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2016年10月29日09:45

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マスターができるまで ナツコの恋 83

それは昨夜俺が監禁されていた家とは異なってはいたが、かなり、近い場所に立てられていた。
あたりには人影もなかった。
うっすらと見える灯りだけが不気味だった。
ノグチやヤマナカ君たちは警察にいると思っても、万一の事を考えると俺は足がすくむのを禁じ得なかった。
その時、俺は、社宅の脇に自転車が立てかけられている事に気がついた。
最初は暗くてよくわからなかった。
しかし、近づいてよく見てみると、それはマナブのモノのように見えた。
俺の家に来る時、よくそれと似たような自転車に乗っているマナブだったからだ。
俺は
『まさか、、』
と思ったが再三再四見ればみるほど、それはマナブのものに酷似していた。
俺は
『なんでこがなとこにマナブちゃんがおるんじゃろ、、』
と思った。
しかし、マナブがここにいるという事は、ヤマナカ君たちの一派はいないと言う事になるので、そう確信を得た俺は、それまでよりもしっかりとした足取りで、社宅の方へ歩いて行った。
すると、いきなり扉の向こうから
『そがん事いうてもシノハラ先生は悪くないもん』
と言う声が聞こえた。
俺は
『あ』
と言いそうになった。
それはナツコの声だったからだ。
『みんなはシノハラ先生を色眼鏡で見とんじゃ
シノハラ先生が八木のオジさんを焼き殺したと疑っとんじゃ』
ナツコは言い募っていた。
時折マナブが
『そがな事、誰も思ってないって。
じゃって火事の犯人は捕まったがな』
と宥めていた。
するとナツコは
『いいや』
と否定し
『絶対疑っとる。
八木のおじさんとこの火事だけ別に犯人がおると警察では睨んどる!
私にはわかるんじゃ』
と言い、
『そもそもウチの先生じゃって、そう思っとる。
じゃからこそあの湯のみを出せいうてあの時、言われたんじゃ。
あの時は先生にああ言われたから、黙って出してしまったけど、出さんかったらよかった。
今更ながら後悔するわ。』
と言った。
そこまでナツコが言い切ると、マナブも返す言葉がないとみえて、しばらく黙っていた。
するとそのウチ、何かをひらめいたと見え
『そうじゃ!』
と言うマナブの声が聞こえた。
『万一、シノハラ先生にあらぬ疑いがかけられているとしても、シノハラ先生には、レッキとしたアリバイがあるが。
八木のオジさんの家が燃えたんは元旦の夜じゃろ
あの晩は、ボクらぁが訪問させてもらった晩じゃが。
シノハラ先生、三日三晩夜通しで窯の番をせんとおえんって、ボクらぁにも言われたが。
な?
窯の番をしとる人がどうして、放火やこうに行ける
どこにそがな時間がある。
たとえ奥さんがシノハラ先生のアリバイ作りに協力したとしてじゃ、他の事ならいざ知らず、窯の番みたいな専門的な事はできまぁ、、
第一、シノハラ先生と奥さんてものすごい仲悪かったが、
なんでそがな夫婦仲の悪いモンが、そうでのうても難しい作業をしてまでアリバイ作りに協力する?
せまぁ?
無理じゃろ。』
と言い、
『思い出してみね
あの燃え盛る窯に中に延々とマキをくべる作業を、、
例えやってあげようと思うても、あれは、おいそれと変わってあげれるもんじゃねいよ
ヨシヒロちゃんやこ、へっぴり腰でおたおたしとったが』
と言った。
思いがけない所で俺の名前が、それもよくないシーンで出て来た事に、俺はびっくりし
『それはなかろう』
と言い、中に入って行こうとした。
その時、
『じゃって』
と遮り
『夫婦仲が悪いと言うんは、あれは嘘で、ホンマは仲良しじゃ、ってみんな言うんじゃもん
仲良しなら、なんかアリバイ工作してあげとるかもしれんが、、、』
と最後のあたりは涙声になりつつ、ナツコはそう言った。。
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