※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
「ショーヘーくん、止まって!誰かいます!」
「敵かも知れない、無視して突っ切るぞ!」
「待ってください。傷ついた人を見捨てて行くなんて出来ません」
「いや、万が一にでも、俺はお前が傷つく方が心配だ」
「大丈夫です。それに思うんです。あの人が助けてくれたこの命、きっと誰かを救うためのものだって」
俺は林檎地方での戦いを終え、敵に見つからぬよう、スズハラと2人、険しい崖下の森を抜けていた。
人が通りそうもないところだったが、そこでスズハラが人を見つけてしまったのだ。
優しいスズハラにはその人を見捨てることが出来なかったらしい。
これは酷い怪我だ。放っておけば、数分ももたなかっただろう。
「う…うう…」
「大丈夫ですか?今、傷を治してあげますからね!」
「スズハラ、危険だぞ!相手が何者かも確かめずに!」
「大丈夫です。いざとなったら、守ってくれますよね」
「あったりまえだろ!」
俺は照れて顔をそらした。
「動かないでくださいね…。女神の慈愛」
「あ…ああ…」
倒れていた男のうめき声が聞こえる。安心しろや。スズハラの回復術は世界一だ。俺が保証する。
「大変です…傷は治っても、やはりショックから立ち直れないみたい…よしよし…もう大丈夫だからね…」
スズハラが膝に乗せた頭をゆっくり撫でると、男は安らか表情になった。
「あなたの名前を聞かせてくれる?」
「お、俺は…マルス…」
「そう、マルスって言うのね。もう大丈夫、大丈夫だから」
マルスは名を名乗ると気を失った。
「ショーヘーくん、この人を私達の国まで運びましょう」
「しょうがねぇな、ここにいられない理由がありそうだ」
俺達は、マルスを運んで、懐かしき神聖ターロック帝国へと向かった。
かつて世界を四分する戦いがあった。
4人の女神が降臨し、それぞれ自身を信奉する人間を率いて戦った。
それは長引き、海は荒れ、大地は枯れた。
戦いに疲れた女神たちは、自身の国を作り、友好条約を結んだ。
しかし、本当の戦いは終わっていなかった。
彼女たちは、信者を増やし、再び世界の支配を目指すその日まで、眠りについただけだった。
そして、今、4人の内、1人リンゴを司る神が目覚めた。
世界は再び混乱の時代へと突き進もうとしていた。
「偉大なる我が帝国。その偉大なる戦士ライチ、そして、リザルト。その功績を称える!そして、その名誉ある死に、黙祷!」
ターロック陛下の声が、城の前の広場に響き渡る。集まった人達は、皆、涙を浮かべながら、かの人を想って祈りを捧げている。
中心には、2人の大きな写真が飾られ、共に散った多くの兵達の名前が刻まれた石も置かれていた。
「勇敢に戦った2人の戦士は、きっと我らが女神のもとへ召されたことだろう」
そう言うと、陛下は振り返り、城へと戻っていった。
僕の母さんは、涙を流していた。けれども、他の人達みたいに、泣いていたのではなく、その表情には憎しみが宿っていた。
「坊や。あれがあなたの父さんの仇よ…。あなたのお父さんはね、あの男にはめられたの…」
「陛下が…?どうして…?」
「お父さんはね、改革をしようとしていたの、まだ小さくてわからないかもしれないけど、父さんは本当に魅力的で、カリスマ性あふれる人だった」
「僕、お父さんに会いたい!」
「いい子ね、坊や…。大きくなったら、きっと…」
その日の夜、母さんはいなくなった。誰かが広場での話を聞いて、密告というのをしたらしい。僕はこの日の事を生涯忘れないだろう。
僕の生きる意味が生まれたこの日を……。
3年後……。
父の友人だという人に引き取られた僕は逞しい男に成長していた。
「ショーヘーおじさん、スズハラおばさん、マルスおじさん、僕行ってくるよ」
「ああ、あと、スズハラお姉さんな。出かける前に殺されるぞ?」
ショーヘーおじさん達の元で鍛えられた僕は、父の仇を討つため、帝都へと旅だった。
2人は十六闘士という身分だったのだけれど、その地位を捨て、今は田舎でのんびり暮らしている。
マルスおじさんは、林檎地方という所で拾ってきた行き倒れらしいんだけど、怪我のショックで記憶が曖昧らしく、召使いとしてこの屋敷に住んでいる。
マルスおじさんも、元は軍人だったらしく、僕はたくさん鍛えられた。
「じゃあ、行ってくる!」
「坊ちゃん、お達者で!」
マルスおじさんが手を振っている。おじさん達に会うのも、もしかしたら最後になるかもしれない。
僕は、この手で、必ずターロックを討つ。その為に、血の滲むような努力をしてきたんだ。
「行ったな」
「ええ。あの子、父親にそっくりね」
「ああ、世界中に散らばったライチチルドレン。その中でも、あの子が最も父の血を色濃く受け継いでいる」
「ライチジュニア…元気に生きてちょうだいね」
2人はライチジュニアを育てるため、退役し、田舎に暮らしているのだった。
だが、俺は知っている。この2人が、ライチジュニアの目的に全く気づいていないということを。
「それからマルス」
「はい」
「お前、もう記憶もだいぶん戻ってきたのだろう」
「ええ、おかげさまで」
「じゃあ、そろそろ行くべき場所へ行きな。お前はこんな所に止まるべき人間じゃない」
「……このご恩は忘れませんよ。それから、スズハラさんなら、もう出かけましたよ」
「って、おい!マジかよ!俺も行く!」
俺は自分のルーツを探す。アネンゴに囚われている時に見た夢。フロッグ。
奴を追って、俺はこの呪いの島に来た。
いったいこの先、どんな試練が待ち受けているのか知れないが、絶対に全てを取り戻してみせる。なぜなら、俺はプロDDなのだから!!
第二部 神聖ターロック帝国
ログインしてコメントを確認・投稿する