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2019年08月26日00:20

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【映画】『アンダー・ユア・ベッド』思いもかけぬ本年度屈指の傑作

予告編で面白そうだったのと、公開後の評判が良いので見たのだが、これが予想を遥かに超える出来で驚いた。監督・脚本の安里麻里は、これまでさほど目立った作品は撮っていないようだが、この1作で大いに注目すべき作家の一人になったと言っていい。
 
本作はできるだけネタバレ無しで見る方が望ましいので、以下、かなり抽象的な表現が多くなる。まず、予告編を見れば誰でも江戸川乱歩の『人間椅子』をイメージするはずで、その手の耽美的エロティシズムに満ちた作品かと思ったが、それはかなり違った。確かに『人間椅子』がベースにあることは間違いなさそうだが、他にも本作には様々な映画の引用が溢れている。主人公の部屋に貼られた写真は誰が見ても『恐怖分子』だし、『裏窓』『善き人のソナタ』『愛に関する短いフィルム』などいろいろ上げられる。どれも渋い映画ばかりでマニア心をくすぐられるが、『恐怖分子』を筆頭に露骨過ぎる部分もあり、一歩間違えば、それがかえってマニアの反感を買うことになる。事実 部分的に見れば、失笑せざるをえないようなエピソードもあり、ネタ映画として終わるのではと心配した。しかも主人公のやっていることは紛れもない犯罪、変態的なストーカー行為であり、観客の共感以上に嫌悪を呼ぶ可能性大だ。主人公の孤独感は分かるが、後半は「この辺で終わったら、独り善がりの変態だよな」と思わせる、カミソリの刃の上を歩くような状態が続いた。
 
ところがどうだろう。本作は、変化球の上に変化球を重ねた物語の果てに、とんでもなくピュアなラヴストーリーへと奇跡のような着地を見せる。しかも、それをたった1つの要素によって成し遂げる。
しかし、それがたった1つであることが重要なのだ。たった1つの、ちっぽけな要素。「君が求めていたのはたったそれだけだったのか、君は本当にそこまで孤独だったのか、それだけのためにこんなことまでしたのか」と、堰を切ったように感動が押し寄せてくる。
そしてこの衝撃に最も良く似たものを探したとき、パトリス・ルコントの『仕立て屋の恋』が思い浮かんだ。あの壮絶なまでに悲しい、報われぬ愛の物語とは、着地点こそだいぶ違うものの、確かによく似た種類の感動であることを感じ取った。
繰り返すが、この変化球尽くめのストーリーは、観客の失笑や強い嫌悪を招く危険性が大きい。それを最終的に愛の物語として、ど真ん中ストライクにボールを叩き込むストーリーテリングは、まるで魔法を見ているようだった。
 
映画を見始めた当初は全員が「この役をやるには高良健吾はイケメン過ぎる」と思うことだろう。それは否定できないことだが、舞台でデヴィッド・ボウイがジョン・メリック(エレファントマン)を演じたように、観客が実際の見た目を超える本質を積極的に見いだすしかない。そのイケメンさに惑わされなければ(?)高良健吾は非常に良い演技をしていたと思う。あの暗い目は、顔立ちの良さ(←この作品ではマイナス要素)を超えた説得力を生み出していた。 
相手役の西川可奈子も、初めて見るが良い女優だ。格別の美人ではないが、人の心を解きほぐすような穏やかな空気感があり、本作の千尋役にはピッタリだった。彼女のフルヌードシーンや濡れ場もあるのだが、とある理由で(←ネタバレなので書けない)まったくエロくない。普通ならエロいシーンがむしろ嫌悪感を催すものになっていて、その点でも江戸川乱歩的な耽美的エロティシズムとはまったく違う世界だった。
 
だから、何か淫靡なエロ映画という印象を抱いている人も多そうだが(私もそうだった)、それは違う。昔のロマンポルノにありそうなストーリーとも言えるが、意外なほどじめじめした感じは無い。暗い話ではあるが、クールで静謐な肌触り。そしてラストは極めて感動的だ。そんなわけで、妙な偏見無しに見ることをオススメする。私は今年の日本映画のベストテン上位に間違い無く入れる。本当に見事な傑作だ。 

http://underyourbed.jp 
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