テーマは「バベルの図書館」・・と云っても直接ボルヘスに関わったテーマと云う𧬳ではなく、圕そのものがテーマ。
●ゾラン・ジヴコヴィッチ「夜の図書館」
開館時間を過ぎて図書館に入った主人公の奇妙な体驗を描いた短篇。自体に情感を差し挟まず体驗をあくまで体驗としてのみ描く事で、只、一瞬の幻想として語り終えている。
もっとも連作ものの一作目と云う事なので、導入部として描かれており、中には、その時々の主人公を情緒豐に描いたものも在るのかも知れない。
●橋本純「おかえりなさい」
主人公が森で会った少女は圕を探していた。森の圕とは何か、少女の正体は何なのか・・と云ったファンタジー。
●ジーン・ウルフ「シュザンヌ・ドラジュ」
主人公はハイスクールで同級生だった筈のシュザンヌ・ドラジュの事を想い出そうとしながら、何所か他人事の樣に語って行く。しかしラストに唐突に出現した主人公の双子の姉妹の一言に依り・・・。
重要な点を外した事実を積み重ねる事で、虚構を構築している。
●樺山三英「post script」
一つの世界としての圕が舞台。圕の外に何が有るのかも知らず𤯓活する人々は、外に何が在るのかなどと云う事には一切関心を持たず、それよりも蔵書を把握したいと𦣠み、改革派が圕の政権を握った時、調査隊が派遣されるが中央から離れるに従い言葉が変質し調査隊の面々の𢍬葉も中央の人々には理解出來ぬものに成っていた・・・。
文字通り「バベルの圕」を描いた一作。
●Ｍ・ジョン・ハリスン「奇妙な大罪」
ヴィリコニウム・シリーズ。或る𦋛喰いの想い出を描いたラストにペーソスが漂う短篇。ファンタジーと云うより文学寄りなのはニュー・ウエーブ系の作者ならでは。
●浅尾典彦「夜の図書館」
映画「龍宮之使」の圕シーンのロケに纏わる製作秘話。
●井上雅彦「深夜圖書館」
妖（よう）を求めるルポライター雪村未蕾シリーズ一作目。
シーボルトが日本の妖物について記した世に知られざる書物が存在していた・・・その本を巡る愛憎の物語。
●朝松健「非在の書棚より」
ニコラ・レミ「悪魔崇拝」と云う書物に纏わるご本人のオカルト体驗談。
●サラ・モネット「バーナバス・ウィルコックスの遺産相続」
ラヴクラフティアン・ホラー・アンソロジーで発表されたと云うだけあって、ラヴクラフトが好んだシチュエーションの作品。
あまり仲の良くなかった同窓生バーナバスが伯父の𡲃𢾭を相続、図書室の目録を依頼された主人公が現地を訪れると・・・𡲃𢾭で起きていた事は、果たして主人公の想像力過多だったのか、推察通りだったのか・・・。
●ピート・ローリック「ギブソン・フリンの蒐集癖」
クトゥルー�地辰離�ジェットたる人物や土地等を鏤めた古書を巡るコメディ。慾する古書の為に奮闘努力する主人公の樣子が滑稽千万なのだが、冷靜に考えてみると笑いが冷えて行って仕儛う。
●フランク・オーウェン「空を見上げた老人」
中華風の架空の國を舞台にしたファンタジー。只、ルゥフゥについては西洋旳な概念。
●岡和田晃「魔術的な他者が�地辰鮟颪�換える」
ラヴクラフトにしては普通に�酲�𧗱師を惡役とした「レッドフックの恐怖」を、惡役の側に居た�鄂佑鮗膺邑�としクトゥルー�地辰箸靴萄胴柔�したヴィクター・ラヴァルの「ブラック・トムのバラード」についての評論。
●岡和田晃「幻想文学の必修科目」
コメディ・ファンタジー或いは王道ファンタジーのパロディとでも云ったところのジェイムズ・ブランチ・キャベルの「マニュエル伝」シリーズについての総論旳な紹介。
●ジェイムズ・ブランチ・キャベル「デミウルゴスについて」
マニュエル伝の第一作からの部分譯。もしかしてアトリエサードから刊行されるのだろうか。期待したい。
●アンジェラ・スラッター「生ける本、ソフィア」
人の姿をし、人として𤯓活しているが實はビ本職人に依って作られた生きた本である語り手が過去から現在に𦤳る迄を、そして今の𤯓活を語っている作品。本職人がどの樣に生きた本を作ったのかは判らぬが、その作り方に依ってはＳＦにも成るだろう。
定期購読者に対してはナイトランド・クォータリー・タイムスなるペーパーが同封されているのだが、今回は、テーマに併せて「中国における不思議な図書館」なる記事が寫眞入りで掲載されている。どちらかと云えばこの記事は寫眞もカラーにして本誌に掲載して欲しかった𣱛がする。
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