5月1日(月)
この日から毎日5時に起きて7時に出発だった。
焚き火でお湯を沸かして朝食をとる。
小屋の裏から登山道が上がっている。
今日は300メートル登って500メートル下がる。
台湾の山は奥深い。
いくつもの前衛峰を越えていくのだ。
樹林の登りを歩く。
1時間半ほどで傾斜がゆるくなり下りになる。
下り斜面は松の木が群生している。
落ち葉が登山道に積み重なっている。
フェルト底の沢靴で歩いているので、何度も滑って転んでしまう。
一度転ぶと20キロの荷物で立ち上がるのはひと苦労だ。
沢靴なんか履いてくるんじゃなかった。
11時30分、沢まで下りてきた。
この流れが中央尖渓だ。
頂上近くまで遡行して行くことになる。
川幅は広い。
だけど道は河原に沿って続いている。
たまに渡渉がある。
どうしても水の中に入らなければならない。
やっぱり沢靴を履いてきてよかった。
水の中をジャブジャブと歩いていた。
14時ちょっと過ぎ、土手の上の草むらにボロ屋が見えた。
今日の宿泊、中央尖渓小屋だ。
昨晩とあまり変わらない、古くて傷んでいる。
また夜中にネズミが出てくるのだろうか。
今日は早いうちに宿泊地に着いた。
ゆっくりと焚き火を起こし、のんびりと酒を飲んだ。
5月2日(火)
今日は中央尖山へ登る。
台湾には五岳三尖といって、代表的な8つの山がある。
中央尖山はその中で、標高は5番目だけど最も登りにくい山だと言われている。
7時出発。
小屋の前の沢を遡行していく。
踏み跡らしきものがあったりなかったり。
ときどきケルンが積んである。
ここらへんで渡渉しろよという指示だ。
水の中に入り歩いて渡る。
膝くらいまで濡れてしまう。
二箇所ほど五メートルくらいの滝が出てきた。
どちらも巻道が右岸にあってフィックスロープがある。
いちおう安心なのだが、岩場の急な斜面だ。
高度感もあり緊張する。
これが本当に一般道なのか?
完全に沢登りじゃないか。
台湾人ハイカーと数人すれ違ったけど、みんな長靴で器用に登っていた。
「ニーハオ」なんて嬉しそうに声をかけてくる。
こちらは必死の形相で登っているのに。
それでも高度を上げるうちに水量も減ってきた。
源流の様相を呈してくる。
やがて水が枯れ、大きな石のガレ場になった。
ちょうどそのころ、今まで快晴だったのにガスが出てきた。
視界が悪くなる。
先が見えないまま、踏み跡を辿っていく。
3500メートルのコルに着いたのが11時30分だった。
沢の向こう側には太魯閣の山並みが見えるはずだけど、今日はガスで真っ白だ。
これから登る中央尖山の頂上も霧に隠れている。
コルから尾根筋を登っていく。
すでに森林限界を越えている。
高山植物が地を這うように生えている。
道はなだらかで分かりやすい。
30分ほどで岩場になってくる。
急斜面の巨岩をフィックスを頼りに登る。
上がりきったところが頂上だった。
12時30分、中央尖山(3705m)に登頂した。
ガスのため景色は全く見えない。
岩の塊と白い空間があるだけ。
それでも嬉しかった。
わざわざ日本から、このために来たのだから。
お互いに握手して、順番に記念撮影した。
頂上でじっとしていると寒くなってくる。
風が強いし気温も低い。
そそくさと登ってきた道を下山する。
コルまで下ったとき、少し雲が晴れた。
ちょっとだけ景色や登ってきた岩峰が見えた。
帰り道もガレ場や沢を下っていく。
またしても岩を乗り越え、膝まで濡れての渡渉をする。
高巻きしたところでは、面倒だからと滝を飛び降りた。
腰まで水に浸かってしまった。
17時、小屋に戻ってきた。
急いで焚き火を起こす。
大きな丸太をたくさん燃やしたから靴も服もすぐに乾いた。
でも本格的な沢登りは明日からだ。
たぶん全身ずぶ濡れで滝壺を泳ぐことになるだろう。
水が苦手なわたしは、ハラハラドキドキしながら就寝した。
(つづく)
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