いつかの風の続きに吹かれてしまって
半券だけ握りしめたてのひらのなかで
冬を帯びた流れに冷えた手をポケットに
ポケットの中は闇で暗くてきっと黒い
ポケットの中は温度で少しオレンジ色
肖像画をすごくじょうずに描ける才能
そんなものがないけれど描写してみたい
輪郭も表面も質感も内奥も知らない人を
きちんとしたまなざしで捉えてみたくて
かわりに写真を撮らせてくださいと言う
きっとあなたが好きであろうおっとりした
映画に出てくるワンシーンの人物に
なりきった様子ではにかんで歩いている
そこにいつかの風の続きは容赦なく吹くよ
ぼくの中のフィルムであなたが撮る映画が
それぞれのフィルモグラフィーは交錯してく
容赦なく瞬間をどんどんと切り抜いていき
はじまる前からそれはいつだって上映されて
われわれはそのたびに答え合わせをしていく
どんな人物としての自分で彼女の前に
現れていくの洗われていくの立ち尽くして
ぼやけた空をひたすらうつすのは
すました水面をただようように見てるのは
そこにある心情を奪われた手法で集めるため
はなればなれになってしまうかなしい予感に
歯止めをかけるために風にさみしさをまぶした
でもどうやっても全然足りなくて届かないの
きっとどこか最初からラストシーンで始めて
なぜかわけもわからず始まっていくのだから
失われた喪失感を逆転の世界から探していく
そんな最中にだってきっと誰かに出会えていく
今後ぼくが育てていくであろう肖像画の一部
どこからともなくひたすらに描いている
出来あがったらぼくの表情のパレットに
上乗せしながらさりげなく言葉で何か伝える
ありがとうさみしい季節ずっと一緒の季節
夢みがちなあたたかい気持ち灯して歩く季節
夕暮れ時のまなざしで一秒でも長く瞳を見つめて
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