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2019年09月03日22:19

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【演劇】akakilike『眠るのがもったいないくらいに楽しいことをたくさん持って、夏の海がキラキラ輝くように、緑の庭に光あふれるように、永遠に続く気が狂いそうな晴天のように』

akakilike『眠るのがもったいないくらいに楽しいことをたくさん持って、夏の海がキラキラ輝くように、緑の庭に光あふれるように、永遠に続く気が狂いそうな晴天のように』(d-倉庫)
 
 
 
何を見たのかよく分からない。ただし凄いものを見たことだけは分かる、そんな作品。
 
本作は、主催の倉田翠が薬物依存症リハビリ施設「京都ダルク」の人たちとともに作り上げた演劇パフォーマンス。「当事者演劇」という滅多に見られないものに興味を覚えて見に行ったのだが、予想していたものとはだいぶ違っていた。これは演劇なのか? うん、これも演劇だ。
 
出演者は全部で13人。全編を通して料理を作り、最後にそれを食べるので、イエスの最後の晩餐を念頭に置いたのかな?と思ったが、実際にはもう1人体調不良で欠場したメンバーがいて全部で14人なので、多分違う。
最初にその13人が、机を前にして『家族ゲーム』のようにズラリとこちら向きに並ぶ。「うわっ、これで真正面から過去の告白をやるのか。こちらも覚悟して臨まないと」と緊張するが、そんな展開にはならず、机は間もなく後方に移動され、そこで本格的な料理が開始される(作られたのは、豚汁と焼きおにぎり)。
その13人の中に、1人だけ場違いな美しい女性が混じっている。え?この人も患者? 他の男性陣の、いかにも重い屈折を背負った感じに比べると、ちょっと美人すぎるだろう…と大きな違和感を覚える。結果的に、その女性は全編の大部分でダンスを踊り続け、明らかに本職のダンサーであることが分かる。何のことはない、その人が主催者でダンサーの倉田翠その人であった。この辺は一切予備知識を持たずに見たので、いろいろ戸惑ったが、その虚々実々な感じも楽しい。しかし倉田翠という人も、彼女のakakilikeというユニットも、本来のフィールドはストレートプレイではなくダンス。そんなユニットが薬物依存症のリハビリ施設の患者とコラボすること自体ユニークすぎて、一体どこからそんな発想が出てきたのかと…
 
机を片づける前に、いきなり全員が下着姿になり、その後新しい衣装に着替えるシーンがある。当然のこと、最初は倉田翠の美しくのびやかな肢体に目を惹きつけられるが、すぐに男性陣の多くが彫り物をしているのに目を奪われる。特に、後で丸亀製麺の思い出話をする人(笑)は、全身にビッシリの彫り物が圧倒的で、その後もずっと彼の動きを注視せざるを得ない迫力があった。
ここで、ようやく気がついた。ここにいるのは、単なる依存症患者ではなく、その大部分がムショ経験のあるやくざ者たちなのだ。これぞリアルやくざ芝居。
 
その後は、患者たちの告白話と、料理と、倉田翠のダンス、その他のメンバーのパフォーマンスが同時並行で続く。テキスト(告白の中身)を無視してヴィジュアルだけ見ていると、完全にコンテンポラリーダンスやインスタレーション的なアートそのものだ。もっと患者たちの告白やディスカッションを中心にした内容を予想していたので、意外な展開に驚いた。
パフォーマンスがノイジー過ぎて告白を邪魔しているところもあったが、そもそもこの作品は個々のテキストを確実に伝えることを最重要課題とはみなしていないようだ。倉田のダンスは、テキストの内容と必ずしも合っているわけではない。時々流れる音楽も同様。むしろ対立的な構造によって、パフォーマンスがテキストを異化し、テキストもパフォーマンスを異化する不思議なコラボレーションが延々と続く。
その不思議なコラボが何を目指していたのかは、正確には分からない。「パフォーマンスや音楽がうるさい。ちゃんと話の内容を聞かせろ」と思ったところも多々ある。ところが30秒もすると、そのコラボの奇妙な魅力によく分からない納得をさせられてしまう…その繰り返しだ。
  
この患者たちとその告白話で、私が予想したような純然たる当事者演劇を作ることも可能だろう。ところが実際に出来てきたものは、表現としては極めてアーティスティック。当人たちのシリアスな実体験を異化し、何も断罪することなく、全てを肯定するような不思議な作品になっていた。「存在の耐えられない〈重さ〉」をあえて軽くするかのような作品と言ってもいい。その軽さを「希望」の1つの形とみなすこともできるだろう。
 
だから、内容に関しても未体験の表現にしても、 昨日見たやしゃごとは別の意味で「良い悪い/面白い面白くない」といった類の評価はしにくい。しかし「極めて斬新でインパクトのある作品」であり、その当事者性故に、繰り返しの再演は無理な一期一会の作品でもある…そのことは断言できる。平日の昼間にわざわざ日暮里まで見にいった甲斐があったというものだ。
 
ところで出演者の中には、倉田以外にも患者ではない人がいるように見える。告白をせず、パフォーマンスや、ただそこにいるだけのことが妙に堂に入った人たち。当日パンフで普通に名前を出している4人が多分そうなのだろう。ただ首吊りをした人をはじめ、リアルな告白をしているが素人とは思えないパフォーマンスをする人もいたので、あれがどちらなのかよく分からない。演出としては、多分そういったことはあえて伏せているのだろうが、やはり知りたくはなる。まあ彫り物だらけの人や指のない人は、さすがに本物で間違いないが。
 
akakilikeは、先の予定を見ると、次は普通の(?)ダンス公演に戻るようだが、何にせよ今後注目せざるをえない真にクリエイティヴなユニットであることは間違いなさそうだ。
 
 
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