mixiユーザー(id:330483)

2020年01月04日21:28

69 view

【映画】2010年代 日本映画ベストテン

2010年代 日本映画ベストテン
 
 
1.かぐや姫の物語
2.ヘヴンズストーリー
3.あゝ、荒野 前編/後編
4.聲の形 劇場版
5.この世界の(さらにいくつもの)片隅に
6.シン・ゴジラ
7.ハッピーアワー
8.親密さ
9.勝手にふるえてろ
10.寝ても覚めても
 
次点
若おかみは小学生!
海炭市叙景
幕が上がる
 
 
 
何と上位5本のうち3本(『かぐや姫の物語』『聲の形 劇場版』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』)がアニメになった。今の日本映画の現状からして当たり前とも言えるが。
 
作画などの芸術的完成度、古典から引き出された普遍的かつ現代的なテーマ…全てが超絶的なレベルに達している『かぐや姫の物語』は、黒澤明や溝口健二の最高傑作とも肩を並べうるマスターピース。やはりこれはトップに据えざるをえないだろうという横綱相撲の貫禄。
 
『ヘヴンズ・ストーリー』は4時間38分に及ぶ瀬々敬久渾身の大作で、その後の『楽園』や『友罪』などにも現れる「罪と罰」というテーマに真っ向から挑んだ作品だ。もちろん映画という芸術の性質上ドストエフスキーのような深い思索性は望めないが、一度見たら忘れられない鮮烈なイメージが、憎しみの連鎖について多くのことを感じさせ、考えさせてくれる。人間の生々しい心理や行動を、広大な自然や時の流れと対比させるのは映画の得意技であり、その魅力が存分に生かされた作品。
 
『あゝ、荒野』も前編/後編を合わせると5時間14分になる大作。長ければいいというものではないが、2010年代を代表する2本の劇映画が、どちらも並外れた長編であるのは興味深い。脚本に粗雑なところがあって ところどころ三文ドラマになるし、中途半端な近未来設定(2021年)は一体何だったのかという思いもある。しかしそんな不満も菅田将暉やヤン・イクチュンらの体を張った演技の前に吹き飛ばされる。ストーリーでも設定でも台詞でもなく、役者の発するエネルギーと存在感が全てを制し、理屈を超えた原初的な感動を呼び起こす希有の作品。古今東西を含めボクシング映画の最高傑作。
 
『聲の形 劇場版』は、この10年で最も泣いた映画。監督 山田尚子×脚本 吉田玲子のコンビは、今の日本で最高の黄金コンビだろう。いじめを題材にした作品のように言われるが、それは最初のモチーフだけで、もっと普遍的な「個人と世界が和解するまでの物語」になっている。これほど繊細で感動的な作品を作り上げた京都アニメーション…今年起きた惨事には胸が痛む。

5位は『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』。『この世界の片隅に』ではない点に注意。この2本はまるで別の映画のように全体の印象も作品の力点も異なっている。私はこの長尺版の方が圧倒的に好きだ。オリジナルも素晴らしい作品だが、入れるとしたらもっと下位。オリジナルでは描ききれなかった物語が描かれたこの長尺版の方が、人間ドラマとしての深みが格段に増している。これはもはや戦時中という特殊な状況下のドラマではない。戦争、貧困、男女差別、実らぬ思い、いつどんな形で訪れるか分からない死…そんな過酷な現実の中で、ある種の諦念を抱えながらも懸命に生きていく人々を描いた普遍的なドラマだ。
 
『シン・ゴジラ』は言わずと知れた大人気作。怪獣映画としての外連味はしっかり維持しながら、子供だましではないリアルなパニックスペクタクルに仕上げられた驚くべき作品。
 
6位から10位までの間に、何と濱口竜介の監督作が3本! 2010年代を代表する日本の映画作家は濱口竜介だったと言っていいだろう。『ハッピーアワー』が5時間17分、『親密さ』が4時間15分という長編。ベストテンのうち実写映画が6本。そのうち4本が4時間超えの長編というのは異常事態だが、この4本はどれも落とせないのだから仕方ない。

『ハッピーアワー』は、30代後半の4人の女性たちの日常的なドラマを描いた作品だが、これが何故か滅法面白く、ほぼ素人に近い女優たちの生き生きとした生命力が感じられる。このマジックは一体どこに由来するのか? その秘密がワークショップ形式の制作法にあることは明らかだが、それだけでこんな面白い映画ができるはずもない。一度しか見ていないので、また機会があれば何度でも見直して、その謎を解明したい。

『親密さ』は2部構成で、前半は『親密さ』という舞台を作ろうとしている男女のゴタゴタを描く。マジックアワー狙いの驚異的長回しもあったりするが、インディペンデント映画らしい貧乏くさい画面作りに辟易するところも多い。ところが、その『親密さ』という舞台劇そのものを撮した後半になると、まるで別の映画のように面白くなる。むしろ前半は後半の面白さを引き立てるためにあったかのようだ。と同時に、後半を見ると前半を見直したくなる無限ループ。それでいて『ハッピーアワー』同様、何がどう面白いのかもよく分からない。映画と演劇の違い、現実と虚構のメタ構造など、いろいろ分析的に楽しめるはずだが、そんな余裕はなく、ただただその面白さに魅了されるばかり。こちらも一度しか見ていないので、その謎を解くため、また何度でも見直したい。
 
『勝手にふるえてろ』は、ラブコメの形式を借りて、オタク女性の世界に対する違和感を描いた作品。テーマ的には『聲の形 劇場版』とよく似ている。中盤で思いがけない真実が明らかになる構成、精神的な引き籠もりを軽やかに描く大九明子の演出、そして主役を演じる松岡美優の圧倒的な魅力と、何から何まで憎たらしいほどによく出来ている。

そして最後はもう1本の濱口竜介映画『寝ても覚めても』。こちらは前の2作と違って、プロの俳優たちを起用しているし、かなりドラマチックなストーリーもある。しかしそのストーリーが一筋縄ではいかず、デヴィッド・リンチ映画のように不思議な展開。だがその論理的脈絡を欠いた物語と彩度を抑えた映像が合わさると、私が普段見ている「夢」そのもののように見えてくる。映画史上ここまで「夢」に近い映画は無い。そういう意味で付けられたタイトルかどうかは分からないが、まさに『寝ても覚めても』だ。やはり「偏愛枠」である10位に入れておきたい。
 
 
次点の中でも、『若おかみは小学生!』は、とりわけ10位内に入れたかった作品。子ども向けアニメのような顔をして、最後には涙が溢れるほど感動的な成長ドラマを描き出す。『海炭市叙景』は、10年代の日本映画界で静かなブームになっていた佐藤泰志原作映画の1本。一般的には『そこのみにて光輝く』の評価が高かったが、私は『海炭市叙景』が圧倒的に好きだ(次が『きみの鳥はうたえる』)。熊切和嘉監督作としても最高傑作。『幕が上がる』は瑞々しい青春映画であり、黒木華が最高に魅力的。
 
 
まとめると、2010年代で特に活躍した映画作家は濱口竜介と瀬々敬久、そしてベストテンには入らなかったが、芸術性と商業性を兼ね備えた是枝裕和だろう。だが実写映画にもまして、アニメ作品のクオリティが尋常ならざるレベルに達している。『シン・ゴジラ』の庵野秀明も基本的にはアニメーションの人だ。高畑勲は惜しくも亡くなったが、ベストテンに入った山田尚子、片渕須直に加え、高坂希太郎、原恵一、新海誠、湯浅政明、脚本家の吉田玲子らは、今後も活躍し、日本のアニメは少なくともあと10年は芸術的なピークが続くことだろう。
そしてこちらも20年代の注目は、ネット配信がどのような影響を与えるかに尽きる。現時点では、アメリカよりもむしろ良い影響が感じられるが、当然何らかの悪影響もあるはずで、目が離せない。

2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年01月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 

最近の日記

もっと見る