横須賀市さんぽ「西浦賀町・浦賀ドックから灯明崎」
○「海軍屯営の碑」(浦賀町5丁目)
京急浦賀駅から浦賀警察署に向かって300ｍほど歩くと、左手に住友重機浦賀工場の材料門が見えます。その奥に「浦賀屯営の碑」があります。この碑は、昭和10年3月に建立されたもので、表は「浦賀屯営跡」と当時の永野修身(おさみ)海軍大将が書きました。裏には浦賀船渠(ドック)社長、のちの逓信大臣・寺島健海軍中将によって書かれた碑文があります。碑の礎石は花岡岩で、日露戦争の時、旅順港内の敵艦を封じ込めるため海中に沈めた石の残りだそうです。屯営は明治6年に設立され、海のつわものどもを鍛えたほか、「屯営や生きた士官の捨て所」ともうたわれたといいます。
○「大衆帰本塚の碑」(浦賀町5丁目)
浦賀警察署に向かって歩くと、右側の歩道に面して「大衆帰本塚」と篆書体で刻まれた石碑が建っています。元治元年（1864）に建立。篆額は国文学者の大畑春国、碑文は日本最初の洋式軍艦・鳳凰丸を建造するなど幕末に活躍した浦賀奉行所与力、幕臣として榎本武揚（1836〜1908）らとともに戦った戊辰戦争で戦死した中島三郎助（1821〜1869）による筆で、当時の浦賀の様子が記された碑です。碑文には次のように書かれています。
《この周辺の昔の様子を思えば、葦蟹が遊ぶところから蟹田といい、のどかな湿地帯であった。しかしここにも湊の賑わいから家並みが押し寄せてきた。この開発によって傍らに眠っていた無縁仏をひとまとめにして供養しようと、時の浦賀奉行の大久保土佐守が大衆帰本塚を設けることを決めた。(後略)》
○「浦賀ドック跡」(浦賀町5丁目)
京急浦賀駅を出ると、目の前に巨大な建物が海側の道沿いに続いています。約1000隻にのぼる艦船をつくり続けてきた、「浦賀ドック」の跡地です。平成15年に閉鎖されるまで、30ｍを越す高さのクレーンが空を覆い、日本丸・海王丸をはじめ、青函連絡船・大型タンカー・自動車運搬船・護衛艦などの船がこの浦賀ドックで建造され、街はドックで働く人たちでにぎわいました。浦賀での造船の歴史は古く、安政元年（1854）現在は暗渠となっている浦賀駅前を流れる「長川」の河口で、中島三郎助らにより日本最初の洋式軍艦・鳳凰丸が建造されました。太平洋横断直前の咸臨丸も、この河口で修理が行われました。明治24年中島三郎助の23回忌にあたり、函館戦争の同志であった荒井郁之助が浦賀に造船所を造ることを提唱しました。榎本武揚が賛成して地元の有力者に働きかけ、明治30年浦賀船渠株式会社が創設され、2年後にはドライドックが建造されました。昭和18年に作られ１基のみ解体されずに残されているクレーン、明治32年に建造されたドライドックなどに、当時の面影を偲ぶことができます。
○「西叶神社」(西浦賀町1-1)
さらに南に向かうと「西叶神社」があります。正式には「叶神社」ですが、浦賀の港を挟んで東西の叶神社が向かい合っています。京都神護寺の文覚上人が源氏の再興を祈願して石清水八幡宮を勧請したもので、平家が滅亡しその願いが叶ったことにより叶明神の称号が与えられたと伝えられています。
【社殿彫刻】
神社は、天保13年（1842）に建造されたもので、社殿を取り巻く総数230を超える彫刻は安房の彫刻師「後藤利兵衛」の作品です。利兵衛は文化12年（1815）安房国千倉の生まれで、江戸の後藤三次郎の門に学び、神社社殿の彫刻や山車、みこしを多く手掛けました。拝殿の格天井の花鳥の彫刻には、当時の日本には渡来していないとされる花や鳥も彫られています。
○「東福寺」(西浦賀町2-37)
西叶神社の西に「東福寺」があります。徳川家康が江戸に入城した折、三浦半島の代官となった長谷川長綱により曹洞宗に改宗したとされますが、創建は不詳です。本堂には、江戸時代中期を代表する画家・酒井抱一が描いた大きな「亀」の絵馬があります。三浦38地蔵尊霊場33番札所、三浦33ヶ所霊場13番札所。
【鏝絵（こてえ）】
本堂の外壁には、鶴・亀・虎・飛天などの鏝絵（こてえ）があるが、昭和7年に岩田辰之助が描いたものだといいます。
○「浦賀の渡し」(西浦賀町2-22)
ポンポン船の愛称で親しまれ、浦賀のシンボルになっている「浦賀の渡し」は、港に隔てられた東西の浦賀の町を行き来する人にとって大切な交通手段となっています。時刻表は無く渡船が対岸にいるときは、呼び出しボタンを押すとすぐに来てくれます。約3分の船旅ですが、浦賀造船所跡地に建つクレーンやドックを海から眺めることができます。大人150円。
○「常福寺」(西浦賀町2-5)
浦賀の渡しから久里浜駅に向かうと、左手に「常福寺」があります。文明年間（室町足利時代）に開創された歴史のあるお寺です。このお寺は浦賀に奉行所があった当時は、赴任する時も離任する時も立ち寄るという、とても重要な役割をもったお寺でした。
【築山泉水庭】
本堂の裏手に、唯一現存する浦賀三庭園のひとつ「築山泉水庭」があります。樹齢200〜300年の大つつじをはじめ、どうだん、つげなど四季を楽しめ、わびさびのある景観あるお庭です。
○「愛宕山公園」(西浦賀町1-23)
「愛宕山公園」は、明治24年に開園した市内で一番古い公園です。ペリーの浦賀来航の際に交渉に当たった浦賀奉行組与力・中島三郎助の招魂碑を建立した時に、公園として整備されました。園内から一望できる浦賀港の風景も魅力です。
【咸臨丸出港の碑】
昭和35年には、日米修好通商条約の締結100年を記念して「咸臨丸出港の碑」が建てられています。碑の裏には、艦長の勝海舟をはじめ、福沢諭吉、ジョン万次郎などの乗組員の名が刻まれています。
【与謝野鉄幹・晶子夫妻の歌碑】
与謝野鉄幹・晶子夫妻の歌碑があります。
�犢�船を怖れし世などなきごとし浦賀に見るはすべて黒船 寛��
�狃婀┐径ちソ蠅海夙瓩靴韻豈魂譴猟�に黒き鞘懸く 晶子��
○「陸軍桟橋」(西浦賀町1丁目)
西浦賀の渡船場から川間方面に少し歩くと、通称「陸軍桟橋」と呼ばれるＬ字型の桟橋があります。太平洋戦争終了後、南方や中国大陸からの引き揚げ者約56万人が、懐かしい日本の地に第一歩を印したところです。浦賀港の引き揚げの歴史を後世に伝えようと、平成18年10月に記念碑が設置されました。周辺はボードウォークが整備され、浦賀港を隔てて東叶神社を望む東屋もあり、一休みすることができます。
○「為朝神社」(西浦賀町4-12)
「為朝神社」の創建は、文政期（1820年代）で、寛政12年（1800）浜町の漁民が海を漂流していた鎮西八郎為朝の木造を拾い、地蔵堂に安置したといわれています。航海の守護神として、「疱瘡除け」の神様として信仰を集めています。為朝は、保元の乱で父・為義とともに戦って敗れ、伊豆大島に流罪となりました。弓の達人で、その強弓を恐れられ腕の筋を切られて大島に流された為朝は、流人生活の果て、許されることなく没しました。日本では古来より、このような悲劇の武将の怨念を恐れ、神として祀ることによって逆に災いを転じて福をもたらすとされてきました。住民は為朝を疫神として、疱瘡神とし、当時人々に恐れられていた疱瘡の病を、為朝の怨霊の力でなおしてもらおうと期待していたのです。
【虎踊り】
毎年6月15日には祭礼で、浦賀奉行所の開設にあたって伊豆下田から伝えられた、県民俗文化財指定「虎踊り」が行われます。
○「浦賀奉行所跡」(西浦賀町)
現在は住友重機械工業の社宅になっている四角いこの場所が、「浦賀奉行所跡」です。現在、奉行所をとり囲む堀の石垣と、表門の前にかかっていた石橋の伊豆石が４〜５枚残っています。享保5年（1720）に奉行所が下田から浦賀へ移されました。その業務は、船改めをはじめとして海難救助や地方役所としての仕事などを行いました。また、文化・文政（1804〜30年）のころから、たびたび日本近海に出没するようになった異国船から江戸を防備するため、海防の最前線として、さらに重要な役割を果たすようになりました。享保5年から、江戸幕府が終わる慶応4年（1868）までの約150年間に、奉行は2人制の時期もありましたが、初代の堀隠岐守から最後の土方出雲守まで53人が勤めました。また、奉行所には、与力10騎・同心50人の役人たちも勤めていました。蛮社の獄の発端となった天保8年（1837）、日本人の漂流民を送還に来た米船モリソン号を砲撃したのも浦賀奉行です。
○「第六天榊神社」(西浦賀町5-14)
浦賀奉行所跡の西奥に「第六天榊神社」があります。川間（西浦賀町五丁目）の鎮守様で、主祭神は面足彦命（猿田彦神）です。この神社の正式名称は榊神社大禄天神といい、当初は川間奥にある通称お伊勢山の中腹にありました。明治の頃にお伊勢山の入口に移され、さらに昭和の初めに現在地へ移されました。 大禄天は第六天（多化自在天）に語呂が通じ、修験者の信奉した仏神といわれています。道の分れる所を守り邪霊の侵入を阻止する神としてお祀りしています。
○「寿光院」(西浦賀町5-58)
浦賀奉行所跡から道標に従って行くと、第六天榊神社の南に「寿光院」があります。西浦賀の常福寺の隠居所として元和年間に建てられた境外仏堂で、浄珠庵とも呼ばれていました。
【美都姫の墓】
入口の地蔵堂の裏手に「美都姫の墓」があります。「旧会津藩士 小林栄三郎 明治19年5月14日 母みつ 享年71」とあります。
【三命地蔵】
本堂への道の正面に「三命地蔵」(別名首切り地蔵)があります。石地蔵と墓石が祀られています。江戸時代後期に盗みで水主の三人が死罪、船主が地蔵を彫ってここへ安置しました。首から上の病気なら治るという伝承が残っています。
○「燈明崎の燈明堂」(西浦賀町6丁目)
浦賀港の入口に「燈明崎」と呼ばれる小さな岬があり，江戸時代には「燈明堂」と呼ばれる今日の灯台のような役割をする施設がありました。慶安元年（1648）幕府の命によって築造された燈明堂は、観音埼灯台にバトンタッチするまで、約220年間にわたって一日も休まず夜間の海上安全の守り役として活躍しましたが、明治5年に廃止されました。燈明堂は我が国の灯台史の上で極めて貴重なもので、建物は明治20年代まで残っていましたが風雨で崩壊、土台の石垣だけが残されていました。平成元年その石垣の上に、現在の燈明堂が復元されました。
【首切り場(処刑場跡)】
燈明崎のつけ根、燈明堂への入口付近には大きな石碑と観世音菩薩が建てられています。燈明堂のある付近を、地元の人々は通称「首切り場」と呼んでいます。江戸時代この辺りに浦賀奉行所の処刑場があり、罪人の首をはねたところからつけられた呼び名です。浦賀奉行所で死刑を申し渡せるのは海事関係者のみだったことから、その大部分は船乗りだったと思われます。
【平根山の台場跡】
燈明堂の背後にある山を「平根山」といい、文化8年（1811）江戸湾防備を命じられた会津藩は、観音崎や城ヶ島の安房崎と共にこの平根山に台場を築きました。天保8年（1873）、アメリカの商船モリソン号が日本人の漂流民７名を乗せて来航した時、度重なる異国船来航に神経を尖らせていた浦賀奉行所は平根山台場からモリソン号を砲撃しましたが、砲弾は沖合の船まで届かず、モリソン号側の記録には「我々を歓迎する祝砲かと思った。」と残されています。その後台場は鶴崎（現久里浜少年院内）に移され、その僅か2年後には燈明堂に近い千代ヶ崎へと移されました。千代ヶ崎台場には大砲13門が配備され，浦賀湾を守る役目はもとより江戸湾防備の役割をもっていました。現在，平根山と千代ヶ崎の台場付近は民有地になっているため立ち入りできないが、往時を偲ばせるものはほとんど存在していません。
【旧陸軍千代ヶ崎砲台跡】
千代ヶ崎の背後の山には旧陸軍千代ヶ崎砲台跡がありますが、この辺りも民有地のため立ち入りできません。
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