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2019年06月30日11:38

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「凪待ち」の俳優さんたち

主演はもちろん香取慎吾。

本人は「歌って踊るのは好きだけど、演技は好きって言えない」そうだ。
だからプレッシャーを感じないように、台本をもらったら「一度だけ」読んで、
あとは本番直前にもう一度読む。
監督さんに言わせれば「あまりにも忙しい仕事」をしていたから
その合間にうまく自分をコントロールするためのスキルだろうとのことだが、
正直なところ、全く期待してなかった香取くんの演技に驚かされた。

外見そのまま、子供がそのまま大きくなったような中年男。
しゃべりかたも舌たらずで声も甲高くてすごんでもすごみがなく、
子供が怒って騒いでむちゃくちゃに暴れているような感じ。
ガタイがでかいので力があり、ものを破壊し相手をぶっ飛ばすが、
本当にそうしたいのではなく、何かに当たり散らしたいだけのような印象。
我に返るとしゅんと小さくなってひたすら謝る。
親切にしてくれる人には無条件無警戒に心を許し、甘える。
ギャンブル依存で競輪にのめり込むのも、
登校拒否の美波がゲームに入れこむ姿と重なる、好きなことに夢中になるだけ。
解決できそうもない問題に正面から向き合ったりしない、こどもだから。

殴られて泥に汚れてよだれをたらし、目を充血させて「ころせー」と叫んでも、
広い肩をすぼめ大きな背中を丸めてしゃがみ込んで泣いても、
こどもの目には邪心はない。
これまで見ないようにしていた現実を少しずつ見て、
一生懸命理解しようとし、ほんの少しずつ成長していく。

育てようとしなければこどもは育たないし、
こども自身が成長しようと思わなければ、成長しないのだな、と思った。

育てたのは、もちろんきっかけは亜弓ではあるけれど、
実際には亜弓の父親の勝美だ。
吉澤健の見事な演技。
神奈川出身だと言うが地元漁師のような石巻の浜言葉をしゃべり、
潮風にさらされてがさついたしわのある漁師の顔をしている。

前科のあるやんちゃもので亜弓の母親との結婚もやっと許してもらえた、
結婚できなかったら自分はまっとうな生き方はできなかったし、
ずっと前に野垂れ死にしていただろう、とさらりと言う。

船を売った金を渡して「これで身辺きれいにしろ」と言う。
福島原発で除染作業をするのは競輪で作った200万の借金のため、
なんて郁夫は一言も言わなかったのに。
「働いて必ず返します」と頭を下げる郁夫に手をふって「いいがら」と言う。

昔の自分を見るようだと思ったのだろう。
昔の自分によく似た男に惚れた娘を不憫にも愛しくも思っただろう。
娘といっしょになっていればまっとうな生き方ができたかもしれない、と思えば
自分がこの男を助けなくてどうする、と思っただろう。

だから他の漁師が「いっしょに行ぐから」と言うのを断って
ひとりで暴力団事務所に乗り込むのもわかる。
組長は昔の悪仲間で話が通じるかもしれないが、
やらかしたことがでかければ、組長が不在であれば、自分も殺されるかもしれない。
それでも行く。
娘の大事な人でもあり、自分の分身、「息子」でもあるから。

組長の麿赤児がいい味を出している。
テント芝居の人であるだけに、台詞も登場シーンも少ないがものすごい存在感。
黙って郁夫を返す上にだまし取った金まであとで届けさせるのは
ものわかりがよすぎるが、それだけ「大きな恩義」が勝美にあるのだろう。
大きな郁夫を支えて「けぇるぞ」と去っていく勝美の背中にすごみを感じる。

違う時代を似たように生きたふたりの男を津波がつないだのだな、と思う。

香取慎吾と吉澤健、このふたりがいて成り立っている映画です。

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