2月7日(火)
今日から3日間かけてキリマンジャロの西側から東側の方へ歩いて行く。
そのあいだ高度はあまり上がらない。
4000メートルから4500メートルぐらいを登ったり下ったりする。
一つには高度順化が目的でもある。
ほとんどの日本人は富士山の高さ3770メートルを越えると、なんとなく身体に変調が出てくる。
空気中の酸素も約半分になるからだ。
メンバーも歩いているときに頭痛を訴えたり、食欲不振になったりしだした。
わたしは今までの高所登山の経験から、早めの深呼吸が効果的だと考えている。
富士山より高くなったら、普通に立ち止まっているときでも大きく早く呼吸をするように心がける。
地上だったら過呼吸で倒れてしまうぐらいに。
4000メートル以上の高地では、いくらたくさん呼吸をしても足りないぐらい。
とにかくたくさんの酸素を心肺に取り入れることだ。
一緒に登っているメンバーには、くどいぐらいに「深呼吸をしろ」と注意を促した。
朝8時、シーラ2キャンプを出発。
朝日に照り映えるキリマンジャロが美しい。
振り返るとメルー山が彼方にそびえ立つ。
4000メートル級で国立公園の中にある山だ。
緩やかな斜面を登っていく。
日が昇ってくると暖かく、のんびりハイキングの気分だ。
ちょっとした岩場の上が峠になっている。
そこから先を見ると、なだらかな下りと上りの道だ。
高度順化のためゆっくり歩いて行く。
やがて今日の最高地点、ラヴァータワーが見えてきた。
4640メートルだ。
大きな岩の塊が尾根の先っぽにある。
その手前がマチャメルートとの合流点だ。
レモショルートよりも少し短いので登る人も多い。
広い緩斜面の尾根を登ってくる人が見える。
合流点まで登り、フラットな道を歩くとラヴァータワーに着いた。
見上げると金峰山の畳岩より少し大きいぐらいだろうか。
簡単に登れそうな感じだけど、そのためにはスペシャルエクスペディションが必要だと言われてしまった。
時間は13時。
ここでランチボックスの昼食。
ラヴァータワーから先は岩場の長い下りだった。
下りきるとまた緩やかな登り。
それぞれ200メートルぐらいだろうか。
次の峠を越えていくと、見たことのないシュロのような植物が群生していた。
サボテンの一種のようだけど。
奇妙な光景を眺めながら下り気味に歩いていくと、今日のキャンプ地が見えてきた。
バランコキャンプ、3960メートルだった。
17時到着。
キャンプ地は、ちょうど大きな2つの渓谷の出合いの突端にある。
出合いの真上まで行ってみた。
200メートルほど下に河原があった。
キリマンジャロのスケールの大きさに感動する。
2月8日(水)
8時30分出発。
バランコキャンプの先には大きな断層がある。
100メートル以上登る。
岩場の急斜面だ。
といっても、たくさんの登山者が登っているから足場はしっかりしている。
楽に登っていった。
でもポーターさんは20キロの荷物を頭の上に乗せて歩いているのだ。
わたしのすぐ前でも、ポーターさんが一人落ちていた。
自分の荷物は大丈夫だろうか。
心配しながら、次の斜面へ行く。
2時間ほどで急斜面を抜ける。
また広い原野があった。
キリマンジャロの氷河もすぐ上に迫ってきた。
なだらかな下りと登り、といっても200メートル以上の高度差の斜面を歩いて行く。
最後にちょっと急な岩場を乗り越えるとカランガキャンプが見えた。
でも、そこに行くまで200メートルほどの急斜面を下り、また200メートル登らなければならない。
この先に大きな沢が流れているからだ。
長い橋を架けてくれれば楽に渡ってたどり着くのに。
文句を言いながら砂のザレ場を下りていく。
下りきったところの沢の流れが最後の水場だ。
ここから頂上まで水は流れていない。
ポーターさんたちは今晩と明日のキャンプ地へ往復して水を担ぎ上げる。
ご苦労さまなことだ。
登頂に成功したらチップをたくさん差し上げよう。
カランガキャンプは標高4035メートル。
キリマンジャロにしては狭い尾根の上にあるキャンプ地だ。
到着したのが12時30分。
今日は午後から高度順化を兼ねて休憩をする。
食事テントで昼食を済ませ、そのままお茶コーヒーを飲みながら過ごした。
メンバーとはもうすっかり打ち解けて、お互いの身の上話をしたりする。
楽しく時間を過ごすうちに夕食になる。
2月9日(木)
今日も行程は短い。
明日がアタックの日なので、最終キャンプまで行き身体を休めるのだ。
8時30分、カランガキャンプを出発。
とりあえずはキャンプ地の先の尾根を登っていく。
今日も天気が良くて、整備された緩やかな道で、6000メートルの山を登りに来たとは思えないようなのんびり気分だ。
他のメンバーは6000メートルの高度が初めてで緊張気味になっている。
高度障害というのはメンタルな部分も影響する。
リラックスするように促すけど、頭痛、疲労、食欲不振が出ている人もいる。
尾根を登りきると、また岩の原野をゆっくり下って登る。
かなりの広さと距離があり、日本の山ならすごい道のりだけど、もう毎日のことだから慣れてきた。
最後の岩場を登りきるとバラフキャンプだ。
標高は4670メートル。
ここからはキリマンジャロのもう一つの頂上、マウェンジ峰(5149m)も眺められる。
鋭い岩場で格好のいい山だ。
時間はまだ12時。
昼食を終えて、のんびりしたいところだ。
でも今晩の22時30分に起きて、23時30分に頂上へ向けて登り始めなければいけない。
早く眠って、寝不足で倒れないようにしなければ。
装備を整え昼寝をしようとするが、そんなに都合よく眠くならない。
テントの中で横たわりながら、登頂にむけ期待で胸がいっぱいになる。
(つづく)
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