心模様

今朝、出かける際、携帯（いまだスマホではありません）を持って出かけようと探したが見当たらない。
時々こんなこともあるが、いつもならすぐに所在はわかったのに、今日はどうにも見つからない。
固定電話から携帯に電話をかけてみる。音はすれども姿は見えず、こちらの部屋かあちらの部屋かと探しても見つからない。仕方なく娘に来てもらった。
娘は音のする部屋から難なく見つけてくれた。
情けない。耳も勘も悪くなったか、これも年のせいかと嘆きつつ、予定より小一時間遅れて重い足で買い物に出かけた。

その帰り道。
向かいから、年のころなら８０歳前後の弱弱しい女性が歩行器を頼りによろよろと歩いてきた。いかにも病身に見える痩せた小柄の女性で、品の良い面立ちをしていた。
こんなに寒い時に歩行器を使っての外出。どうしても出かけなきゃならない用があるのだろう。と気の毒に思いながらその女性を見るともなしに見ていると、巻いていたふわふわとした軽そうな毛のマフラーが、風にあおられて首元を離れて車道に飛んだ。
私はとっさに「マフラーが落ちましたよ」と４，５メートル手前から声をかけると、その女性は良く聞こえなかったと見えて、怪訝な顔で私を見た。
私は自分の首元に手を置いて再び「マフラーが飛びました」というとその女性はようやく気づいたらしく、同じように自分の首元に手を当てて振り返って飛んで行ったマフラーを見た。
あの弱弱しい体で後戻りをして腰をかがめて拾うには、少し無理がある。と感じた私は
歩を速めてそのマフラーのそばに行った。
車道の中ほどまで飛ばされていたなら到底拾えなかったが、車は赤信号で止まっていたし、そのマフラーは幸い歩道から一歩踏み出せば届くところにあった。
それを拾った私はその女性に手渡すと、女性は丁寧に何度も頭を下げて「ありがとうございました」といった。

一つ良いことをしたな。と自己満足で歩を進めていると、心なしか足取りが軽い。
心模様が体に及ぼす影響は、かなりのものがあるなと自らを笑いつつ、今朝携帯電話機が雲隠れした理由は、この女性のマフラーを拾ってあげるためのものだったのかと、勝手なことを思った私なのでした。