横須賀市さんぽ「ＹＲP野比・白髭神社から光の丘水辺公園」
○「白髭神社」(野比2-26)
京急ＹＲP野比駅の東方に「白髭神社」があります。祭神は猿田彦命で、日本創生のころ天孫降臨の際に､天津日高日子番能邇邇藝命(あまつひだかひこほのににぎのみこと)を先導したといわれ、道案内・道中安全の神様です。創建年代は不詳。大和・西国との往来がさかんとなった時代､近江の白髭神社の祭神を勧請し､波の荒い千駄ヶ崎の海上安全と､周辺の人々の守護安泰を祈願する社として､当地に祀られたものではないかと思われます。社伝によれば､寛永8年(1631)菱沼某が同士を募り、社壇を「富塚山」(地元では「とがさん」)南麓に奉還するとあります。元禄4年(1691)菱沼義行が、社倒壊を悲しみ､ふたたび里人とともに再建するとあります。社殿は､もと山の頂上あたりにあったようですが､江戸時代初期に現在地に移されたようです。山頂付近に石窟がまだあるといわれていますが、実際にはないようです。明治6年6月村社になり、この時に天満宮、諏訪明神、貴船明神、子之神社、水神社などが合祀されました。
【大イチョウと錨】
境内には、とっても立派なイチョウの木が数本あります。本殿の左側にひっそりとたたずむ、錆びてボロボロになった大きな錨があります。これは戦前、アワビ漁の潜水夫が「大島出し」と呼ばれる暗礁で発見したものです。この暗礁の近くには、大きな伊豆石がたくさん沈んでいるといわれているので、江戸時代に石積船が遭難したのかもしれません。江戸では大きな石はほとんどなかったため、伊豆から石を運んでいました。このように野比近辺の海域では、船の遭難が多かったようです。
【磐座】
本殿右側に穴の空いた「磐座」があり、特に由緒はありませんが、玉串を奉納された跡が見受けられ、あきらかに祭祀儀礼を執り行っていることが分かります。下の方にぽっかり開いた穴が、なにか意味深です。
【狛犬】
白髭神社の狛犬は安政3年（1856）上田伊右エ門のもので、とても立派な造りの狛犬です。境内が狭いためか、少しわかりづらい場所に建てられています。また、境内社の稲荷神社の狛犬も立派です。
【社叢林】
白髭神社の裏山南面は、良好な自然状態を維持している社叢林が広がっています。海に面した丘陵上に位置する立地条件から、強い海風にさらされることが多く、社叢林の高さは風衝作用によって低く抑えられ、10m前後に過ぎませんが、典型的なスダジイ林を構成しています。ヤブツバキ、シロダモ、ヤブニッケイ、カクレミノなどの常緑広葉樹が高密度で出現し、植物社会学的にヤブコウジ−スダジイ群集と判定されます。神奈川県の指定天然記念物として保護されています。
【虎踊り】
毎年7月15日前後の土日を選び､虎踊りなど野比全体で例祭がひっそりと行われます。
○「最光寺」(野比3-9)
白鬚神社から北東に富塚山を回り込むと「最光寺」があります。地元では「浜の寺」といわれています。本尊の阿弥陀如来は三浦大介義明の守り本尊だったといわれ、天平元年(729)行基により高座群菱沼村（現在の茅ヶ崎市菱沼）に建てられました。後に、円達上人により宝積院と称し、円光上人により鎌倉の松葉ヶ谷に移りました。しかし、兵火に遭い衣笠村に移り、頼玄上人の時の天文9年（1540）に現在地付近に移りました。
【魚貝供養塔】
境内に「魚貝供養塔」があります。野比の住人は漁業と農業が主の寒村だったので、獲った魚や貝を供養するために建てられたのだと思われます。ウミウシも食していたようで、地引網漁やアワビ漁が盛んだったようです。
【若山牧水歌碑】
境内に「若山牧水歌碑」があります。
�犲鮟个任陳蹐い舛瓩鵑稜鯒澆� 夕日こもれるをりからなれや��
�猴Г料里い泙声磴韻譴靴澆犬澆� 梅の老木をいたはるあはれ��
第9歌集『朝の歌』「春浅し」の中に、「来福寺にて」と題してこの二首が載っています。大正5年早春に梅見に招かれた時の作で、来福寺は、三浦市南下浦町にあり三浦半島を領有していた三浦氏の一族・和田義盛の菩提寺だといいます。牧水は、来福寺の和田祐憲（当時23歳）と親しかったといいます。
○「尻こすり坂(尻こすり坂通り)」(野比4丁目)
最光寺の裏手に進み野比中学校の西側の道を北に向かうと、国道134号の「尻こすり坂通り」に出ます。神明町の神明小学校の前あたりから南西に上る、尻こすり坂通りは「尻こすり坂」と呼ばれています。尻をこすりつけて下るほどの急坂でした。尻摺坂・尻摩坂・摩臀坂・斯里古須利坂とも書きます。坂の途中に、開鑿記念碑（左）と交通安全地蔵（右）があります。尻こすり坂を南西に下って行くと、どんどんびきの坂とつながります。
【尻こすり坂地蔵堂裏の庚申塔】
野比の尻こすり坂の比較的上にある地蔵堂の裏山崖に、寛政12年（1800）年建立の庚申塔が1基あります。石塔が3基あり、2基は牛頭観音塔です。
【どんどんびきの坂】
尻こすり坂を下って行くと、最光寺入口あたりから南西に、野比２丁目大作交差点へと下る坂は「どんどんびきの坂」と呼ばれています。古老の話では、昔は牛車、大八車、リヤカーなどが上り下りに苦労し、本気になってどんどん車を引かないと、後ずさりしてしまうのでこの坂の名がついたといいます。
○「最宝寺」(野比1-51)
どんどんびき坂の最光寺入口の踏切を渡り、北西に向かうと「最宝寺」があります。地元では「五明山」と呼ばれています。建久6年（1195）源頼朝が鎌倉弁ヶ谷に創建し､翌年に宮中の高御蔵に安置してあった行基作と伝えられる薬師如来坐像を本尊にしたといわれています。寺名も「高御蔵」と名付けられました。源頼朝は､自分のいとこにあたる明光上人をこの寺の第一世の住持としました。後北条氏の浄土真宗の弾圧が始まり大永年間（1521〜1528年）に､鎌倉から野比村に移ってきたといわれています。はじめ、本尊として祀られていた薬師如来は客仏として別に祀られ､現在の本尊は薬師如来となっています。客仏の薬師如来坐像は､高さ81cm、漆箔作りで、宋朝風の影響を受けた鎌倉時代後期の作です。他にも､西国二十二番札所の勝尾寺より寄付された地蔵菩薩立像があります。
【石仏】
踏み切りから最宝寺へと続く道の途中、右側の石碑の横に3基の石仏があります。一番左は馬頭観音、中央は牛頭観音、右側の正徳４年(1715)建立で像の彫られた石仏には「釋祐信不退」と刻まれています。
【谷戸山坂】
最宝寺の南西に上って行くと「谷戸山坂」の坂上に出ます。北西に向かうとおしろみずの坂、南東に下って行くと坂下近くに堀越造園、坂下は京浜急行線になります。
○「最蔵寺」(野比1-34)
谷戸山坂の坂上を北に向かい、すぐ左折して下って行くと「最蔵寺」があります。貞応元年(1222)の創建で、当時は野比地区では最古の寺院でした。伝えによれば､徳林上人は禁裏を守る北面の武士で藤原相模之介千晴を名乗っていました。僧になり諸国を回って野比に来て、近くに最善坊という庵を建て、寺名を最蔵寺に改めました。その後、大永年間(1521〜28年)に、沼の池と呼ばれる場所にあったのを、現在地に移したと伝えられています。本尊の阿弥陀如来は、江戸時代の作といわれ､他に恵信作と伝えられる鎌倉時代の阿弥陀如来も祀られています。
【おしろみずの坂】
谷戸山坂の坂上に戻り北西に向かうと、野比幼稚園へと出る坂は「おしろみずの坂」と呼ばれています。「おしろみず」は、近くの家の屋号でした。この坂道は、尻こすり坂と粟田道を結ぶ旧道になります。
○「田中の坂」(粟田2丁目)
粟田道の島田バス停から北に上り、粟田小学校あたりへ下る坂は「田中の坂」と呼ばれています。坂近くの「田中家」による坂名のようです。坂上にお地蔵さまが一体あります。
○「かろうと山古墳」(光の丘2568)
田中の坂から西に向かい光の丘トンネルを出ると、横須賀リサーチパーク(ＹＲP)入口となり、トンネルの丘陵上に「かろうと山古墳」があります。トンネルの出口から遊歩道を200ｍ、途中で遊歩道から右に入ったところにあります。説明板によれば、昭和27年12月に横須賀考古学会によって埋葬施設が発掘され、昭和58年12月には横須賀市立人文博物館によって墳丘の測量調査が行われました。墳丘は楕円形の円墳で、長径約12.5m、短径約10mです。封土の流失が激しく、現在は高さ1m程度しかありません。埴輪や葺石などの外表施設はありませんが、墳丘の東西には周溝の一部と思われるくぼみがあります。埋葬施設は、墳丘の中央に構築された凝灰岩切石組みの箱式石棺です。ほぼ南北方向に作られ、内側は南北2.57m、東西86cm、深71cmです。蓋石はすでに失われているため不明です。妻石は切石の2段積み、側壁は東側が3枚、西側が2枚で、底面は4枚の切石で作られています。副葬品については、幾度かの盗掘を受けていましたが、直刀、刀子、鉄鏃（てつぞく、やじりのこと）、金銅製弓弭金具、鑿状鉄製品、金銅製刀装具、銅製薄板などが見付かりました。埋葬施設の構造や副葬品などから、7世紀前半ごろに作られたと考えられています。たぶん、この山の名前が「かろうと山」なのではなく、石組みの石棺が見つかったことから「唐櫃(かろうと)山古墳」と名付けられたのだと思われます。
【かろうと山(ＹＲP裏山)遊歩道】
かろうと山古墳から先、ＹＲPの裏山にあたる「かろうと山遊歩道」を歩いてみました。市立養護学校まで尾根伝いに軽快に歩ける3�匱紊陵景眛擦任垢�、「マムシに注意」の看板が気になります。やがて道は尾根を外れて下りだし、長い階段が続きます。延々と階段を下りていくと、ＮＴＴ横須賀通信研究所や養護学校、ドコモなどのあります。
○「ＹＲPセンター」(光の丘)
養護学校から「ＹＲPセンター」に向かいます。横須賀リサーチパーク(ＹＲP)は、我が国の電波情報技術の向上をめざして産・学・官が連携し、61.7haの敷地に平成9年開業しました。現在ＩＴ関連の企業や研究機関のほか、ホテル・レストランなどの付帯施設も含め約6,000人が就業している一大都市エリアです。
○「光の丘水辺公園」(光の丘1177)
ＹＲP（横須賀リサーチパーク）の一角にある公園です。園内には、「四季の池」「野鳥の池」「聖なる池（湿地帯）」「最奥の池」の4つの人工池と緑地があります。聖なる池とはなんでしょうか、意味不明です。この場所は、元々は谷戸田や溜池のある自然豊かな里山でした。水辺公園は、開発後もそのままの自然を残すために湿地の移植を行い、人工的に昔の姿の再現を図って作られました。また、水辺公園の野鳥の池は春〜夏にかけては公開していますが、秋〜冬の期間は、マガモ、オナガガモ、カルガモなどの冬鳥飛来するため立ち入り禁止になっています。ハンゲショウ(珍しい植物)の咲く時期とニリンソウの咲く時期は、案内人がついて説明がされます。
【管理事務所】
管理事務所内では、公園内外の生き物や植物についての解説をしたパネルなどが張られています。天井からは蜂の巣がぶら下がり、水槽が設置されており、ザリガニ、トウキョウサンショウウオ、その他いろいろな魚が展示されています。ザリガニは欲しい人には無料で配っているようです。トウキョウサンショウウオの水槽は、生まれた年ごとに水槽を分けてあるのでなかなか面白いです。
○「天照大神社」(長沢6-27)
水辺公園から南に向かい、ホテルＹＲPの手前からなおも南に向かうと「天照大神社」があります。口伝によると、江戸時代、お伊勢参りが盛んだった頃、里人の三家（げんぜむ、きゅうぜむ、さんぜむ）が、小字峯のこの地に伊勢の神官より勧請したと伝えられています。伊勢皇大神宮参拝は、熊野詣り・春日詣りと共に室町時代から行われ、騒乱の終わった江戸時代に盛んになりました。各地でお伊勢参りが行われたので、その当時に皇大神宮天照大神を勧請し、創建したと思われます。神社由緒記にも書かれているので、350年以上前の創建だと思われます。参道には、100段以上の心臓破りの階段があります。毎年、7月19日に町内の氏子によって祭礼がおこなわれます。
【お伊勢山（天照大神社社業林）】
神社の裏山は、通称、お伊勢山と呼ばれる天照大神社の社業林です。天照大神社までは長い階段が続き、左右は林に囲まれています。
【天照大神社の庚申塔】
参道の鳥居脇に庚申塔と石仏があります。右側の庚申塔は、三猿（猿田彦）と青面観音が刻まれています。左側の漬物石のような石仏にも、何か意味があるようですが不明です。右側面を見ると、万延元年（1860）の建立のようです。
○「三浦大仏(聖徳寺、聖徳久里浜霊園)」(長沢1-54)
天照大神社の南に「三浦大仏」(聖徳寺、聖徳久里浜霊園)があります。境内からの眺めは素晴らしいです。
【三浦大仏】
全高は13.5ｍ、台座部分は鉄筋コンクリート造の納骨堂で7.5ｍ、全体としては20ｍを超える大きさです。
【五重塔】
霊園の山頂に五重塔があります。頂上付近には他に、水子地蔵、巨大達磨石像、羅漢像などが配置され一大仏教公園と化しています。
【四童女供養仏】
山頂の仏教公園の奥には不可思議な空間が広がっていて、「四童女供養仏」と書かれています。埼玉県入間市で起きた連続幼女殺害事件の供養のための空間だといいます。中央には何故か寝釈迦があり、寝釈迦の上の立て札には、幼女たちがどのように陵辱されたが書かれています。手前にある手は、四童女の成仏の具合を表しているようです。
○「本行寺」(長沢1-56)
三浦大仏から長沢駅へと向かうと、長沢村岡公園の北側に「本行寺」があります。永禄元年(1558)、日咸上人によって創建されたといわれています。裏山には三浦一族の埋蔵金が眠っているといわれています。
【浄行菩薩】
もともとは長井の大久保にあった童女菩薩地蔵を、大正11年にこちらに持ってきて、名前を浄行菩薩と改めました。
【道祖神】
本行寺にたちならぶ石仏たちの中の１つに、道祖神があります。三浦半島では庚申塔は多いのですが、道祖神はめずらしいです。
【デーボコ坊の伝説】
かつて本行寺の付近に足跡の形をした池がありました。昔々、富士の麓に「デーボコ坊」といって座れば一里四方がお尻の下になり、立てば胸のあたりに雲がたなびき、日本を53歩で歩いてしまうという、とんでもない大男がいました。だいだらぼっちのことでしょうか。あるとき、房総半島へ渡ろうとして、目の前が広い海だと気付き、足に力を入れて対岸に渡りました。その時に踏ん張った足跡が池となり、近くの田畑は水の心配がなくなったそうです。
【長沢の大蛇伝説】
次の「長沢の大蛇伝説」があります。
《長沢海岸の沖合に、三つ磯といわれるところがある。昔、長沢の本行寺の裏山に雄の大蛇が棲んでいて、海をへだてた房州の鋸山の雌の大蛇に恋いをしたという。雄の大蛇は、なんとかして会いに行きたいと思ったが、潮の流れが速く泳ぎきる自信がなかった。それでも雌の大蛇が鋸山に登ってしきりに招いているので、雄の大蛇は、飛び石づたいに海を渡ろうと石を運びだした。しかし、あまりに重いので投げ捨ててひき帰し、結局房州行きを断念した。三つ磯は、その大蛇が運んだ石という。》
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