10月27日(木)
7時過ぎにトゥルカのロッジを出発した。
ロッジにいたワンコがわたしたちのあとを付いてきた。
一緒にアンナプルナBCまで行くか??
なんて話しかけながら歩いていたけど、次の集落で地元のワンコに吠えかけられて引き返していった。
今日の目的地はチョムロンだ。
標高は2170メートルで、ちょっと大きな村だ。
そこに行くまでに川沿いの渓谷を歩く。
モディコラ川という大きな流れだ。
川には、いくつもの支流が合流している。
それを越えるために、尾根を上がり、下り、橋を渡らなければならない。
だから登ったり下ったりの連続だ。
橋は小さな木製の吊橋だ。
なかには崩壊寸前の頼りないのもある。
午後2時過ぎ、ジヌダンダという集落でランチ。
またダルバードを食べる。
ここから標高差400メートルの斜面を登る。
喘ぎながらたどり着いたのがチョムロンだった。
ロッジの正面にアンナプルナが見えた。
ポーターさんたちが、わたしの荷物を持ってきてくれた。
荷解きして着替えて落ち着く。
ホットシャワーが出るというので、身体を洗う。
まだ4時だ。
これから夜までやることがない。
みんなでトランプをした。
ネパール人というのはトランプが好きで、どこでもやっている。
去年のネパール地震のときも避難所でみんな賭けトランプに興じていたそうだ。
「食事はタダだったし、一日中トランプができたし、地震のときは楽しかったなあ」
などと言っていた。
わたしはトランプでは神経衰弱ゲームが得意だ。
裏側に伏せたカードをめくって同じ数字を当てていくやつ。
地酒焼酎のロキシーというのを飲みながら神経衰弱をやった。
でも、ことごとく勝ってしまう。
酔っぱらいのオジサンに負けてよほど悔しいのだろう。
若いポーターさんたちは何度も勝負を挑んできた。
そのたびに敗退して、真剣になってくるのだが、わたしのほうが強い。
じつは神経衰弱ゲームにはコツがある。
13種類の数字のカードを記憶するのは、普通の人間の脳では無理だ。
だから半分だけ、1から7までだけを覚えるようにする。
そうすれば記憶力の減退したオジサンでも勝つことができるのだ。
夕食の前に、シタールくんがアルミホイールに包んだものを持ってやってきた。
「サプライズがあります!」
なんて言っている。
包を広げるとチョコレートケーキだった。
ロッジの下のお菓子屋さんで買ってきたという。
今日はシタールくんの32歳の誕生日だった。
お祝いに、みんなにケーキをふるまうのだという。
なんかおかしい話だなあ、と思っていたらイギリス在住のインテリ男が教えてくれた。
欧米では誕生日を迎えると、このように周りの人にプレゼントしたりごちそうしたりするそうだ。
勤務先でも転勤になったりすると、送別会は本人が企画して、金を出して、同僚を招待するそうだ。
喜びを他の人に分け与えるということなのだろう。
考えてみれば、この方が理にかなっているかもしれない。
この席に、ガイドのカピラさんもいた。
わたしに訊いてきた。
「彼は何歳になったの?」
「32歳だって」
「ふーん」
一瞬、ガイドさんが25歳独身女性の目になったのを、鋭いわたしは見逃さなかった。
10月28日(金)
8時頃、チョムロンのロッジを出発する。
いきなり下り200メートル。
下りきってから橋を渡り、300メートルを登る。
登り返しの多いコースだ。
日本だったら大きな橋を一つ架けるだけだろう。
だけどネパールの奥地ではオンボロの吊橋しか作れないから、支流があるたびに大きく下り大きく登る。
もう一度200メートル下ってバンブーに到着。
ここでランチタイム。
さらに上り下りしてドバンに着いた。
ここが今日の宿泊ロッジのあるところ。
標高は2600メートルまで上がった。
でもまだまだ大きな木が生えている森の中だ。
今夜の部屋はトタンとベニヤで囲った粗末な建物だった。
薄い板一枚で組み立ててあるから、隣の人の話し声が臨場感を持って聞こえてくる。
なかなか楽しい。
どうしてこんな部屋になったかというとイギリス人の団体さんと一緒になったからだ。
食堂に行っても20人以上のイギリス人で満員だ。
白人は身体が大きいから狭苦しい。
このアンナプルナBCへのトレッキングルートは人気コースだ。
だからいろんな国の人が、たくさん行き交っている。
いちばん多そうなのがヨーロッパ人で、イギリス、フランス、ドイツ、それにスカンジナビア地方の人など。
アメリカ人は意外に少ない。
アジア人では韓国、台湾、マレーシア人が多い。
以前は外国人の半分以上が日本人だったのに、最近はちょっとしかいない。
それもリタイアした中高年ばかり。
日本の若者はどうしたのだろう。
なんか我が国の将来が心配だなあ。
夕方から雨が降り出した。
かなりの本降りだ。
ガイドさんに「明日も雨かもしれないので、濡れないようにパッキングしてください」と言われた。
着替えや貴重品をビニール袋に入れて、雨天仕様にする。
わたしの雨ガッパは10年以上前のものだ。
防水機能ゼロで透水性抜群だ。
ちょっと心配になりながら、トタン屋根とベニヤ板の部屋で就寝。
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