昨晩、上山城資料館の学芸員さん達とうまい酒・まずい酒という四方山話をしていて、思い出したこと。
2007年ごろ、島根県のある町に名主座の古文書調査に行った。調査も無事終わり、地元の方々と一献することとなった。ビールで乾杯したあと、地元のお年寄りがおもむろに一升瓶を差し出してきた。
そしていわく、「先生、この酒まずいから飲んでみ〜」(方言の再現はいい加減)。
こんなことを言われるのは初めてなので、びっくりした。恐る恐る茶碗にお酒を注いでもらった。一口飲み、確かにまずい。困った顔をしている僕に「まずいべ〜」(同じく再現はいい加減)とたたみかける。
そしておもむろにその理由を話してくれた。
この酒は、島根県のある総理大臣経験者の酒蔵のものだという。その方を議員にするためだか総理にするためだか、その酒蔵の一番桶(一番おいしくできた酒の桶ということらしい)を灘に売って資金を捻出したという。そして後援者の方々は、二番桶以下のまずい酒をあえて買うことで、その議員を応援してきたそうだ。
その話を聞いて、また飲んでみた。しかし、やはりまずいものはまずい(笑)。
悪いことをしたわけでもないし、恥ずかしい話でもない。それとは逆に、地元の方々としては自慢話として話してくれたのである。
ただ企業倫理としてまずい酒を飲ませるのは、酒飲みとしては許しがたい。
一服の清涼剤と心の隅の義憤がないまぜになった複雑な気持ちになった。
この議員、総理大臣経験者が誰であるか、察しの良い方はおわかりであろう。僕はもちろん実名でこの話を聞いた。
しかしこれは酒造会社の内部事情にも関わる話であり、ある意味プライバシーに属するとも言える。読者諸賢においては、あえて詮索なさらないようお願いしたい。
長らく酒を飲んできたが、「この酒はまずいです」と言って勧められたのは、後にも先にもこの時だけである。
ログインしてコメントを確認・投稿する