横須賀市さんぽ「秋谷・子安の里から立石公園」
○「熊野神社」(秋谷5309)
逗子(新逗子)駅前から長井行バスに乗り、子産石(こうみいし)で下車します。バス停の先に「熊野神社」があります。創建は不詳ですが、明治維新前は熊野権現と称していました。神社入口に一等水準点があり、石段を上がると朱の両部鳥居が立ち、鳥居左手に庚申塔などがあります。石段を上ると境内入口には昭和3年11月建立の狛犬がいます。境内から相模湾が良く見えます。
【熊野神社下の庚申塔】
熊野神社の階段左下に5基の石仏があり、その中に3基の庚申塔があります。
○「子産石」(秋谷)
道路反対側のバス停横のレストラン前に、直径1ｍの「子産石」があります。この石は、この土地の方が苦労して海岸から引き上げた一つです｡『三浦古尋録』には、「曲輪の浜に子産石と云々有年此石より石を分け出す石と云う」とあり、子を産みだす石ということから、生殖の神、安産の神が宿る石として崇拝されてきました。子供に恵まれない女性が子産石をなでた手で腹をさすると懐妊するとか、妊婦が石で腹をなでると安産になるなどの言い伝えがあります。
【智回尼の祠】
子産石の道路反対側の急坂をしばらく上ると、左手の茂みの中に、忘れ去られたようにひっそりと「智回尼の祠」とお地蔵様があります。この祠の中には、智回（ちかい）さまと呼ばれる人間の形にも見える異形の子産石が安置されています。次が「智回の子産石伝説」です。
《昔、この辺り一帯の山を観音山と呼び、この場所には小さな観音堂があった。
ある日、一人の年老いた智回という尼僧が、この観音堂に一泊の宿をとったが、堂内より見下す眺望の美しさと、温暖な気候に数日を過ごすうち、里人から石が子を産むという、珍しい子産石の由来を聞かされた。すっかり気に入った智回尼は、ひそかにここを生涯の終わりの地と決めたのである。ある年、今までにない大飢饉に、村の人々は苦しんでいた。食べる物もなく、飲む水もなく、人が人を食べて生きながらえる、地獄のような日々が果てしなく続いていた。哀れに思った智回尼は、この人々の苦しみを全て一人で受け止め、この村人達を苦しみから救うべく立ち上がったのである。しかし、所詮は貧しく、どこの馬の骨か分からぬ乞食尼である。村人達は、「どうせお賽銭でも持ち逃げするだろう」と言っては口々にののしり、誰一人として智回尼を信じる事はなかったという。しかし、それでも固い信念を胸に、智回尼はわずかな木の実と水だけを口にしながら、体の肉を落とし骨と皮だけになっていった。春まだ寒い二月のある日、智回尼は村人を集め、海の見える観音堂の境内に穴を掘り石室を造った。そして白装束に身を清めた智回尼は、手に持ち打ち鳴らすカネが鳴り止み、読み上げるお経が聞こえなくなった時こそ、人々の苦しみを全て受けとめる時であるとして、村人に静かに別れを告げて自ら入定したのである。石室の上には土を盛られ、ただ一本の竹筒を通してわずかな空気が入るのみ。真っ暗な土中で飢えと寒さにおののきながら、最後の力を振り絞って読経を唱え、死に向かって鉦を叩き続けたという。そして次第に細りゆく声は、時には強く、時には弱く、七日七晩の間は響いていたが、やがてそれも聞こえなくなると、あたりは沈痛な空気が流れ村人は合掌号泣したという。後に智回尼の高徳を愛した村人達は、入定した墓穴の上に土を盛りそこを聖地としてきた。特に、近隣から発掘されたという地蔵菩薩に似た異形の子産石を、智回尼に見立てて建立しねんごろに弔ったといわれている。》
それから数百年の歳月が流れ、今なおこの伝説は語り継がれてきました。大正9年、当時の村人によってこの墓穴の発掘作業が進められました。墓穴の周囲には石が四角形に積み上げられ、150�僂曚彪，蟆爾欧芯譴�らは、まぎれもない智回尼の遺骨が、枕を西にして座ったままの姿で発掘されたといいます。
【子産石の庚申塔】(秋谷5211)
智回尼の祠からさらに上ると自動車道路に出ます。右折してさらに200ｍ上って行くと、新倉宅の隣に10基の庚申塔があります。
○「円乗院」(秋谷4387)
子産石から南東に向かうと「円乗院」があります。創建は正慶元年(1332)で、開山は朝賢法印と伝えられています。観音様はもともと近くの子産石にあった観音堂に祀られていたものを、ここ円乗院の本堂に移したものです。三浦不動尊第22番札所、三浦地蔵尊第21番札所。
【へちま加持】
円乗院は「へちま加持」でも知られています。毎年中秋の名月の日に、病苦退散を願う人々がへちまを持って加持祈祷を受け、そのへちまに病気の譲渡証をつけて海に流します。
【久留和海岸】
久留和海岸海岸の名は、この地に弘法大師が訪れ、その美しい景観に感嘆し「またくるわ」とつぶやいたからだ、という地名伝説も残っています。
【谷戸ポンプ所の庚申塔】
円乗院前交差点を山の方へ登り、横須賀市水道局「谷戸ポンプ所」から更に上がった道路左に5基の庚申塔があります。
○「妙忍寺」(秋谷4313)
円乗院から南に向かうと「妙忍寺」があります。詳細不明。
【秋谷の坂】
妙忍寺の北側を北東に上る坂は「秋谷の坂」と呼ばれています。坂上あたりは戦時中の砲台道です。
【新倉宅脇の庚申塔】(秋谷4416)
少し戻り三栄消毒の横の道を上って行くと、新倉宅脇に9基の庚申塔があります。石塔が12基あり、地蔵塔１、馬頭観音塔１、不明１、庚申塔9基です。
○「子安の坂」(秋谷)
久留和（くるわ）バス停から関根川に沿って北東方向に上る坂は、「子安の坂」と呼ばれています。
【リュミエール南葉山館脇の庚申塔】
子安の坂に入りすぐ右折して粒石橋を渡り、すぐ左に上って行くとリュミエール南葉山館脇に4基の庚申塔があります。
【子安の坂の庚申塔】
子安の坂に戻り右折して奥に進むと、子安の坂の左側崖下に7基の庚申塔があります。真ん中の庚申塔は享保4年（1719）の銘があります。庚申塔の先には、「関根川親水公園」があります。バス停から子安の里までは谷あいの道が続きます。深い谷に挟まれた道を歩いていると、まるで外界と隔てられた隠れ里に行くような神秘的な感じがします。
○「関根不動尊」(秋谷)
関根川に沿って入って行くと「関根不動尊」があり、その前には水汲み場があります。昔、ここには今の社よりもっと小さなお社があったそうですが、大雨により祀られていた御滝不動が流されてしまい行方不明になりました。それから前の道で事故が多いということで、地元の人達がお社の跡を掘ってみると、逆さになったお不動様が発見され、改めて今のところにお社を建て直しお祀りしたといいます。そして、奥山に湧く水をパイプで引いて、昔の御滝と同じ水が飲めるようにしてあります。
【湧水(妙薬の霊水)】
この水は「妙薬の霊水」といわれ、胃病に効果があるといわれています。湧水を車で汲みに来る人が多く、飲食店用に大量に持って行く人もいるようです。
【茶屋の庚申塔】
やがて子安の里通りに出ると向かいに茶屋があり、おはぎなどを売っています。その茶屋の左側に庚申塔が2基あり、右は天和3年（1683）、左は明和4年（1767）の銘があります。子安の里通りが開通する以前は、旧道の御滝不動尊の先の崖上にあったようです。
○「子安の里」(子安)
茶屋の先で子安の里通りと別れ、右の旧道に入ると「子安の里」です。子安の里は大楠山の西山麓にあり、深い谷で外界と隔てられた隠れ里のような雰囲気のする山里です。この地は軽部姓の多く、軽部家の先祖が開いたと伝えられている20数戸の集落です。子安の里の開発者は、平家の落武者とあるか、岡山県窪家郡軽部村出身の軽部市右衛門であるとも伝えていますが、定かではありません。道ばたで、畑でとれた季節の花や野菜を売っていますが、こんな人通りの少ない里で商売になるのでしょうか。
【西行院安楽寺】(子安10)
最初の分岐は右、次の分岐で左の道に入りしばらく行き、右手の20数段の石段を上ると「西行院安楽寺」です。市販の地図には安楽寺と表記されていますが、地元の案内図では西行院という表記になっています。今ではあまり使われていないような雰囲気で雑草に覆われていますが、軽部一族のゆかりの寺といいます。境内には大きなイチョウの木があり、その袂には石仏が幾つか並んでいます。
【軽部家長屋門】
西行院からなおも北に向かうと、左手に「軽部家長屋門」があります。
【見晴らしの丘】
南に向かい十字路で左折して上って行くと、子安の里で一番高いあたりが眺めの良い「見晴らしの丘」になります。このあたりに「みさき道、かまくら道、うらが道」の道標があるというのですが、見当たりませんでした。
【炭焼き小屋】
見晴らしの丘のすぐ南に「炭焼き小屋」があります。ご主人(軽部一郎氏)は話好きだそうで、小屋の中にはまだ炭焼がまが残されています。山家育ちの者にとっては、大変懐かしいです。
【御幣猿の庚申塔】
さらに南に下ると、坂下右側の崖上に庚申塔群があります。10基ありますが、いずれも享保年間（1716〜35）の建立のようです。その中に、享保6年（1721）建立の御幣を担いだ一猿の庚申塔があります。道路反対側の崖上には、日清戦役の記念碑があります。
【馬頭(子安)観音と石仏】
庚申塔のところから左に進んだところに、馬頭(子安)観音と石仏などがあります。
【花立の坂(古東海道)】
さらに進むと、「花立（はんたて）の坂」への分岐点に道標があるというのですが、見つかりません。この道(花立の坂)は「古東海道」(日本武尊の東征伝説にかかわる道)だといわれ、かつての通学路・生活道路でもありましたが、現在は草に覆われていて分かりにくく入りづらく、今はほとんど通られていないようです。子安に住む古老の話では、「子安の里からまっすぐ久留和の海岸に出ても回り道をしないと、秋谷に行けなかった。花立の山越えならば、じかに秋谷の宿に行けた」といいます。
今回、花立の坂(古東海道)への入口が不明で、もし入口が見つかっても道が荒れているようなので、ここは子安の里入口まで下り、子安の里通りのトンネルを二つ歩いて西海岸通りの湘南国際村秋谷入口交差点に出ることにしました。
○「立石公園」(秋谷3-5)
西海岸通りの湘南国際村秋谷入口交差点から南に向かうと、海岸沿いに「立石公園」があります。この地は古くから景勝地として知られ、初代歌川広重が「相州三浦秋屋(谷)の里」を描いたのをはじめ、その後も多くの画家や写真家たちに愛されてきました。「関東ふれあいの道」「かながわの景勝50選」「横須賀風物百選」「横須賀市指定市民文化資産」にも選ばれています。また、立石は昔から三浦七石の一つに数えられています。今でも多くの人がこの地を訪れ、その美景に酔いしれます。
【秋谷の立石・秋谷海岸】
秋谷海岸は東京湾側とは異なり、自然の海岸が多く残っています。「秋谷の立石」とは、波打ち際に突き出した高さ12m、周囲約30mの巨岩の呼び名です。
【泉鏡花の文学碑】
公園の中には、泉鏡花の小説「草迷宮」の一部を刻んだ碑が建てられています。「草迷宮」は、泉鏡花が仮住まいのつもりであった逗子の執筆し、明治41年に出版されました。主人公・葉越明が、幼い時に亡き母から聞いた手鞠歌をもう一度聞いてみたいと、それだけを念願に豊前・小倉の故郷を出て諸国を訪ね歩いた末、ついに三浦郡秋谷の里、鶴谷の別宅で探り当てるという主題を軸に、この作品は描かれています。鶴谷邸のモデルは長屋門のある若命気といわれていますが、フィクションも多いです。
○「立石不動尊」(秋谷3-6)
西海岸通りを南に向かい立石交差点の立石不動尊入口の碑のあるところから、川沿いに山側に入って行くと「立石不動尊」があります。三浦不動尊21番札所。
【不動明王】
入口の門柱上に不動の2童子が、2番目の門柱上に不動坐像があります。どちらも昭和3年造立。そのほか、滝の前や広場など全部で4基の不動明王があります。
【立石不動の滝】
一時期滝壷周辺が立ち入り禁止となっていましたが、現在は解除されています。水量は少ないことが多く、上段の滝壷は人工的に固められています。
【庚申塔群】
滝前広場左手に15基の庚申塔があり、その中に蛇の庚申塔である宇賀神があります。
○「若命家の長屋門」(秋谷3-13)
西海岸通りを南に向かうと秋谷交差点の先左側に秋谷神明社入口があり、入って行くと「若命家の長屋門」があります。若命家(わかめいけ)は、江戸時代に秋谷村の名主役を務め、本陣としての役目をはたしていました。瓦ぶき屋根、壁は漆喰で、腰には平瓦を張り付けたなまこ壁の長屋門です。建築年代は江戸末期と伝えられています。入口正面に向かって左手には納屋、米蔵があり、右手には畳部屋が付属するという長屋門の造りになっています。今でも若命家の表門として現役で使われているといいます。
【秋谷神明社】(秋谷3-14)
若命家長屋門から石段を上ると「秋谷神明社」があります。次の由緒書きがあります。
《当社は元弘元年(1332)に若宮基盛が祭神を奉戴し、相州葛原から秋谷へ移り、村民崇敬の守護神になったと伝えられている。以前は「神明宮」と称していたが、安政6年(1589)に神社号を許され、以来「秋谷神社神明宮」となった。現在は宗教法人「神明社」となっている。現在の社殿は、天保7年(1836)に村民の寄進によって再建されたものである。境内の八坂神社の祭礼は天王祭と称し、この日、神輿は若者衆に担がれ村内を巡行した。神輿は海辺の御刈屋に7日間滞在し、その前後に湯立神楽が奉納された。御仮屋の行事は現在のところ行われていない。》
○「秋谷１丁目三叉路の庚申塔」(秋谷1丁目)
西海岸通りをさらに南に行くと、前田橋バス停があります。ここを右折して西に少し上り、すぐ右折すると三叉路に「秋谷１丁目三叉路の庚申塔」があります。4基の石塔があり、2基は六十六部供養塔、１基は札所供養塔、残りの１基は庚申塔です。
【向坂(旧鎌倉道)】
さらに北に進むと、前田川に架かる前田中橋へと下る坂は「向坂」と呼ばれています。坂下に向坂の説明柱があり、この道は「旧鎌倉道」だとあります。また、説明柱の足元には文化、天保の時代の庚申塔が3基あります。
【秋谷の旧鎌倉道】
旧鎌倉道は三崎への往還道だったようで、向坂辺りは古木が繁り歴史を感じさせてくれます。秋谷の旧鎌倉道のルートは、西海岸通りの立石交差点より海岸線沿いの細道を進み、赤い帆から細高商店前をファミリーマートまで上り、一度、国道134号線(西海岸通り)を秋谷海岸入口交差点まで進み、そこから旧大楠温泉跡地まで下ります。そして、向坂（旧道）を上り大楠小学校裏まで向かっていました。
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