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2016年05月19日22:57

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マスターができるまで ナツコの恋 41

それから、ナツコの様子が変わった。
ヤマナカ君の事をあまり口にしなくなったし、マナブと一緒に下校する事もマレになった。
ナツコに頼まれ、ヤマナカ君の勤務状態を調べさせられたマナブは、その事が不満であるのか、俺の勉強を見がてら、我が家にやって来たある日、
『カサハラさん、どがんかしとるわ』
とため息をはき
『ボクにヤマナカの事、調べさせたりしたくせに、この間もそのはなしをしたら
「もう、そのはなしはええんよ」
とか言うて。
あれだけヤマナカの事、疑っていたくせに
どしたんじゃろ?
むしろボクの方こそ、ヤマナカが怪しいような気が、濃厚になって来たんじゃけどなぁ』
と言った。
聞きとがめた俺が
『どして。
どしてそがな気がするん』
と言うと
『じゃってな、ここだけのはなしじゃけんど、ヤマナカ、最近になって「カモメ塾」辞めたんで。
タニヨシ君がそう言うとったわぁ』
と言い、
『あそこほどええ時給のバイト先やこそうあるもんでもねえのに、ここに来て急に辞めるじゃなんて、おかしいと思わんか?』
と言った。
『そうじゃなぁ、、』
曖昧に俺がそう言うと、再度、マナブは
『それに、ヤマナカは、レモンのウエィトレスとも何かありそうなんじゃ
この間もボクが時間より少し早く行くと、カウンターで、ヤマナカが、ウエィトレスと、深刻そうな顔をして何かはなしとったもん。
あれは絶対、普通の会話じゃぁねえな』
と言い、
『オトコのオンナの会話じゃな』
と付け足した。
俺が
『ほう』
と言うとマナブは
『あ、いけん、いけん。
ノブエおばさんには黙っとってな。
ボクがオトコとオンナの会話じゃなんぞ言うとった事』
と慌てた。
俺が
『言わんよ、そがな事』
と言い
『そのはなし、ナッちゃんにした?
そのはなしじゃったらナッちゃんも食いついてくるじゃろ』
と言うと
『ボクの言う事やこ聞いてくれんよ、
カサハラさん、
完璧に変わったもん』
と言い
『絶対、ノブエおばさんには言わんでよ』
と再度、言った。
よくわからなかったがマナブにそう言われた俺は、ヤマナカ君が怪しいような気がして来た。
『テング』
という口癖の事は偶然としても、お宮で聞いたヒソヒソ話しと言いにわかの辞職といい、ヤマナカ君の態度には不鮮明な事が多かった。
そんなある日、学校が早く終わった俺は、偶然、我が家の前に自転車を止めて、歯科医院の方に入って行っているナツコの姿を見かけた。
ナツコは小脇にポーチのようなものを持っており、

 花嫁は夜汽車に乗って
 嫁いで行くの

と鼻歌を歌っていた。
俺は、先日、マナブから聞いた話しをするなら今だと思い
『ナッちゃん、ナッちゃん』
と声をかけた。
しかし、聞こえないのか、ナツコはどんどんと歯科医院へ通じる専用の階段を登って行った。
仕方なく俺も後を追った。
父から、子供が診療所の方に入る事は禁じられていたが、このさい、背にハラは変えられない気持ちだった。
二階へ上がって行くと父も患者さんもおらず、待合室のテレビのスイッチも切られていた。
丁度、夕方までの休憩時間に相当していたからだ。
ナツコは控え室で着替えをしていると見え、最前と同じメロディが小さな鼻歌となって、そこから流れて来ていた。
俺は無人の待合室の椅子に腰掛け、ナツコが出てくるのを待った。
やがて、白衣に着がえたナツコが出て来た。
『ナッちゃん』
と俺が声をかけると、文字通り、ナツコは飛び上がらんばかりに驚き、
『きゃ!』
と言い、声の主が俺である事に気がつくと
『何じゃ、
ヨシヒロちゃんか、
脅かさんでよ』
と胸のあたりを押さえる仕草をし、
『何しとん、こがな所で、
ここに来たらおえんのんじゃね?
今、先生、お出かけじゃけんど、見つかったら大目玉で』
と言った。
俺が
『花嫁は夜汽車に乗ってお嫁に行くんじゃな』
と言い
『ナッちゃんも行きてんか、、』
と言うと、ナツコは赤くなって
『聞いとったんじゃな!
いやな子!
下手な歌じゃと思うたんじゃろ
どうせ、私は音痴じゃけんな』
と言い、取り繕うように
『そがん事はどうでもええけん、さっさと下に行きなさい。
私は、先生がお戻りになるまでの間に、ここのお掃除や、カルテの整理で忙しいんよ』
と事務的な物言いになった。

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