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2017年02月02日23:47

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平安五神伝外伝 閉ざされし屋敷の主9

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●●●

「道長様〜、保栄殿〜!只今戻りましたー!」
「おぉ、戻ったか!」
「首は繋がっているようだな」

光の半円に飛び込み光元が現実の世界へ帰還すると、保栄と道長が出迎えてくれた。空が赤く染まり、日が暮れようとしていた。

「嘘?!もう夕方!?」

夕日に向かって絶叫する光元。そんな彼の頭や衣服に触れて触診する保栄。呪詛などがかけられていた場合、目視だけでは信用に足らないからだ。

「や、保栄殿、そんなにしっかり調べなくても大丈夫ですって!」
「万一があっては兄様に任された私の面目が立たないからな」
一通り調べ終わり満足したらしい保栄は、仕舞いとばかりに光元の頭を軽く撫でて手を離す。
「よし・・・どうやら無傷で済んだようだな」
「はい、何処も異常はありません!あ・・・でも沢女ちゃんが巻き添えをくらってしまって・・・」

光元が申し訳なさそうな表情で懐から起きない妖女を取り出す。

「・・・そうか。沢女も頑張ったようだな。後で労っておこう」

保栄は重く頷いて己の式神を受け取る。すさまじい激闘があったのだろうと憂慮しているようなので、まさか身内の事故が原因とは口が裂けても言えない。

「異界を作っていた方が理解のある方で、ほぼ話し合いだけで別の場所に移動して頂ける事になり助かりました。今夜中には移動を開始されると思います」
「上出来だな。ほぼ最善の結果が出せ私としても満足だ。神相当の実力者相手に武力行使など御免被りたい所であるし・・・」
「保栄殿も、ほぼ一日力を使わせてしまって申し訳ありません。お疲れではありませんか?」
「私は特にどうという事もないさ。特にお前とは比べるべくもない・・・」

手を打ち鳴らす音がして、報告と労いの言葉をかけあう陰陽師二人の注意が向く。腰に手を置いた道長が朗らかな笑みを浮かべていた。

「二人とも!今日は私の為によく働いてくれた!夕飯を作らせてあるから存分に食べて帰ってくれ」
「わーい!」
「ありがとうございます、道長様」
「礼などいらぬ。感謝したいのは私の方だからな。ついでにだが・・・光元、完成した折には、この屋敷をしばらくお前に預けようと思う」
「え―――?!」

まさかの提案に光元の目と口が丸くなる。

「元々使い道の薄い屋敷になるはずだったのだ。空き家のままでは雑鬼が蔓延ると忠憲も言っていたし、ならいっそ他人の家に居候している陰陽師に預ける方が有益というものだ。それに此処なら我が家にも賀茂家にも近いし、何かと便利だろう」

驚きで固まったままの光元の背を保栄が叩く。

「・・・おい光元、ちゃんと礼を言わないかっ」
「あ、ありがとうございます!!」

我に返った少年の、この日一番の声が夕刻の平安京に響き渡った。


○○○


その夜。

「ま、その理解ある方の去った所がまさか自宅だなんて、さしもの保栄殿も考えなかっただろうけど・・・物は言いようだよねぇ」
「・・・お前なぁ・・・」

光元の自室には書物を読み漁りながら上機嫌な部屋の主人と、その様子に呆れ顔の男の姿があった。光元の周りに散らばる書物は妖異の特性や呼称に関したもの、特に水妖のものが多い。

「君って本性は何になるんだろ?ちょっと人化解いてみる事とかって出来るのかな?」
「出来ない事もないがこの部屋だと手狭だな。外に出れば・・・」
「それはダメ。他の陰陽師に見つかって滅されても責任とらないからねっ」
「外に出て早々、それは御免こうむる」

屋敷を出たのに、今度は小さな部屋に閉じ込めるとはどういった了見なのだろうか・・・と思わなくもない男である。
二人が協力関係になって間もなく、部屋で光元が用いた呪符は人形(ひとがた)と呼ばれる、文字通り人間を模したものであった。人の身代わりの役目を果たすそれを男に用い、異界にその身代わりこそがこの世界の基盤であると定義を付け替えたのだ。その所業は全て光元によるもの。その手腕は妖異の男も舌を巻く程だった・・・のだが、こうして公の場にいない彼はやや自堕落な普通の少年に見える。

「そうそう、いつまでも呼び名がないのも変だし、不便だし、君に名前を付けてあげないと!この陰陽師が、言霊を授けてしんぜよーーぅ!」
「わかったわかった・・・」

こいつ酔ってるのか、面倒くさい・・・と男は生返事で承諾する。やる事もないので手近な巻物を手に取って眺め始める。この世界の文字は知識にあったらしい。なんとか読める。

「んーとね・・・みど・・・違うな〜・・・じゃあねぇ・・・クーちゃん!」
「・・・・・・なんだと?」

未確認生物でも眺めるような視線が飛ぶ。が、書物に目を通している光元はまるで意に介さない。

「黒いからクーちゃん。わぉ!すっごいわかりやすーい!僕って天才かもぉ!!」

自画自賛のご様子である。

「光元・・・今からでも変える気はないか?」
「え?ないけど?」
「あ、はい・・・」

断言されて男・・・もといクーちゃんはすごすご引き下がった。現在進行形で大量の妖異の名前を眺めている人間がその名を付けるのだ。やり直させて悪化の一途を辿るよりマシだと判断したのだ。

「・・・自分の名前くらい決めさせろ、くらい言えばよかったな・・・」
男の落胆の姿は、彼の本性探しに興じている主人の目には入らない。



一方その頃、保栄の自室。

「沢女、いいのか?今日の働きの褒美に好きな物を買ってやると言っているのに」
「そんなぁ〜〜!私はこうして保栄様にお酌をして頂いて、晩酌をご一緒させて頂けるだけで充分なのでございますよぉ〜〜」

保栄と沢女が酒を交わしていた。握りこぶし大の大きさの沢女が用いる酒杯や食器は、全て保栄の手作りである。材木の切れ端や使われなくなった陶器から削り出したものだが、きちんと漆や模様まで塗られていて見栄えが良い。保栄は手先の器用さは一族で一番を自負しており、沢女も非常に気に入っている。そんな手製の酒杯には一、二滴ずつしか入らないが、彼女の身の丈を考えれば充分だろう。

「そうか・・・まぁ、飲み過ぎないようにな。明日も出仕だし」
「でもぉ、最後は光元様に助けて頂いて・・・事の顛末(てんまつ)を見届けられず申し訳ございませんでした〜〜!ふえぇ〜〜」

今回の沢女同行の目的は光元への助力が本命だが、加えて彼の実力を測る意図も含んでいた。それを察知して臨んだ沢女であったが、後者の目標をほとんど達成できず悔やんでいるのだった。

「それはもう済んだ事だ。飲んで忘れろ、な?」

保栄的には、修験者の九字印を模倣された件だけでも充分成果はあったと見ている。あとの問題は沢女の満ち足りない心をどうするか、という事だけだ。
一息に煽られ、空になった杯に更に注いでやる。いっそ酔い潰せばいい作戦である。

「ック、ヒック・・・ク・・・フ・・・・・・」
「沢女?」

泣き声の質が不意に変わった。

「フ・・・フフ、アハハハハハハ!」
「沢女?!どうした沢女?!」
「なんだか悲しさを超えたら何やら楽しくなって参りました!!保栄様、碁を打ちましょう!それから和歌作りと貝合わせです!!アハッ、今夜は寝かせませんよぉ!!」
「沢女ぇーーーー?!」

結局、保栄は目標だった十日きっかりろくに眠れなかったとか、寝た気がしなかったとか・・・。


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