埼玉県狭山市へ行ってきた。
狭山事件の現地調査の催しがあったから参加したのだ。
狭山事件は有名な誘拐殺人事件だ。
1963年5月1日に女子高生が行方不明になった。
その日に自宅へ脅迫状が届く。
被害者の姉が指定日に指定場所へ行った。
犯人が現れたが、潜んでいた警察を振り切って逃げてしまう。
5月4日、雑木林に埋められた遺体が発見される。
5月23日、同じ狭山市に住む石川さんが逮捕される。
しかし石川さんは冤罪で無実を主張する。
最後は最高裁で無期懲役になり、その後仮釈放されて、今も狭山市に住んでいる。
石川さんが被差別部落民だったので、部落解放同盟が差別裁判だとして大掛かりな反差別運動を繰り広げていた。
同盟休校といって、全国各地の部落の子供たちが一斉に学校を休んだりしたこともあった。
この事件がさらに不思議なことは、たくさんの関係者が謎の死を遂げていること。
被害者の兄弟や石川さんの知り合いなどが自殺したり事故死したりしている。
わたしも大学時代から狭山事件に興味があった。
関連図書を読んだり映画を観たりした。
だから、ずっと狭山に行きたいと思っていたのだ。
12月9日(日)
新幹線から西武新宿線に乗り換え狭山市駅に着いた。
関東の郊外にどこにでもあるような駅と街並みだ。
少し離れてイオンが見える。
12時、改札口へ行くと現地調査の参加者たちが集まっていた。
今回はわたしを入れて7人だ。
現地を案内してくれる方は狭山事件の専門家だ。
中学の頃から狭山市に住み、事件に興味を持って、もう40年以上も調査を続けている。
1台のワゴンに乗り合わせて出発した。
最初は奥富さんが勤めていた西武通運の跡地。
奥富さんは被害者宅の元使用人で、事件発生直後に自殺している。
真犯人かもしれなかったと言われている人だ。
跡地は狭山市駅のとなりで、今は駐車場になっている。
次は第2ガード。
事件発生の日、被害者が卒業した中学校の先生が被害者を見かけた場所だ。
1963年当時の西武新宿線は単線だった。
今は複線になっているのでガードも大きくなっている。
被害者が通っていた中学校、脅迫状を届けた交番の跡などを案内してもらう。
石川さんが勤めていたことのある養豚場の跡地。
すぐ近くに権現橋がある。
被害者の高校への通学路であり、脅迫状の指定場所に現れた犯人を追って警察犬がたどり着いた場所であり、被害者の同級生が首吊り自殺をしたところだ。
そして佐野屋酒店の跡地。
脅迫状の身代金受け渡し場所。
店はなくなって一般住宅が建っている。
当時は街頭もなく、夜になると人通りのない場所だったそうだ。
この茶畑を走って、犯人は養豚場の方へ逃げた。
薬研坂を通る。
被害者の通学路で、1キロに渡って民家がなく雑木林が続く不気味なところだったらしい。
当初はここが誘拐現場だと思われていた。
今はお店が建ち並ぶ賑やかな道路になっている。
駅に戻って徒歩で事件現場を巡る。
最初は被害者が通っていた川越高校入間川分校。
もう廃校になってマンションが建設中だ。
事件当日に被害者が下校後に歩いていった道をたどっていく。
被害者が最後に目撃された第1ガードに着いた。
まったく普通の高架ガードだ。
それから住宅街の中を歩く。
事件当時は一面の雑木林で家などなかった。
芋穴の跡地。
ここに被害者の死体がしばらく吊るされていた。
死体発見現場。
今は一般住宅になっている。
どちらももっとわかりやすい写真を撮った。
でもちょっと掲載するわけにいかない。
最後に石川さんの住宅跡。
狭山再審闘争勝利現地事務所の看板がある。
石川さんの自宅は1995年に不審火で全焼した。
その跡にはプレハブの小屋が建ち、旧宅の部屋が再現されている。
警察の捜査で被害者の万年筆が発見されたとされる鴨居だ。
これは警察の仕組んだ偽物の証拠だと言われている。
石川さんは近くのマンションに住んでいる。
たまに事務所にいると親切に応対していくれるそうだ。
このときは残念ながらお会いすることはできなかった。
現地調査が終わった。
案内者と参加者で駅の近くの食堂で打ち上げ乾杯をする。
さらにその後、駅ビルの喫茶店でも意見交換会があった。
それで午後8時過ぎまで、事件のお話を聞くことができた。
その中には公表できないオフレコ話もたくさんあった。
現地で案内してくれた場所もこれだけではない。
でもどこへ行ったかは書くことができない。
なぜなら狭山事件の特殊性が関係しているからだ。
殺人は田舎の濃密な人間関係のなかで起こった。
その後の展開も複雑な事情が絡み合い、空前絶後の奇妙な事件になったのだ。
何がなんだかよくわからんから知りたいという人は来年もまた現地調査があるので参加すればわかる。
みなさんと狭山市駅でお別れする。
皆んな殺人事件やミステリーに興味いっぱいの素敵な人達だった。
わたしは明日も関東で用事がある。
だから駅の近くのビジネスホテルを予約してある。
ホテルは石川さんの家や死体発見現場のすぐ近くだった。
コンビニで買い出しをして、独り静かに酒を飲んで狭山事件のことを考えていた。
翌日に続く
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