横須賀市さんぽ「津久井・武山から三浦富士ハイキング」
◎『武山から三浦富士ハイキング』
武山から三浦富士ハイキングコースは、縦走するコースとして親しまれています。武山へのハイキングルートはたくさんありますが、初めての人は津久井浜から登って、三浦富士、砲台山、武山山頂を通って武山バス停に着くというコースです。野草の好きな人のコースは、通信研究所南門のバス停のすぐ側からから入って、林道を楽しんで三浦富士に行って長沢駅を目指します。または、三浦富士に行かないで武山を目指す方法もあります。
○「岩船地蔵と庚申塔」(津久井1丁目)
京急津久井浜駅前に「岩船地蔵」があります。海岸に向かつてすぐ右折、岩船地蔵や5基の庚申塔が右手に並んでいます。地蔵は立像と坐像の2基で、享保5年(1720)に建立、宝暦4年(1754)に再建されました。船に乗ったお地蔵さんは珍しく、航海安全と水難除けの祈願が多く、お礼参りの貝殻の首飾りが絶えることがありません。また、津久井駅前にも3基の文字庚申塔があります。
【小倉医院前の庚申塔】
津久井浜駅を降りて海岸の方へ行ったふたつ目の三叉路、小倉医院前に3基の庚申塔があります。
○「万代会館(古民家)」(津久井2-15)
津久井浜駅から北東に向かうと、古民家の「万代会館」があります。松に囲まれた万代会館は、起伏のある芝生の庭と、今ではめったに見られない萱葺き屋根の建物です。民家風数寄屋造りの住宅で、玄関を入り、靴脱石を上がると畳敷きの取次の間、それに続く広縁も当初は畳敷きだったようです。波打つような昔のガラスが陽の光を受けて周囲を囲んでいます。
○「浅間神社」(津久井4-18)
津久井浜駅改札口のすぐ北側に「浅間神社」があります。説明板によると、「僧の行基がこの地を訪れた時に、駿河国の浅間神社を勧請し祀った」とあります。元々は三浦富士の入口にあったものを、昭和3年に現在地へ移したということで、現在、三浦富士の方には浅間神社奥宮があります。
【貝化石床】
浅間神社から左に回り込むと、神社裏手に「貝化石床」があります。津久井化石床という化石を含んだ地層で、真ん中のあたりに化石が大量に出ています。この地層に含まれる化石は，30〜35万年前の貝や単体サンゴの化石です。ただ化石の状態から考えて、この化石は再堆積したものだと思われ、地層自体ができたのはもっと最近で、12万年前ぐらいだと思われます。坂を上がると平らな土地(スイカ畑)が広がっています。津久井化石床の崖が段丘崖といい、このような平らな面を段丘面といいます。そして、このような崖と平らな面が階段状にある地形を「海岸段丘」といいます。
○「往生院」(津久井3-18)
浅間神社から北に向かうと「往生院」があります。建立は永禄元年（1558）で、開山は僧明誉、開基は村民長谷川惣左衛門の先祖で正寛といいます。本尊の阿弥陀三尊像(三浦七阿弥陀仏第六番)は、永禄元年（1558）の制作が知られ、かつての像は平（和田）義盛の発願により運慶が造像したと伝えています。ちなみに三浦七阿弥陀仏ですが、第一番は逗子市池子の東昌寺、第二番は横須賀市芦名の浄楽寺、第三番は横須賀市長坂の無量寺、第四番は横須賀市不入斗の西来寺、第五番は三浦市三崎の光念寺、第六番がここ往生院、第七番は横須賀市根岸の正観寺(廃寺)です。
○「津久井浜観光農園」(津久井5-15)
往生院から北に向かうと「津久井浜観光農園」があります。武山の麓にある観光農園で、イチゴ狩りを始めジャガイモ掘りやサツマイモ掘り、メロン狩りやミカン狩りなど四季を通して色々な味覚狩りを楽しむことができます。また、案内所では農家の方々が作った野菜や漬け物、ジャムなども販売しています。観光農園では15件の農家がイチゴ栽培を行っていて、ビニールハウスは35棟ほどあり、品種は紅ほっぺ・とちおとめ・さちのか・あきひめなど4種類があります。ハウスに入園してから30分間、イチゴ食べ放題というシステムになっています。
【津久井公園前の庚申塔群】(津久井5-21)
観光農園の先に「津久井公園」があり、その手前に庚申塔が5基ずつ二つに分かれてあります。
○「武山不動尊」(武1-3040)
ハイキングコースを武山に向かうと、武山展望台の奥に「武山不動尊」(標高202ｍ)があります。航海安全の浪切不動として広く知られ、漁業関係者から厚く信仰されています。沿岸漁業者にとっては、この山頂が漁場を定める基準として、あるいは港の方向を知る標準として欠かすことのできないお山であったことも信仰を深めた一因と思われます。説明板に次の説明があります。
《当山は浄土宗龍塚山持経武山不動院と称します。 武山は昔日本武尊が弟橘比売命妃と共に御登りになられたので其の名がつけられたと謂はれ、又三笠宮、浩宮様方も学習院に在籍中は御遊覧にお登りになられた由緒ある歴史を持っております。抑も当不動尊は後小松帝の御写応永4年（1397）奈良東大寺沙門萬務阿闍利（しゃもんまんむだいあじゃり）が諸国行脚の折、当地に立寄り創建したもので、国家安全、萬民福利を祈願する道場として、一刀三禮感応の霊々たる不動明王を安置し奉り、三浦半島の総鎮守として霊場一番の札所であります。 当山の標高は海抜二百米余の高燥の地位を占め、空気清浄閑雅にして、遠くは雄大なる太平洋をのぞみ、近くは霊峯富士山を控え眺望絶景なるをもって善男善女紳士淑女学生団体等の参拝あり。 又航海者漁夫達の目標の場所として、特に篤い信仰を寄せられております。》
【身代り不動尊】
本堂右手に「身代り不動尊」があります。説明板によると、由来は江戸末期文化の頃、豪雨の中、本堂脇のオオキの大木に落雷し、大木は真二つにさけ焼焦げとなりました。御本尊、御本堂も無事を見た人々は、御身代りと唱えました。その大木、年代を経て芽を吹き、青き葉、枝をささえ、その旺盛なる力に感動し、参拝の有信者が手を合わせ、身代の不動尊と唱えこれを祀りました。
【武山(標高200ｍ)】
武山不動尊の正面の石段や坂道を降っていくと、「武山」(標高200ｍ)の山頂になります。山頂には電波塔や展望台などがあって、かなり広い場所になっています。山頂には、オオムラサキ、博多白、妙義山のツツジが約2000本あり、毎年4月下旬に「武山つつじ祭」が行われます。
○「砲台山(大塚山、標高206ｍ)」
武山での眺めを堪能したら、道標に従い砲台山へと進んでいきます。武山から20分ほどで砲台山(大塚山)に到着します。ハイキングコース上にある「大塚山」(標高206ｍ)は、昭和初期に海軍が砲台を造ったことから「砲台山」と呼ばれるようになりました。山頂には、金網で囲まれた海上保安庁の武山受信所があり、パラボラアンテナがそびえています。その横に、すり鉢状の砲台跡が今もきれいに残されています。すり鉢の中央には、かつて高角砲が据えられていました。側面に開けられた8個の四角い穴は、弾薬の格納庫と思われます。
○「三浦富士(標高183ｍ)」
砲台山から30分で「三浦富士」(標高183ｍ)に到着します。山頂には、「津久井村社 浅間神社奥宮」と記した石碑があり、大きな木の袂には石造の小さな祠が浅間神社奥宮のようです。高い山ではありませんが山頂からの眺めは素晴らしく、相模湾から東京湾まで、伊豆大島や房総半島が望めます。運がよければ、武山の上空に雄大な姿を見せる富士山を目にすることもできます。また、移動体通信の技術研究機関が集積したYRP横須賀リサーチパーク「光の丘」の全景を見ることができます。
○「浅間神社の鳥居」(津久井)
三浦富士から急階段を南に下って行くと、横須賀警察犬訓練所に出ます。ここはまっすぐみかん畑の中を下って行くと、「浅間神社の鳥居」があります。浅間神社の扁額が架かる鳥居と、石燈篭が一対立っています。 鳥居越しに振り返りますが、残念ながら余りにも遠くて三浦富士山頂の浅間社は確認できません。
○「東光寺」(津久井5-8)
なおもまっすぐに下って行くと左手に墓地があり、墓地手前を下ると「東光寺」があります。東光寺の縁起によれば、今より1200余年前、第45代聖武天皇の天平年間に救世の聖者・行基菩薩が諸国行脚の折、この地に来臨し休息した際、ここに草庵を結び生済度のために地蔵尊像を造立しました。ある夜、老翁が行基菩薩の夢にあらわれ三浦富士より来たことを伝え、さらに「汝、速やかに当山において薬師如来の尊身を彫刻したてまつり、一切衆生をして身心安楽なることを得せしめん。」と告げました。行基菩薩は愕然として寝床をたち、ただちに三浦富士に登り、石室をひらき、神を祭ったといいます。その後草庵に戻り、夢告の通り薬師如来像ならびに日光・月光両菩薩、12神将を彫刻奉安し、一宇を建立しました。しかしながら、開山以降風雨を重ね堂宇は荒廃してしまい、時の住持・上野阿闍梨はこの廃絶を悲しんでいたところ、三浦の庄司で平義継の二男・津久次郎井義行が、治国理民の祈祷所と定め中興しました。
【津久井氏一族の五輪塔】
境内に「津久井氏一族の五輪塔」があります。
【津久井義行公碑】
門前には、大正11年6月に建立された「津久井義行公碑」があります。津久井義行は、三浦一族の頭領・三浦大介義明の弟です。
【マカセの墓】
墓地には、紀州から鰯を追ってこの地に移住したマカセ漁師「マカセ網を使う漁師」の墓があります。元締めといわれた田中武右衛門や俗名銀助と刻まれています。彼らが使用していた井戸を「マカセ井戸」といいます。鰯が採れなくなると新しい漁場を求めて、九十九里浜や鹿島灘と北へ向かいました。
【ヒマラヤザクラ】
東光寺には、真冬に咲く「ヒマラヤザクラ」があります。
○「津久井氏館跡(峯屋敷)」(津久井5丁目)
東光寺の南の峯屋敷と呼ばれる小山に、「津久井氏館跡」があります。津久井氏は平安末期から鎌倉初期にかけての相模の豪族で、衣笠城主三浦義明の弟津久井次郎義行の居館跡です。義行以降、高行、義通、高重と4代に渡る津久井氏代々の居館でした。高重は承久の乱で後鳥羽上皇方に付いて討死し、津久井氏は滅亡したといいます。津久井氏館は、衣笠城の南方4.6kmの位置にあり、三浦氏にとって三浦半島南部の東京湾側の開発拠点であったと推測されています。「峯の屋敷」と呼ばれる比高15m程の丘陵上にあったとされていますが、現在は住宅地と果樹園に変貌しています。内部に入ることはできないので、周囲を見ただけですが、遺構は残っていないようです。ただ、周囲の平地を見下ろせる段丘であり、地勢的に中世初期の居館を築くには好適であったことが伺われます。
【津久井氏館跡の庚申塔群】
津久井氏館跡の西側に庚申塔群があります。5基ずつに、二つに分けられています。青面金剛、青面金剛供養塔、馬頭観世音、庚申供養塔、猿田彦大神、大青面金剛などの石碑を収めた場所が二つ並んでいます。
○「荘厳寺」(津久井3-7)
津久井氏館跡から東に向かい、津久井小学校の前から南に下って行くと「荘厳寺」があります。開山は円覚寺高僧岳雲禅師で、応永年間（1394〜1427年、室町幕府四代将軍足利義持の頃）当地に来て荘厳寺を建立したといいます。本尊は十一面観音菩薩。
【腹篭不動】
三浦不動尊十二番札所。腹篭不動といわれる不動明王像は、本堂の厨子の中に祀られており、この像は仏師運慶作と伝えられ、像高75�儡鵑嗣畋い蟠夢稙�りで、像の胎内には智証作と伝えられる愛染明王像が納入されています。胸部に方形の穴があけられ、合掌する愛染明王を直接拝むことができるありがたい不動像です。不動像は佐原十郎義連の守護仏で、油壺の新井城に祀られていましたが、永正13年7月11日北条氏との合戦落城の折、城主三浦義同はこの像を子明禅師に託して城外に持ち出させたといわれています。
【長州藩士の墓】
本堂左手から墓地に上る石段の傍らには六地蔵があり、その奥には故郷に帰ることなくこの地に没した幕末長州藩士・田中則久の墓があります。安政5年（1858）に亡くなったようです。長州藩は嘉永6年（1853）〜安政5年（1858）まで、江戸湾防備に当たっていました。
【荘厳寺下の庚申塔群】
荘厳寺の近くの三差路に7基の庚申塔があります。この中でも最も目を引くのが、一番左側の庚申塔です。とても大きな顔と小さな体で、なんともユーモラスな姿をしています。
【七桶の里伝説】
長沢海岸には、次の「七桶の里伝説」が伝わっています。
《長沢の七桶の里と呼ばれるところに、欲の深い老婆と与助という漁師が住んでいました。不良続きであえいでいた年の瀬、与助は小舟を出して沖に向かうと、大きなタコを見付けました。あまりにも大きく、足1本で桶いっぱいとなりました。与助と老婆は他の漁師には秘密で、毎日密かに足を1本ずつ切り落として売り歩きました。そして８日目。最後の1本を切り落とそうとしたとき、今まで身動きひとつしなかった大蛸が激しく暴れ出し、１本の足を巻き付けて、与助を海中深く引きずり込んでしまいました。それ以来、その岩を七桶の岩と呼んで恐れ、7つの桶しか取れなかったことから、七桶の里と呼ぶようになったそうです。》
○「長岡半太郎記念館・若山牧水資料館」(長沢2-6)
京急長沢駅前から南東の海沿い(海岸通り沿い)に「長岡半太郎記念館・若山牧水資料館」があります。長岡半太郎（1865-1950年）が、40年間にわたって別荘としたところです。31歳で帝国大学理学大学教授になり、61歳で定年退官した後には、大阪帝国大学初代総長、貴族院議員、第一回文化勲章受章、帝国学士院長などの顕職を歴任するなど順風の学者生活を送りました。40代初めに東北帝国大学理科大学の創立準備委員になり、物理学の将来を見越した人選を行い、本多光太郎（1870-1954年。KS鋼・東北大総長）を選んでいます。また、大阪大学初代総長時代は、若手研究者の中に湯川秀樹（1907-1981年）や朝永振一郎を入れています。ノーベル賞候補者の推薦委員になり、湯川を推薦し、湯川秀樹は日本人初の受賞をしています。記念館の外には、愛用の机と椅子をかたどったものがおかれており、「座ると頭のよくなる長岡博士愛用の鬼の机」という解説がしてあります。この野外机には、来訪した著名な学者達は必ず座らせられたという自慢の机でした。この記念館は若山牧水資料館も兼ねています。資料類はむしろ牧水の方が多いようです。この地は、漂白の歌人・若山牧水（1885-1928年）の妻・喜志子（歌人）の病後療養のために1年間を過ごしたところです。旅と酒の歌人とも言われた牧水が旅姿で写っている写真をあります。
【若山牧水夫婦碑】(長沢2丁目)
若山牧水資料館の南東、長沢海岸に「若山牧水夫婦碑」があります。表に若山牧水、裏面に妻・喜志子の歌が刻まれています。
�爐靴蘢擦楼イ靴�らずや そらの青海のあをにも そまずたゞよふ 牧水��
�爐Δ舛韻屬蟲�山も浮び来と 今日のみちしほふくらみ寄する 喜志子��
歌碑は、牧水一家の主治医であった田辺医師の子息が早くから建立を計画し、昭和26年には建設趣意書まで作ったが病床に伏したために断念、その後横須賀観光協会が引き継いで完成させました。歌にちなんでこの海岸を「白鳥海岸」と名付け、観光面で売り出したいというような意図もあったといいます。初めは、最初に住んだ家にほど近い海岸の松林の中に建てられましたが、その後道路ができ、さらに道路拡張のため若山牧水資料館前の歌碑とともに、平成14年9月現在地に移設されました。
【若山牧水住居跡】(長沢808)
若山牧水資料館の北西に「若山牧水住居跡」があります。大正2年に長男旅人を出生したあと若山牧水の妻・喜志子は体調が優れず、大正４年３月腸結核と診断された喜志子の転地療養のため、牧水一家は当時の北下浦村長沢の斉藤松蔵方に転居（翌年６月には谷重次郎方へ）。約１年９ヶ月をこの地で過ごしました。喜志子の健康は次第に回復し、大正5年11月には長女みさきが誕生しています。また、この時期に第八歌集「砂丘」を出版しています。大正5年12月28日には喜志子の体調も回復し、東京小石川に戻ります。
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