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2018年04月07日17:13

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ラヴ・ディアス「立ち去った女」

「立ち去った女」(2016)
ANG BABAENG HUMAYO
THE WOMAN WHO LEFT

228分、フィリピン

監督・原案・脚本・撮影・編集 ラヴ・ディアス

3時間48分。
こんな映画をつくる人がいたという驚きとともに、2月に見てから大分たつのに、色あせない映画の記憶。
長い映画をスローシネマと呼ぶ流れもあるようだが、ソクーロフやタル・ベーラよりもわかりやすい。この映画の感触としては、溝口健二の「西鶴一代女」に近いものを感じた。

女たちが農園で働ている場面で始まり、なぜか銃を持った男が現れて話をしていた女性に注意する。農機具を返す場面でも銃を持った人がいる。場面変わって、宿舎。2段ベッドが3つぐらい置いてある部屋。お祈りをしている。奥のトイレから人が出てくる。ドアも開け放たれている。主人公が誰なのか、また、その場所が刑務所であるとわかるのは、大分後になってからである。画面はロングの長回し。ワンシーンワンカット。

別の場面。

釈放された主人公の女性が夜の住宅街にいる。
高級住宅に面したところだが、真っ暗で何も見えない。
「バロット」と大きな声を出す男がいるらしい。人影がようやくわかるぐらいの暗い画面。主人公の女性も影になって全く見えない。会話の内容から近くの高級住宅には土地の有力者が住んでおり、女性は彼に関心があるらしい。よく停電になる、パロットを売る男はこんな体だから、と話をしている。
でも、映像は長回しの真っ暗な画面のまま。
こんな映像を見せるのは、よほどストーリーテリングに自信がないと無理だ。
撮影に失敗したのか、とも思うのだが、これは狙って撮っていることが後あとになってわかってくる。

別の日にも、女性は夜の住宅街に立つ。
バロット売りと話をする。今度は二人の姿がはっきり写し出される。男はせむしだった。

という語り口。
パロットとは、育った有精卵をゆでたもの。殻を破ると雛が出てくるものだという。もちろん食べる場面がアップで描かれることはない。

警備員が常駐する高級住宅の近くだが、あばら家があり何人もの子どもを抱えた母親が大げんかをするような通り。

夜、下り坂の別の通りで、音楽もないのに、ひとり踊る女性を見る。
暗くて女性の顔はわからない。突然女性は倒れこみ、けいれんする。
主人公の女性は彼女を助け起こし介抱する。
別ショットに変わるが、女性の顔は見えないまま、その場面はおわる。
別の日の夜、女性と再会する。彼女は男だった。

このような語り口で物語が展開していって、全体像がわかるようになっていく。

女性は元教師なので教養もあり、30年間刑務所で鍛えられて武術も身に着けている。
だから夜の一人歩きは全く怖くない。

突き放した映像のようだが、語られる内容は被写体に対する愛情に満ちている。
3時間48分は全く短かった。

驚くべきはこうした映画をほぼ一人で作り上げていることだ。
ラヴ・ディアス。
どんな人か。気になるので、調べてみるとこういうサイトがあった。

<『立ち去った女』:ラヴ・ディアス監督 独占インタビュー>
https://i-d.vice.com/jp/article/evbqnn/the-woman-diretor-lav-diaz-interview

タルコフスキーの話題も出ているが、彼のような神秘的な映画というよりも写実的な映画だ。
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