逗子市さんぽ「沼間・桜山道祖神から神武寺」
○「池子神明社」(池子2-10)
京急神武寺駅から道路に出ると、右に「池子神明社」があります。池子地区の鎮守で、建久3年（1192）に創建された古社です。源頼朝が稲荷山（池子村星ヶ谷）に天照皇大神宮を勧請したのが起源です。祭神は主神・天照大御神他。池子は、奈良時代・平安時代は鎌倉郡沼浜郷に属し、鎌倉時代から室町時代には鎌倉尼五山第1位であった太平寺領となっていました。
【神明社の庚申塔】
神明社の境内、本殿下の土手に1基の庚申塔があります。石塔がいくつかありますが、右端の石塔に僅かに庚申の文字が認められます。
【池子会館の庚申塔】
神明社横の池子会館の玄関左側、崖の中腹に1基の庚申塔があります。型式から想像すると古そうで、僅かに「寛文」の刻字が読み取れますので、造立は寛文年間（1660年代）と考えられます。
○「東昌寺」(池子2-8)
南に向かうと「東昌寺」があります。寺の縁起によると、元弘3年（1333）新田義貞の鎌倉攻めで鎌倉幕府が滅亡したとき、北条氏一族は鎌倉葛西ヶ谷の東勝寺で自害し、寺は焼け落ちましたが、住職の信海和尚は火の中から本尊の大日如来を運び出し、池子の郷に逃れ東勝寺を再建し、北条氏一族の霊を弔ったのが起こりであると伝えられています。逗子市域の面積の約1/5を占める池子地区に唯一ある寺です。また、この大日如来像は、源頼朝が平家亡霊の成仏祈願のために造立させたものと伝えられています。寛永14年（1637）に、池子村が鎌倉扇ヶ谷英勝寺の寺領となると、水戸徳川家への配慮から「勝」の字を「昌」に改めました。承久2年（1221年）、北条政子は、3代将軍源実朝の菩提を弔うために運慶に丈六阿弥陀如来像を造らせ、池子の大上阿弥陀ヶ谷に建立した阿弥陀堂に祀ったと伝えられています。その後、池子が英勝寺の寺領になると、命令によって阿弥陀堂が東昌寺に移されました。また境内には、葉山堀内の慶増院にあった鎌倉時代の五輪塔があります。湘南七福神の福禄寿。
【木造阿弥陀如来坐像】
山門の右手にある阿弥陀堂に、県内でも珍しい丈六の阿弥陀如来坐像があります。高さ103.5�僉�径282.5�僂梁羣造飽尊造垢詛〕茲蓮∩�高259.5�� (肉髻部を欠損)、輪光背をいただき、上品下生の来迎印を結んでいます。寄木造、玉眼嵌入、肉身部に朱と金泥の彩色、面部には金粉の名残がみられます。胎内銘などによると、もとは運慶作と伝えられる阿弥陀如来像があったようですが、享保12年(1727)に火災で焼失し、宝暦6年(1756)に現在の堂と像が再興したとされています。仏師は鎌倉扇ヶ谷の三橋宮内忠之とその息子であることが、胎内墨書銘に記されています。三橋家は後藤家とならんで、有力な鎌倉仏師のひとつです。
【東昌寺の庚申塔】
東昌寺の境内入って真正面の高台に、墓石や他の石塔と一緒に4基の庚申塔が混然と置かれています。
○「桜山道祖神（耳の神様）」(桜山4-14)
十文字交差点から東南に逗子第一運動公園に向かうと、JR横須賀線池子踏み切りの手前、公園の西南角の向かいに大きな銀杏の木があり、その奥に「桜山道祖神」があります。別名「離れ山のサイノ神(犀の神)」とも呼ばれています。「桜山道祖神（耳の神様）」の標石が建ち、お堂があります。お堂に掛かる扁額には、消えかかっていますが「○△桜山道祖神」と左から書かれています。道祖神は犀の神とも呼ばれますが、ここの道祖神は特に「耳だれの神」という珍しい信仰があるそうで、耳に病気がある人が、おまいりして願いをかけると良く治るそうで、病気が治った人がお礼に、海岸から穴のあいた貝殻を拾い供えたそうです。
【桜山４丁目住宅地の庚申塔】
桜山道祖神から東に少し行くと、左手に石塔が３基あり、2基は庚申塔、１基は馬頭観音塔です。
○「入定様の墓(地蔵院跡)」(桜山5-4)
警察署入口交差点から南の路地を入ったところに、「地蔵院」という寺がありました。明治の初めごろ寺はなくなりましたが、その境内だったところに、「千手院圓求大法師」と刻まれた入定様（円求）のたまご型の墓石があります。円求は桜山中里の矢部長左衛門の息子で、弟の尭鎮（ぎょうちん）は紀州運蓋院（うんがいいん）の住職となり、兄弟そろって名僧といわれています。二人とも、神武寺で修行したお坊さんです。入定とは地中に穴を掘り、その中に入って生き埋めの状態になります。穴の中で正座して鉦を打ちながらお経を唱え続けます。鉦の音が途絶えた時を命の絶えたしるしとしてそのまま葬ってもらい、生きながら仏になることです。円求は諸国を巡って修行した末、ふるさとの桜山に戻りました。そして寛政6年（1794）7月、69歳でこの地、地蔵院境内において入定し、七日後仏になったと伝えられています。
○「福祉会館入口交差点そばの庚申塔」(桜山5-1)
西に逗子方面に向かうと、福祉会館入口交差点の先の路傍に石塔が15基あり、馬頭観音塔6基、念仏塔１基、堅牢地神塔１基、不明１基、庚申塔6基です。
○「持田遺跡」(桜山5-20)
入定様の墓(地蔵院跡)まで戻り、先の団地への道路を南に向かうと、青少年会館の入口広場に「持田遺跡」があります。昭和45年秋、葉山側から持田台地一帯にかけての丘陵が宅地造成（イトーピア団地）されることになりました。ここは標高25ｍ〜40ｍ程の丘陵北斜面に上下二段、合わせて約15,000�屬糧�地が広がっていました。戦前から考古学関係者の間では、観蔵院遺跡として知られていた場所で須恵器片や弥生式土器片などが採集されていました。地元市民の熱心な申請により、昭和46年4月から2回にわたり正式発掘調査が行われ、その結果、弥生時代の多くの遺構住居（竪穴住居址・炉址）及び遺物（宮ノ台式土器・久ヶ原式土器・土師器・須恵器・装身具・祭祀具・石器等）が発見され、弥生時代中期から後期にわたる大集落址が埋まっていることがわかりました。また，下段からは古墳時代初期から平安時代初期の生活地としての遺物が発見されています。しかし、今は団地へ通じる道路などのために破壊されてしまい、一部残された場所には遺跡記念碑が建てられています。
○「観蔵院」(桜山5-6)
警察署前まで戻り東に向かうと、右手の台地に観蔵院があります。神武寺（神亀元年=724年に創建）の唯一現存する塔頭（末寺）です。本尊は行基作と伝えられる十一面観世音菩薩。神武寺の塔頭で廃寺となった池子仏向庵の阿弥陀如来、桜山地蔵院の地蔵菩薩、桜山法竜院の不動明王を勧請し、併せて慈悲堂に安置しています。三浦三十三観音の第23番札所。『三浦古尋録』などによれば、奈良の吉野山の桜は、夢窓国師がこの地から移植したものであるといわれ桜山の地名の由来となっています。
○「海宝院」(沼間2-12)
JR横須賀線東逗子駅の裏(北側)の道路を、東に向かうと「海宝院」があります。開山を源臨乎和尚とし、徳川家康の三浦郡の代官長谷川七左衛門長綱が横須賀村（現 横須賀市）に創建した寺です。天正19年（1591）に18石の御朱印を賜った旨、『相模国風土記』に記されています。その後、慶長年間（1596〜1615年）に長谷川長綱によりこの地に移されました。本尊の木造十一面観音菩薩坐像は、すべての方向を向いた顔をもちあらゆる願いを聞いてくれる仏様とされています。鐘楼に吊された銅鐘は応永10年（1403）の銘のあり、東京町田市の小野神社の宮鐘だったもので、伝説では北条早雲が新井城の三浦道寸を攻めるときに陣鐘として使用したもので、長谷川長綱が徳川家康より拝領したものと伝えられています。
【木造十一面観音菩薩坐像】
海宝院の本尊。頭頂に仏面をいただき、左手に水瓶を持ち、蓮台（後補）上に座る。頭上面は十面、化仏は欠失。二重円光に透彫縁光を配した光背は後補。内身部は漆箔（後補）。衣文部は彩色。背面には胡粉盛上の文様がよく残る。底は布貼り。毛髪の刻出をはじめ、膝部の丸み、衣のひだの表現などにはかなり神経がゆきとどき、写実性も保たれています。両袖や裾を垂下し、膝を幾分俯瞰的に表現するこの種の形は、14世紀前後の東国で相当広く流行したいわゆる宋風のひとつです。
【四脚門】
海宝院参道の正面に切妻造茅葺、朱塗りの「四脚門」があります。主柱2本の正面と背面にそれぞれ2本づつの側柱をたてたものを四脚門といいます。海宝院の門は、鎌倉地方の室町時代末期の特徴をよく示す江戸時代初期の建築として重要な価値があります。
【長谷川長綱の墓】
本堂左奥には、江戸期の墓型(宝篋印塔)を残す長谷川長綱とその一族の墓が祀られています。
○「光照寺」(沼間2-20)
なおも東に向かうと「光照寺」があります。開山や創建時期などは不明。本尊である木造阿弥陀如来立像(県指定文化財)は全身漆箔で、高さ94.7cm、光背を背負い蓮台に立って来迎印を結んでいます。 台座裏に文久3年（1863）の修理銘があり、造立は14世紀頃と推測されています。光照寺は、源頼朝が異母兄である鎌倉悪源太・源義平を弔うため頼朝が建立したとの伝承が残されています。義平の菩提寺の伝承は、鎌倉悪源太と呼ばれていても、鎌倉ではなく、逗子が義平の菩提寺には相応しい場所だったということでしょう。湘南七福神の寿老人。
○「法勝寺」(沼間4-1)
なおも東に向かうと「法勝寺」があります。天平年間（724〜749年）に、天台宗の寺・天童山正覚寺として創建されました。山中にある神武寺（創建は神亀元年=724年）と並ぶ古刹です。永仁年間（1293〜99年）、大善阿闇梨日範聖人が宗論に勝ち、日蓮宗に改宗して沼間山法勝寺と改めました。行基作・十一面観音菩薩（大蛇伝説）を安置しています。
【沼浜城址(沼浜亭跡)】
境内は、沼浜城址(沼浜亭跡)とも伝えられています。頼朝の父・義朝はJR東逗子駅近くの沼間（沼浜城）に館（沼浜亭）を構えていました。その後に鎌倉に侵出したとされます。逗子市の沼間は、平安時代の辞書『倭名類聚抄』にみえる「沼浜郷」です。「沼浜」が転訛して「沼間」となったといわれています。義朝の館跡とされる地の近くには、「馬場橋」があります。馬場とは、武将が乗馬訓練を行う場所を指します。なお、『吾妻鏡』によると、頼朝の妻である北条政子の夢枕に義朝が現れ、「沼浜亭」の屋敷を鎌倉に移すよう諭され、その場所が「壽福寺」（鎌倉市扇ガ谷）といわれています。
○「神武寺」(沼間2-1402)
法勝寺の西側に、神武寺への岩間参道があります。神武寺は、神亀元年（724）聖武天皇の命によって、行基が十一面観音・釈迦如来・薬師如来を彫刻し祀ったのが始まりだと伝えられています。三浦（逗子）八景の1つとして知られる古刹です。
【木造不動明王立像】
像高51.8�僉�燃え上がる火炎を背に岩座に立ち、頭上には頂蓮をいただき、左肩に弁髪を垂らしています。右手に三鈷剣、左手には羂索(けんじゃく)と呼ばれる邪悪を捕らえる投げ縄をもっています。木造寄木造で玉眼が嵌入され、衣文には朱・緑・胡粉などの彩色が施されています。鎌倉時代後期の作とされていますが、表現に形式化がみられるなど、後世の模古作の可能性も指摘されています。現在は鎌倉国宝館に寄託されています。
【木造薬師如来坐像及び日光・月光菩薩立像】
三尊像は神武寺薬師堂の中央の厨子に祀られる本尊です。中尊の薬師如来像は坐像で、寄木造、像高69.8�僉¬椶篭夢磴鰺僂い債Υ磧１�手でひとびとの願いをかなえる施無畏印(掌を開いて前に向ける)をとり、左手に薬壺をもっています。頭髪はふつうの如来像にみられる螺髪(らほつ)ではなく、同心円状の縄目が刻まれています。三尊像はいずれも室町期の仏像彫刻の特徴を示しており、制作は15世紀半ばから16世紀頃と考えられています。厚い信仰の根本となる霊像として、古来より33年に一度の御開帳以外は秘仏とされています。次回は 2017年ですが、毎年12月13日の午前中におこなわれる煤払いの法会の際、拝観することができます。
【中原光氏の墓(弥勒やぐら)】
神武寺の墓地内に、「弥勒やぐら」を中心としたやぐら群が現存しています。弥勒やぐらは、舞楽師の中原光氏のお墓で、石像の背後に中原光氏が舞楽師で神楽博士であったこと、従五位上行左近将監に敍せられていたこと、正応3年（1290）9月5日に73歳で没したことが刻まれています。
【薬師堂】
薬師堂は、縁起により文禄3年(1593)建立と伝えられ、その数度にわたる修理の記録が見られます。現在の建築の主要部分は、棟札や墨書などから寛文6年(1666)に再興されたものと考えられています。薬師堂は、伝統ある鶴岡八幡宮大工一派の手による建築とみられ、江戸初期の鎌倉近辺における古様な和風三間堂として重要な遺構です。
【神武寺の晩鐘】
神武寺の晩鐘は、「三浦半島八景」と、「逗子八景」とに選ばれています。夕方、赤い夕日を見ながら、その鐘の音を聞いてみたいものです。
【なんじゃもんじゃの木】
薬師堂前の広場に、「なんじゃもんじゃの木」(説明板にはホルトの木)があります。樹高20ｍ、胸高周囲2.8ｍ、樹齢約400年といいます。
【こんぴら山やぐら群】
こんぴら山(金比羅山、神武寺西方の丘陵)の山腹東南面に、20基ほどのやぐらが横に一列に並んでいます。戦時中軍用地となったために立ち退きを命ぜられ、急ぎ塔婆や納骨を他に移したので内部には何も残っていません。多く前面を崩されていますが、鎌倉末期から室町期にかけて営まれたもので前面にテラス状広場をもっています。神武寺関係者の墳墓窟と考えられます。
○「五霊神社」(沼間3-10)
上ってきた岩間参道を法勝寺まで戻り直進すると、バス道路沿いに「五霊神社」（ごりょうじんじゃ）があります。創建年代は不詳です。祭神は天岩屋戸伝説に出てくる天手力雄命(あめのたぢからをのみこと)で、逗子市内で最も長い歴史を持つ神社の一つです。沼間には源頼朝の父・源義朝の館があり、その鎮守として勧請されたものであると伝えられています。古代から天手力男命を祀る神社があり、平安後期に鎌倉界隈に多く鎮座している御霊（五霊）社に改称され、源義朝の館が造営された際に銀杏の木が植えられ、館の鎮守となりました。その後、逗子市沼間の義朝館ではなく、鎌倉に入った源頼朝は父に習って鶴岡八幡宮に銀杏の木を植えました（近年になって倒れた）。
【イチョウの大木】
境内の中央付近に、樹齢800年を超えるともいわれるイチョウの大木があります。幹周６ｍ、高さ25ｍを測る大イチョウのまわりには、タブノキ、ケヤキ、イヌマキ、スダジイ、ヤブツバキなどの暖帯性海岸広葉樹が分布しています。
○「沼間６丁目線路脇の庚申塔」(沼間6-2)
五霊神社の東方、横須賀線と並行する田浦方面へ行く道の土手、土砂崩れ防止フェンスの中に3基の庚申塔があります。フェンスの中で草に覆われているので、ちょっと気が付にくい場所です。
○「逗子消防団第三分団前の庚申塔」(沼間1-9)
戻ってJR横須賀線東伊豆駅に向かうと、沼間交番前交差点の逗子消防団第三分団前、道路の反対方の老大木の下に石塔が7基あり、地蔵塔１基、念仏塔１基、庚申塔5基です。この石像群の裏側に10基の石塔がありますが、こちらの方は庚申塔ではなさそうです。
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