鎌倉市さんぽ「今泉・白山神社から散在ヶ池森林公園と称名寺」
○「五社稲荷神社」(岩瀬1399)
JR根岸線本郷台駅から南西に向かうと、鎌倉女子大の北西裏側に「五社稲荷神社」があります。建久年間（1190〜99年）、岩瀬を治めていた岩瀬与一太郎が創建した神社と伝えられています。与一太郎は、常陸国の佐竹氏の家臣で、佐竹征伐の折に捕らえられましたが、源頼朝に許されて御家人となり、岩瀬に屋敷を構えて治めたといいます。『吾妻鏡』にも「捕虜の与一太郎を家人に加える」と記されています。現在の社殿は再建棟札によると、天明2年（1782）の「天明の大飢饉」を乗り切るために、栗田源左衛門という者が社殿を再興したものとされています。五柱の神を祀っていることから、「五社神社」「五所の宮」「五所明神」とも呼ばれています。
【五社稲荷神社の庚申塔】
庚申塔は全部で6基あります。入口の左手に5基の庚申塔が柵で囲まれてあり、あとの１基は社殿の左奥、木立の手前にあります。
○「大長寺」(岩瀬1464)
鎌倉女子大から南に向かうと「大長寺」があります。天文17年（1548）、玉縄城主北条綱成によって建立されました。開山は、綱成が尊崇していた小田原北条氏家臣大道寺氏の一族の感誉存貞です。本堂には、玉縄城の二代城主の為昌夫人の木像が安置されています（為昌は小田原城主北条氏綱の子）。当初は「大頂寺」という名でしたが、徳川家康の寄進状に「大長寺」と書いてあったため改められたのだといいます。四代目暁誉源栄は、岡崎で松平家菩提寺の大樹寺で修行をしていたため、家康とも親交があったとも伝えられ、度々家康の来訪がありました。家康の命により、北条氏勝に玉縄城の開城を説得したともいわれています。境内には、家康お手植えといわれる銀杏があったといいます。宝蔵には、家康と家康の父・松平広忠の位牌と家康像が安置されています。裏山の墓地には、開基北条綱成夫人・北条氏繁夫人七曲殿の墓など、北条一族の墓と伝えられる墓石が残されています。
○「西念寺」(岩瀬1527)
大長寺から南東に向かうと「西念寺」があります。開山の運誉光道は、今も残る「開山修行窟」で布教活動に励んだといわれます。日本橋木屋の当主が作らせた大旦那「木屋夫妻像」は、命日に顔を塗り替えるために首が抜けるように作られていることから、「首抜け木像」と呼ばれます。生前の顔の色を保つため、命日に江戸へ持ち帰り塗り替える習慣があったといいます。
【西念寺の庚申塔】
本堂のすぐ左手、裏の墓地に向かう道の左側、槙の木のうしろの岩壁の前に5基の石塔あり、そのうちの左から2基が庚申塔です。
○「今泉寺」(今泉3-12)
西念寺から南東に向かうと、白山神社の参道左手には「今泉寺」（こんせんじ）があります。現在、白山神社と今泉寺は同居していますが、今泉寺は「毘沙門堂別当の今泉寺があった」と過去形で記されていることから、元々あった今泉寺と現在のお寺は厳密には別モノのようです。もともとは毘沙門堂（今の白山神社）の別当寺で、建長寺の塔頭であった広徳庵の末寺であったようですが、開山や詳しい歴史は不明です。本尊は出山釈迦であったといいます。その後の様相が不明で、一度廃寺になっているようですが、『鎌倉の寺』によると「昭和23年に明月院と合併するが、昭和57年に分離し、翌年本尊如意輪観音を開眼、落慶した」とあります。
○「白山神社」(今泉3-13)
「白山神社」ですが、建久元年（1190）上洛を果たした源頼朝は鞍馬寺を訪れた際に、行基作と伝わる毘沙門天像二体のうちの一体を賜りました。翌年(建久2年)、その毘沙門像を安置するために建立された毘沙門堂が、白山神社の始まりだと伝えられています。鞍馬寺が京の東北の鎮護であることから、鎌倉の東北に当たる今泉の地に安置されたのだといいます。もとは、毘沙門堂と呼ばれた歴史の古い神社で今泉の鎮守です。参道に、毘沙門堂の石碑が残っています。
【あじさい寺】
白山神社は、あじさい・イチョウとも隠れた名所で、人が来ないのでゆっくりと楽しめる場所です。
【大注連祭】
毎年、1月8日に行われる「大注連祭」（「むかでしめ」といわれる）では、氏子が藁を持ち寄り、白山神社の守護虫とされる大百足を模した6ｍもの注連縄が作られ奉納されます。
【酔亀亭天廣丸の歌碑】
白山神社入口に、次の「酔亀亭天廣丸の歌碑」があります。
�爐�む酒はこれ風流の眼なり 月を見るにも花を見るにも��
酔亀亭天廣丸(1758〜1828)は、今泉で生まれた江戸時代の狂歌師で、江戸に出て狂歌の道に入り、酔亀亭という号のとおり酒好きで、出した歌集の中でも『狂歌酒百首』はいちばん世に知られています。金は全て酒に使ってしまい、住んでいた屋敷は雨漏りだらけで、狂歌の会が行われたときには、集まった者が傘をさしながら参加したという話も残されています。
【白山神社の庚申塔】
白山神社の参道に、寛文12年(1672)銘の庚申塔があります。
○「金仙地蔵尊」(今泉2-14)
少し戻って南に今泉分譲地へと向かうと、地蔵前バス停の先右手に「金仙地蔵尊」があります。ここの祠はもっと美しく、ごく最近まで風雨の当らない社殿の中に大切に安置されていたようで、今は長い石段の上の枯草の中にひっそりとあります。昭和40年のことです。この地、今泉台を宅地造成していたときに、現在の地蔵前バス停留所付近から一体のお地蔵さんが出土しました。近くの称名寺（別名今泉不動）に一時仮安置され、翌年昭和41年4月14日に出土場所近くに設けられた境内敷地に祀られました。この地の昔の地名である金仙山から当時の称名寺成実一雄住職が「金仙地蔵尊慈眼菩薩」と命名しました。
○「散在ヶ池森林公園」(今泉台7-1)
金仙地蔵尊から南東の今泉台住宅を行くと、半蔵坊下バス停の北方、天園ハイキングコース入口の先に「散在ヶ池森林公園」の南口があります。ここ南口から、「馬の背の小径」の散策路に入ります。
散在ヶ池森林公園は安政（1854〜1859）の頃、この地域を裏今泉と称し、すべて今泉山称名寺の持山で、江戸末期の住職がこの域を大船、岩瀬、今泉の3部落に無償で分与していたため、この山を「散在の山」と呼ぶようになったと伝えられています。明治2年当時、この地域を統轄していた小菅谷（現在の横浜市栄区）の代官梅澤与次右エ門が、岩瀬・今泉の部落有志を集め灌漑用水池（長さ70m、幅5.5mの土堰堤）を築造しました。「散在の山中にある池」ということで、「散在池（サンザイケ）」(別称鎌倉湖)と称され今日に至っています。散在ガ池は、もともとは農業用水池の役割を果たしていましたが、今では「鎌倉湖」とも呼ばれています。春は桜、秋は紅葉を澄んだ静かな湖面に映し出す様は、神秘的なものを感じさせ、世間の喧騒を忘れゆったりと落ち着いた気持ちにさせてくれる、自然の癒しスポットとして愛されています。比較的なだらかでゆったり歩ける「のんびり小径」と、起伏があり健脚者向きの「馬の背の小径」が池をぐるっと廻り、途中に「パノラマの小径」散策コースがあります。また、池から流れる小川には「せせらぎの小径」と名付けられた水辺の散策コースもあり、植物や野鳥などの自然観察にも適しています。
○「称名寺(今泉不動)」(今泉4-5)
散在ヶ池森林公園を出て少し行って、右折すると「称名寺」があります。称名寺は空海（弘法大師）の開山で、「今泉不動」の名で知られます。この地は、峰口がいくつも重なる谷戸ということで九十九谷（つくもだに）と呼ばれています。かつては、八宗兼学の寺で名も「円宗寺」といいましたが、鎌倉時代には将軍も参詣に来たといわれ、その後すっかり衰微してしまっていたのを、貞享元年（1684）に直誉蓮入が再興しました。江戸時代に増上寺の貞誉大僧正から山号寺号を請け、浄土宗寺院としての基礎が確立され「称名寺」とされました。鎌倉幕府の歴代将軍が信仰したという不動明王が祀られ、不動堂の背後には、石造の大日如来と三十六童子像が置かれています。大日如来は不動明王のもうひとつの姿であり、童子は菩薩に従う人々を表したものといいます。
【不動堂と阿弥陀堂】
石段を上ると「不動堂」があります。武州深川の直誉蓮入という僧が、江ノ島の弁財天からお告げを受け、この寺で祈祷を行ったところ、石造の大黒天像の俵からコメがこぼれ出し、以後、参詣者が跡を絶たなくなったといいます。蓮入と村人は、お礼に不動堂と阿弥陀堂を建立したといいます。
【陰陽の滝(男滝と女滝)】
境内を右手に下ると、「陰陽の滝」(男滝と女滝)があります。諸国を遍歴していた空海（弘法大師）は、今泉の地に辿り着きました。すると男女の仙人が現れ不動明王を彫ることを空海に命じ、空海は不動明王と大黒天を彫り上げ村人とともに祈りを捧げていたといいます。そこへ再び仙人が現れ「人々が水に困っている。不動明王にお願いしなさい」というので、岩肌に二つの穴を穿ち三日間祈祷をすると、二つの穴から水が湧き出し、2本の滝になったといいます。それが陰陽の滝(男滝と女滝)です。今泉の奥には、金仙山という山があり、水が湧き出たことで金仙を今泉（こんせん）と書くようになり、さらに「いまいずみ」と読むようになったと伝わります。
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