mixiユーザー(id:7385739)

2020年01月25日22:10

103 view

7時間18分の映画「サタンタンゴ」

7時間18分の「サタンタンゴ」の上映が、福井のメトロ劇場であったので
観に行く。

およそ30年ぶりのメトロ劇場はロビーの雰囲気はかわっておらず、昔のとおり
上映作品アンケートを行っていた。

最近、NHKの番組で紹介されたとのこと、どこの映画館も経営はたいへんだと思う。

<カスタネット福井 ひとモノガタリ - NHK不思議な二重生活を送る男性がいる。>
https://fukui.cast-a-net.net/detail/13337/news/news-102648.html

館内は前2列がペアシートになるなど、座席がゆったり。
当然、自分はペアシートのところに陣取って見る。
今回はデジタルリマスター版として初の劇場公開。

サタンタンゴ 94 ハンガリー=ドイツ=スイス モノクロ         

監督タル・ベーラ、原作:クラスナホルカイ・ラースロー
脚本:クラスナホルカイ・ラースロー、タル・ベーラ
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
出演:ヴィーグ・ミハーイ、ホルヴァート・プチ、 ルゴシ・ラースロー、デルジ・ヤーノシュ

長いといっても、12章に分かれていて、途中2回、20分近くの休憩も入る。
ソクーロフの「静かなる一頁」の方が短いが正直しんどかった。
(以下、ネタばれあり)

冒頭、牛の群れが村の中を泥をはねながら移動していく。
牛の中には、上に乗っかるのもいて、他の牛の尻も追いかけていたりする。
雨と泥、古びた小屋の間を通り抜けるが、牧場はない。泥の道。

今ならCGで作るだろうが、90年代にそんな技術はない。
この映像を撮るだけでも何時間もフィルムをまわしているに違いない。

部屋の中、鐘の音に目が覚めた男が窓辺に向かう。固定カメラ。カーテンを開けてようやく明るくなる。ライトなしの自然光撮影。
別方向からのショットではカメラが近い。二人の会話がバストアップで捉えられる。セットではなく、本当の建物での撮影。

女が下半身を洗面器で洗う。男は旦那ではなく、旦那が帰ってきて、別の部屋に隠れる。
外に出たのを見計らって男は家を出る。
会話の内容から彼らは農民らしい。
別の女が家を訪れ、「イリミアージュが帰ってくる」と伝える。死んだはずの男。彼らはおそれる。

第2部では、町中を歩いていく二人の男の後ろ姿がえんえんと捉えられる。
ものすごい強風。紙がまきあげられて、二人にぶつかる。ステディカムの追いカメラ。
恐らく強力な扇風機を車に積んで二人を追っているのだろうとは思うが、
それにしてもかなりの時間、二人は歩く。
すれ違う人は一人もいない。まるで台風で外出禁止になっているような中。

後に彼がイリミアージュであることがわかるのだが、紙が吹き上げられているのは、
学問の才があることの示唆だということも後にわかる。

警察に着いた二人は、警部と面会する。
この場面の会話は顔のカットバックで描かれる。
イリミアージュは詩的な表現でしゃべる優男。

警察を出た後、酒場に入ったイリミアージュの一言、
「世の中、すべて爆破する」

第3部では、第1部の家を双眼鏡で観察し、記録している医師が長回しで描かれる。
朝から酒を飲みつつ、ノートに記録を書いていく。
トイレに入るところも延々と長回し。医師は年寄で巨体。やっと歩いている感じ。
酒(パーリンカ)がなくなった彼は、籐で編んだ大瓶を下げて家を出る。
コートの襟が高くて、後ろ姿では頭が見えない。
外はすっかり暗い。雨がひどい。泥の道。途中、廃屋の中の姉妹の娼婦を訪ねた後、酒場に向かう。酒場に差し掛かった時、少女と出逢い、話かけるが振り払われる。
少女を追った彼は林の中で倒れる。

第4部 酒場
二人の男が離れて酒場で飲む。店主はよくしゃべる。
ロングの固定ショットで店全体が捉えられる。しゃべる男の全身像のショットも入る。
別の男(車掌)が入ってきて、イリミアージュが町の酒場にいたことを伝える。

イリミアージュたちが田舎に向かう。途中、若い男が合流して村人の近況を伝えながら、三人がひたすら歩く。やはり後ろ姿のフォロー。

第5部 少女エシュティケ。
イリミアージュと合流した若い男と妹のエシュティケが、妹のお金を林の中に埋めている。妹は家に戻る。
母親は娼婦。家に客が来て、中に入れない。薄暗い納屋の中で一人。毛糸のカーディガンを着ているが、明らかに大きくて、袖をかなり折り曲げている。
ぼーっとする時間。猫が現れると、虐待する。
少女の振る舞いを延々とフルショットで捉える。
孤独。
彼女の行為が衝撃的であり、家庭環境の壮絶さと絶望の深さを思い知る。

第6部 酒場
前に少女が酒場の外から覗いていた村人たちの踊りが、第4部の酒場の全景ショットとメインに延々と描かれる。タイトルは、「悪魔のおつぱい、悪魔のタンゴ」
タイトルの由来。酒を飲んでぐでんぐでんになって、踊り狂う村人たち。

第7部 イリミタージュの演説
少女の亡骸を前にした村人たちに対して、イリミタージュが演説する。
イリミタージュは、宗教家か、領主なのか、詐欺師なのか。
農民たちは彼の言うがまま、紙幣を差し出す。

第8部 酒場
酒場の前で、イリミタージュは村人たちに村を出て、別の荘園に行くよう伝える。
酒場のバックヤードではイリミタージュが夫人と床をともにした後が描かれる。
酒場の主人はののしる。
農民たちは、ジプシーに盗られるくらいなら、と家具を壊す。
ものすごい雨の中、ドロドロの道を大八車を引いて歩いていく村人たち。
もちろん、後ろ姿のフォローショット。
荘園の建物は神殿のようだった。
皆、そこで雑魚寝する。それを上から長回しでとらえる移動ショット。

第9部 イリミアージュ
街の中を馬の群れが駆けていく。
イリミアージュたち三人が町の食堂に入り、スープと豚足の料理を食べる。
昔なじみの武器商人を呼び、ありったけの爆薬を用意しろと話す。
三人は食堂の一室で雑魚寝する。

第10部
荘園に現れたイリミアージュは、村人たちに計画延期を告げ、トラックに村人たちを乗せ、街へと連れていく。ものすごい雨が村人の顔に当たる。
離れ離れになる村人たち。イリミアージュは新しい仕事を紹介していく。
しかし、第1部の最初に現れた男だけは別れて去っていく。

第11部
イリミアージュたち三人が延々と街を歩く。
やはり後ろ姿のフォロー。そしてやはり、ものすごい風が吹く。
今度は紙は飛ばず、ごみが舞い上がる。
警察の一室で、イリミアージュのレポートを清書する警官二人。
内容は村人たちのこと。

第12部
医師の家。病院に入っていたことがナレーションで語られる。
村人たちが去ったことに気づいていない。
遠くで鐘の音が響く。鐘の音を辿っていくと、老人が「トルコ軍が来る」と叫んでいる。
家に戻った医師は、窓をふさぎ、書を書き始める。
それは第1部の始まり。


村人のタンゴの場面がいちばん、面白く、
警察署での会話の顔のアップのカットバックがいちばん、つまらなかった。
長回しなのだが、タンゴの場面も外で窓からのぞきこむ少女のショットがはさまれていたりして、わかりやすく、つくられている。

猫の虐待については、すごい名演技。
もちろん、虐待というほどのことはしていない。
少女の振る舞いが強く印象に残る。
少女役の子は、成長した後々もタル・ベーラの映画に出演しているという。

イリミアージュとは何者か、
映画全体に何か宗教的な意味合いがあるような気がした。

医師の動きなど、ふつうの映画であれば、動作の時間を短くさせるところを
ゆったりと動かしているようにも見える。
それがリアリズムを生んでいる。

冒頭の牛が、村人たちの隠喩になっていたことに後で気付く。
イリミタージュの存在は謎だが、あれが「政治」なんだと思う。
第11部は、社会主義体制を脱したとはいえ、人々は監視・評価されている
ということなのであり、それは医師がやっていることも同じといえる。

それにしても、画面にあれだけ、雨が映っているということは
相当な雨を降らせていることになる。

秋の雨の時期らしいが、自然の雨ではないように思うのだけど、
でも雨の降り方がとても自然。
人工的な雨のようなムラがない。

雨の中、泥だらけの道を延々と何回も歩いた役者さんたちもスタッフも大変な
ことだったろうと思う。

監督が今回の上映にあわせて来日、インタビューを受けていた。
<タル・ベーラ監督インタビュー>
http://cinefil.tokyo/_ct/17303371

予告編を貼り付けようとしたが、うまくいかない。
上記リンクから見てほしい。

こちらの記事では、猫の場面の演出についても記載がある。
<シネマジャーナル タル・ベーラ監督来日記者会見>
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/470144848.html

4年間かけてつくり上げた映画である。
腹が減るのも忘れて、どっぷり浸かった。
2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する