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2018年09月29日19:18

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ヴェルディ レクイエム

産業構造転換、というと真っ先に連想するのが、戦後初期の石炭から石油へのエネルギー転換だろう。

しかし、あまり話題にはないけど、1970-85年に掛けての日本のアルミニウム精錬産業の栄光と衰退もその一つと言えるだろう。

何しろ1975年頃まではアメリカに続いて世界第2位生産量を誇った日本のアルミニウム精錬業は、オイルショックの影響によりその後10年間くらいで見る影も無く、文字通り壊滅してしまったのだ。


僕が1975年に新入社員で入社した化学会社は、そのアルミニウム製錬でも国内最大手の素材メーカーだった。また配属先は愛媛県の、稼働を開始したばかりの世界最高・最新鋭の技術を誇る製錬工場だった。

しかし、その精錬工場の運命はあたかも戦艦大和のごとくだった。電解炉全炉が稼働した頃にはもう市場に陰りが見え始め、フル稼働したのはほんのわずかな期間だった。

僕が転職した1983年の翌年には、その世界最大・最新鋭工場は閉鎖されてしまった。たった9年間で巨大な工場が幕を閉じてしまったのだ。

僕が退職する前の1−2年間は会社を転職したり他社へ出向する社員を毎日のように見送る日々が続いた。僕は会社を去っていく人を皆で駅で見送くる時、万歳三唱する係りだった。(笑)

ある日、僕の所属する製造現場の人が自動車会社への出向が決まったと言うので送別会をした。その帰り道に会社の独身寮へ立ち寄られた。

僕の部屋のステレオとレコードを見て「へーっ、津島さんはクラシック音楽を聴くのですか?自分は生まれてこのかたクラシック音楽など聴いたことが無い・・・ 餞別に何か一つ聴かせてくれませんか?」と言った。

その時かけた曲がヴェルディ/レクイエムだった。(カラヤン/ベルリンフィル72年DG盤)その人は珍しく深刻な面持ちで聴き入っていた。察するに、大変気に入った風に見えたので、後にカセットテープに録音してプレゼントした。

それから暫くしてその人から手紙が来た。会社の社員に手紙を貰うのは初めてだった。内容は次のようなものだった。

「自動車の組み立ての仕事は慣れないせいもあって大変きつい。仕事から帰るともうクタクタだ。録音してもらったヴェルディ/レクイエムを毎晩、寝る前に聴くのが唯一の楽しみです・・・・」

素材産業の現場の仕事と自動車の組み立ての仕事は内容が180度異なる。毎日が大変な苦労だと思う。

その苦労をヴェルディのレクイエムはどのように癒したのだろうか?
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