三浦市さんぽ「初声町高円坊・妙音寺から日枝神社(朝盛塚)」
○「妙音寺(三浦七福神)」(初声町下宮田119)
京急三崎口駅から桜並木のくだり坂を下り、京急線の高架下から谷底を南東に向かいしばらく歩いていくと、閑静な住宅地の中に三浦七福神の一つ「妙音寺」があります。創建は室町時代初期の天正年間(1573〜92)で、当時は現在地より１�卷未量�音寺原という旧鎌倉街道沿いの場所にあったといいます。『初声村史』には、1516年に小田原北条氏と当地武将の三浦道寸との戦いの際に焼失し、三浦氏滅亡後はこの地を治めた小田原北条氏によって再建され、雨乞い祈願所として庇護を受けたといいます。「三浦のお大師さま」とも呼ばれ、関東１都６県にまたがる「東国花の寺百ヶ寺」のひとつ(ヤマユリ、6月下旬)になっています。
【花山曼荼羅】
裏山一帯の｢花山曼荼羅｣とは、真言宗の教主でありいのちの根源とする大日如来を中心に、百種174躰の石仏と30種3200本の花木によって構築された浄土の世界を表しています。
【ヤマユリ】
6月下旬頃には、石仏群の間に自生する約2000本のヤマユリが美しく咲き誇ります。素朴な石仏群と咲き誇るヤマユリ、まとまって咲いているユリの花はすばらしいです。自生しているという感じもあまりなく、丹精を込め世話をしてようやく開花の時期を迎えたという印象です。
【三浦七福神・鶴園福禄寿】
鶴園福禄寿は、裏山一帯に広がる仏の世界｢花山曼荼羅｣の一尊として勧請されたもので、山頂の大師堂に祀られています。大師堂の三躯の福禄寿のうち、中央の黒い厨子に入った鶴を携えている福禄寿を｢鶴園福禄寿｣といいます。正月のご開帳のころ、山内の散策道には水仙や早咲きの梅も咲き始め、参拝者の目を楽しませてくれます。
【妙音寺の庚申塔】
妙音寺の境内に上る階段右の子育て地蔵堂があり、地蔵尊の右の石塔が庚申塔です。また、妙音寺の一番高いところにある大日如来堂のすぐうしろの道端にも庚申塔群があります。
○「飯森神社」(初声町下宮田282)
妙音寺の東方に「飯森神社」があります。祭神は大己貴命。南下浦町菊名の白山神社の兼務社となっています。
○「小松ヶ池(小松ヶ池公園)」(南下浦町上宮田)
京急久里浜線の線路沿いに「小松ヶ池」があります。以前の小松ヶ池は現在よりも大きな池でしたが、現在は埋め立てられてしまいました。現在、「小松ヶ池公園」は面積約3.69haあり、小松ヶ池は面積約1.5haあります。野鳥、昆虫、植物などの自然生態を観察することができる公園として整備されています。
【河津桜】
小松ケ池には渡り鳥がやってきて、春近くになると綺麗な河津桜が咲きます。三浦海岸駅前の河津桜は１月下旬から咲きだし、河津桜はカンヒサクラ（寒緋桜）と早咲きオオシマサクラ（大島桜）の自然交配種です。
【伝説・小松ヶ池の哀話】
小松ヶ池はまたの名を「お松ヶ池」と呼ばれ、古くから里人の間にこの沼にまつわる次の哀話が語り継がれています。
《昔、この池の辺りがまだいくつかの小さな水田に分かれていた頃、「お松」という働き者の嫁が一人、田植えに励んでいました。田んぼの持ち主である姑は息子夫婦の仲睦まじさをねたみ、まだ産後間もないお松をいびり始めました。姑は息子の留守を狙い、一人では到底不可能なほどの田植えを言いつけられました。素直なお松は赤子を背負い、一所懸命田植えをしました。すでに太陽は西山に隠れようとしているのに田植えは終わらず、困り果てたお松は天を仰いで「あと半刻もあれば田植えが終わるのに」と嘆き悲しみ、太陽が沈まぬよう一心に神に祈りました。すると不思議なことに、沈もうとしていた太陽がにわかに数尺も高く東へ戻り、そのおかげでお松は無事に田植えを終えることができました。しかし精根尽き果て、あたり一面は深い泥沼へと変わり、お松は水に呑まれてしまいました。それからというもの、お松のたたりを恐れてこの田んぼを耕す者はおらず、雨の多い年が続き、やがて水が溜まり、池となりました。》
【馬場台地の庚申塔群】
小松ヶ池の南方、馬場の台地の上の畑の中に庚申塔群があります。
【岩神の庚申塔群】
小松ヶ池から西方の安楽寺方面に向かうと、岩神の台地の畑の中の畦道に庚申塔が4基あります。
○「安楽寺」(初声町下宮田1342)
小松ヶ池の西に「安楽寺」があります。『初声村誌』、『寺院明細帳』によれば、宮田太郎貞明が建武年間（1334〜36年）に建立したとされています。その後、貞亨2年（1685）岩神村の田中吉左衛門（現田中勲家）が、近くの古屋敷という場所から現在の場所に堂宇を移して再建しました。本尊は阿弥陀如来立像。同じ下宮田にある妙音寺が兼務しているお寺です。初声町和田にもかつて安楽寺がありましたが、下宮田にある安楽寺とは無関係のようで、和田の安楽寺は国道拡張工事によって廃寺になりました。
【六地蔵】
境内には舟形浮彫りの石仏がいくつかあります。舟形浮彫りの地蔵は肩幅が広く、ちゃんちゃんこを着ることができずかぶせてあるだけです。境内には、ほかに石階供養塔、寺子屋師匠の墓などがあります。
○「来福寺」(初声町高円坊1859)
安楽寺から北東に向かうと「来福寺」があります。来福寺は和田義盛の菩提寺で、本堂には和田義盛の木造（室町時代作）があります。現在未公開。建永年間（1206〜7年）に鎌倉名越の地に建立され、建保5年（1217）にこの地に移築されたといいます。また、墓地には海防のため幕末に上宮田陣屋に駐屯した彦根、長州藩士の墓があります。
○「日枝神社」(初声町高円坊430)
来福寺の前の道を北に進み台地上に出て、キャベツ畑の中の農道を北西に進むと左手に鎮守の森が見え、この辺りで一番高台に「日枝神社」があります。祭神は国常立尊を祀り、名主・川名利右衛門により文禄年間（1592〜6）に創建されました。
【朝盛塚】
日枝神社の東方の畑の中に「朝盛塚」があります。朝盛は義盛の孫で建保元年（1213）和田一族が北条氏と戦い敗れた和田の乱ののち、この地に逃れ、帰農して土地を開拓したといいます。その法号「高円坊」の名にちなみ、この地を高円坊と呼ぶようになりました。
【小長作の庚申塔群】
日枝神社の北方、小長作の台地頂上の畑道の三叉路に9基の庚申塔があります。
○「三峰神社」(初声町高円坊)
日枝神社から北に進み、大通りに出て北に向かうと高円坊区会館の上に「三峰神社」があります。畑地を守る神様として信仰されている神社で、小高い丘の縁に続く道の周辺にはツバキ・ヤブニッケイなどの照葉樹の林が続いています。
【高円坊区会館前の庚申塔群】
三峰神社の入口、高円坊区会館（三浦市消防団第十分団）前の三叉路の路端の一段高い場所に六地蔵と一緒に「庚申塔群」があります。
【マリエ北の庚申塔群】
三峰神社の北方、高円坊の乗馬クラブ「マリエ」の北側畑の中の十字路に、9基の庚申塔があります。
○「わくり井戸(義盛井戸)」(初声町高円坊)
庄司川に沿って南に爽やかな風に吹かれ田園風景を楽しみながら歩いていくと、畑の中に霊泉が湧いたとされた「わくり井戸」(義盛井戸)があります。今は入口に説明板がありますが、石碑があるのみで見落としそうになります。当時、この地にあった五劫寺に参詣する者はここで身を清めたとされ、義盛も参詣のたびに清めたことでしょう。説明板に次の説明があります。
《天平元年（729）僧行基当国行脚のみぎり、塔の台に来たり給ひ、その麓の西にあたりて、湧きいずる泉に感じたまい、延命地蔵菩薩の尊像を彫刻し、塔の台に一宇を建立して、これに安置したまへり。鎌倉時代に至り、地蔵菩薩は霊験あらたかにして、奇特もっともこれ多く、よりて、三浦大介平義明の長男杉本太郎義宗の嫡男和田左衛門尉義盛、 尊崇帰依の道場なり。故に、志ある輩は霊泉の流れ川で、垢離（こり）を 取りて参詣す、是れによりて精進川と云う。(古文書より)
このことから和田義盛は、塔の台に安置された地蔵菩薩を信仰していたことや、垢離を取った川を「精進川」と言うことがわかります。なお、塔の台は現在の日枝神社の一帯を言います。霊泉を「大井戸」と呼び、三浦七井の随一で、南西に広がる水田地帯を潤す貴重な水源となっており、五劫寺が管理していました。泉から東南に流れる精進川は、耕地の中程を流れていた庄司川に合流していました。現在では土地改良事業が行われ、霊泉や精進川は見られなくなりましたが、その水源は上水道に利用されています。》
【大井戸の庚申塔群】
わくり井戸から大通りに出て南に向かうと、大井戸地区の道路が右に大きくカーブする辺りの道路端に「庚申塔群」あります。
○「五劫寺跡」(初声町和田)
大井戸の庚申塔群のあるところから、高円坊の初声幼稚園への道に入るとその手前の右手、和田悌五郎氏宅が「五劫寺」（ごごうじ、廃寺）跡になります。和田氏は住職で高円坊を開いた和田朝盛の子孫と伝えられ、天平元年（729）行基が開いたといわれる五劫寺があったところです。和田合戦に敗れた和田義盛の孫・朝盛は祖父や一族の菩提を弔うためにこの地に住み、五劫寺を中興開基して祖父が信仰した延命地蔵尊を本尊としました。自らの名を高円坊とし、その次男を二世高哲坊としたと伝わります。祖父・義盛が自害の折に託した灰煉地蔵尊は五却寺の寺宝として残されておりますが、お寺自体は明治期に廃寺となり日枝神社が建てられました。五劫寺のあったあたり和田宅の前には、古材で組んだ素朴な冠木門があり、その奥には庭園がありひな壇式の墓地も残り、周囲には樹齢600年のあすなろの木があります。
【初声幼稚園上の庚申塔群】
五劫寺跡から初声幼稚園の前を南に上っていくと、左手に先ほどの日枝神社の森が見えてきて台地上で三差路になります。ここを右折して畑の中の農道をしばらく行くと、人家の先の三叉路に6基の庚申塔があります。丁度、来福寺の裏手西側の台地上になります。
○「旭小学校入口の庚申塔群」(初声町高円坊)
台地上の農道を北に向かうと、先ほど歩いた道を交差してバス道路の大通りに出ます。少し北に向かうと、右手に旭小学校へと下って行く道があります。この旭小学校入口十字路の西角に庚申塔などが並んでいます。
○「諏訪神社」(南下浦町上宮田655)
旭小学校への道を下っていくと、京急久里浜線のガード下を過ぎると「諏訪神社」があります。狛犬は上田伊右衛門の作です。
【ホルトノキ】
地域の人々に親しまれている樹形の整った巨木で、樹高21．5m、幹周り4．15m。滅失しつつあるホルトノキ(もがし)の中で、県内最大ではないかと思われる古木です。
○「三樹院」(南下浦町上宮田601)
諏訪神社から南西に向かうと「三樹院」があります。平安末期、木曽義仲の家臣であった今井四郎兼平の陣屋がこのあたりにあり、その陣屋の古材で寺を建てたのが始まりといわれています。寛永６年（1629）江戸増上寺の照蓮社遍誉了海上人によって開創、宝永５年（1709）遍誉上人が増上寺より應行上人作の十一面観世音菩薩像を移遷し本尊としました。この十一面観世音菩薩は、今井四郎兼平の守り本尊と伝えられます。現在は阿弥陀如来が本尊。
【今井の井戸】
本堂の前に「今井の井戸」があります。この井戸は、往時の三浦五井（長井、吉井、津久井、今井、大井戸）の一つで、今井の地名はこれより起こったと思われます。昔は、この井戸水を飲料水として使用していましたが、現在はお墓参り用の水として使われています。
【不思議な絵馬】
本堂に不思議な絵馬が掲げてあります。明治時代、近くに住む房州屋の先代が東京からの帰り、久里浜より集合馬車に乗って尻込坂までくると、何に驚いたのか馬が急に暴れだしました。そのとき、日ごろ信仰する「今井の観音」（三樹院）に念仏を唱えて無事を祈ると、不思議や馬は坂の下でぴたりと止まり、無事に帰宅することが出来たといいます。のち先代はこの観音の恩に感じ、お礼としてこの絵馬を奉納したといいます。
【納経供養塔】
参道入口には１m以上もある納経供養塔が建っています。この碑は享保20年上宮田の吉田長五郎が父母の冥福を祈るため諸国の霊場を巡拝し、無事法華納経を修した記念碑で、往時の札所遍歴の苦難を示す貴重な碑です。
【三樹院の庚申塔群】
門前の道路に沿って9基の庚申塔が並んでいます。うち1基は青面金剛で剣人持ち六臂で、ここでは最も大きく左右面に二童子を配しています。つり上げた厳しい表情で笠部には卍字が彫られています。もう1基は、同じような剣人持ちの青面金剛ですが、怒髪が垂直で上に伸び帽子を被っているように見え、衲衣も襞のある直線模様に統一されており、邪鬼の手足も面白いです。文政五壬午年四月吉日銘。
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