mixiユーザー(id:66587952)

2019年03月23日00:01

59 view

二叉瀬川

二叉瀬川に竜が眠っていると祖母に聞いたことがある。


なにやらその竜というのは大罪を犯したらしく
それでその川の底に閉じ込められたそうだ。

話を聞かされた時はふ〜んそうなんだというぐらいだった。


でもわたしはあの時確かに竜を見た。
去年の夏の出来事───



わたしが中学校の帰り道二叉瀬川をさしかかったところ川で遊んでる二人組の男の子たちが眼下に見えた。
わたしは歩を進めながら何気なく男の子たちに
目を向ける。


すると男の子の一人が一瞬水中に消えたかと思うと顔半分出して手をバタバタともがいてるように見えた。

あの川で遊んだことのあるわたしは知ってる、
あそこには一部分足がつかない深いくぼみがあるということを。

わたしが遊んでいた頃は
その一部は囲われて入ったらいけないという注意書きがあったはずだ。

でも今見た限りそれらしきものは見当たらない。
わたしは急ぎ河原へと降りられる階段の方へ駈けていく。
まだ男の子の顔は出ている。

もう一人の子も異変に気づいたようで慌ててその子の元へ水を分けながら歩み寄る。

階段を駈け下りきったところで男の子の顔が見えなくなった。
わたしはごろごろした河原の石に足をとられながらも早く早くと足を急がせた。


その子がいる目先までくるが気泡がたっているだけで動きが感じられない。
わたしは手に持っていた鞄を投げ捨て無我夢中で川に飛び込んだ。


全身が水の中に浸かっても足が地に触れる感触はない。深い。

わたしはぼんやりと薄暗く視界の悪い中必死に目を凝らした。

男の子は?、

足元に目を向ける。
男の子が横向きになって底に吸い込まれてるように見えた。

わたしは手をかいて勢いよく頭から向かっていく
。手を伸ばして男の子の体を掴みにいく。


掴んだ!っ
と男の子の体を両手で抱えた瞬間、
底から二つの目が光った。
こちらを見射るような光。怖いっ、

それでも子供を助けることへの気持ちが
わたしの体を強く動かした。
引きずり込まれる恐怖を感じつつも
わたしは必死に地上の光をめざした。


「ぶはっっ!、」


地上に出た先にもう一人男の子の姿が目にとまる。
その子の方へ残る力を込めて片方の手を薙いだ。

「お姉ちゃんっ!!、だいじょうぶ!?、」

「ちょっと手を借して!っ、」


男の子の手を借り岸へと溺れた子を引き上げる。

顔が青白い、息は、してない、
わたしは保建の授業で習った人工呼吸をやってみる。
男の子の頭を上に傾け鼻を摘まんで口から息を吹き込む。そして胸部を3回両手で押しやった。
反応はない、
もう一度、


もう一度、


もう一度、


もう一度、


お願い、
この子を連れていかないでっ、









10回あたりを過ぎたころだろうか
この子が溺れた川の中が光って見えたのは。
そちらを振り向くとあの底で見た二つの目が光っている。ぶくぶくと水面を揺らして。

隣の子に目をやると顔をくしゃくしゃにさせて
溺れた子から目を離さずその子の名を叫んでいる。

もう一度川の方へ振り向くと
何事もなかったかのように水が流れていた。


「ェホッ!、」

溺れた子が大きく咳こんだ!っ、

だいじょうぶかと肩を揺らす隣の子。
うっすらと目を開く男の子。
わたしもだいじょうぶかと声をかける。
息してる。肩が上下してる。
よかった、

連れていかないでくれた…



その後その子は順調に回復していったらしい。
わたしの家にお礼しにきてくれたから。

元気になった顔を見れてうれしかった。



あの一件以来二叉瀬川の水深を浅くする工事が行われた。
これで誰か溺れる心配はなくなるだろう。
よかった。


でも
確かに竜はいたんだ。

祖母は3年前に亡くなって話をできなくて残念だけどお母さんに竜のことを話すと
お母さんはしばらく考えて


「昔ある女の人がいてその人には愛する男の人がいたの。
でもその男の人は新しい女の人を見つけその人の元から去っていってしまった。

裏切られた女の人は恨みで竜の姿に化わり
村中に災難をもたらした。
それをみかねた神様が川の底へと竜を閉じ込めてしまったのよ。」
だってさ。

それ本当?と聞くと
つくり話って笑って答えてた。
しかもうまいでしょみたいな顔して。
ちょっと無理矢理感あるよ。


でもなんだかわたしはそれで納得してしまったんだ。

案外そうなのかもしれない。


あの時
わたしの気持ちに自分を重ねたから
助けてくれたのかなって。



これからは安らかに眠っててください。

竜さん。

2 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する