5月4日(木)
沢登り二日目だ。
朝から台湾名物の凶悪ゴルジュを突破する。
日本人たちはゴルジュの手前から高巻きしようとした。
そしたら黄さんや角さんが別の提案をする。
ゴルジュの中に入ってすぐのルンゼを登り、トラバース気味に越えよう。
恐ろしい提案だ。
でも台湾人にリードしてもらうことで、突っ込むことにした。
ビバーク地からすぐのゴルジュを右岸からへつる。
20メートルぐらいでボロボロの急斜面のルンゼに取り付く。
垂直に近く、ほとんどクライミングだ。
わたしは泳ぎは下手だけど、クライミングだったら、まあこのメンバーではイケるほうだ。
なんとかロープを頼りに登りきる。
その上ではまた、トラーバースのロープが作ってある。
細いバンドを用心しながら進む。
もう腕も足も疲れてきたころ、先頭の黄さんが崖の上にいた。
ここから懸垂下降だ。
先の人に続き、わたしも降りた。
素直に下ると滝の大きな釜にドボンと入ってしまう。
テラスから下流へトラバースして、また垂直に下りる。
これが難しくてロープが絡まってしまった。
さらに急斜面を降り、またもう一度懸垂下降した。
下ったところがゴルジュの出口だった。
時間は9時。
2時間のゴルジュ突破だった。
すぐ下には、へつりの嫌らしい滝があった。
これもロープで確保してもらい、振り子トラバースで抜ける。
その下の滝は、幸運なことに大きな流木丸太が引っかかっていた。
この上を渡ってなんとか下りる。
丸太の滝が中央尖渓の最後だった。
すぐに広い出合いに着いた。
10時30分だった。
この出合いから左側の南湖渓を遡行する。
最後は初日に泊まったオンボロ小屋に行き着くはず。
歩きはじめは大きな岩のゴーロ帯だった。
近い時に右岸が土砂崩れを起こしたようだ。
脆い土肌が露出している。
土砂崩れ地帯を抜けると緩やかな河原になった。
水量がそれなりに多いから気を抜けないけど、中央尖渓に比べれば簡単な沢だ。
調子よく距離を稼いでいく。
一箇所だけロープを使うところがあった。
岩の切り立った釜を回り込む。
ロープで確保しながら抜けるけど、2人ほど落ちてしまった。
一人はイケメン研修医の周くんだった。
クライミングが得意なはずだったけど、やはり岩登りと沢登りでは技術が違うのだろう。
13時30分、ゴルジュが現れた。
あらかじめ地図を見て、このあたりにあると予想していた。
どんな恐ろしいゴルジュなのだろうか。
黄さんが先頭で、普通に歩いていく。
たしかに狭くて岸壁の高い凶悪な様相だ。
でも水量が少ない。
沢の中を濡れながら歩いていける。
しかも滝など一つもない。
緊張しながら歩くうちに目の前がひらけた。
大きな河原が広がっている。
ゴルジュを抜けたのだ。
太陽の光が降りそそぎ、明るく幸せな沢の光景だ。
ホッとしてザックを下ろす。
ゴルジュの突破は10分で終わった。
ここから先は普通の河原が続いているだけらしい。
大きな川幅で、水量も少なくなってきた。
このまま南湖渓小屋まで行くこともできる。
でもボロ小屋に泊まるよりはタープの方が良い。
14時30分、もうちょっとで小屋に着くというところで、今日の行動は終わり。
これで予定より一日早く下山できる。
夜はまた焚き火で盛り上がった。
もう怖いところはない。
最後の夜だし、残った酒を飲めるだけ飲んだ。
5月5日(金)
7時に出発、7時30分に南湖渓ボロ小屋に着いた。
今日の沢登りは30分だった。
ここからは初日に歩いた登山道だ。
たしかに急登で長く、整備もされていない。
でも昨日までの困難に比べれば、全くどうってことない!
と思ったら、大きな間違いだった。
すでに山に入ってから6日間、日本を出てから一週間だ。
オジサンたちは疲れていた。
老化現象というのを計算に入れていなかった。
のろのろと30分歩いては10分休憩。
途中で珍しい花を見つけて撮影するふりをしながら息を整える。
すれ違う登山者がいれば、すぐに立ち止まり「どうぞゆっくり行ってください」なんて本心でお願いする。
それでもなんとか降り続けた。
登山口のキャベツ畑が見えた。
お百姓さんが野良仕事をしている。
正しい台湾の農村風景である。
登山口に着いた。
お迎えの自動車がいた。
そしてよく冷えた台湾ビールがあった!
よかった、これで生きて日本に帰れるぞ。
(台北でのドタバタ観光編へ続く)
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