だったんです」
「あぁ、それがありましたわ。あなたはそこに活路を見出したんですのね」

 どんなフレーズが少女の口から出てきても、もう違和感はなかった。それに頭の回転も語彙(ごい)の理解力も、とてもそんな年頃の少女とは思えなかった。私は同年配の女性と語り合っているような気分になり、最初は防衛的にあえて丁寧語で対応していたのだが、もうそうすることが自然になっていた。

★作中に登場する人物団体等は実在のものと一切関係ありません。
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