三浦市さんぽ「城ケ島・城ケ島灯台から白秋記念館」
【城ケ島】
三崎港の沖合約200mに浮かぶ周囲約4kmの島で、高さ20〜30mの台地状で東西に細長い。三崎港側には民家やみやげ物屋などが立ち並んでいますが、太平洋に面した南側は荒磯と断崖が続く岩礁地帯で、シーサイドハイクや磯釣りが楽しめます。白秋の「城ケ島の雨」で知られ白秋の碑があり、ウミウの飛来地でもあります。三崎とは長さ575m、幅11m、海面からの高さ22mの城ケ島大橋(料金：普通乗用車100円、徒歩・自転車無料)で結ばれています。
島名については諸説ありますが、江戸時代の天保年間（1830〜43年）に書かれた『新編相模風土記稿』に、古くこの地に城郭があったことによる名称であるということですが、それについては戦国時代、北條対里見による島の争奪戦の時、陣屋（城）が構築されたということです。さらに昔、尉（じょう=老爺）という者が住んでいたので「尉ヶ島」と書いたのを、後に今の文字に改めたというのです。また、この島の先祖は三崎の「城村（じょうむら）」から移り住んだ人たちが多かったことから、「城」の字が使われたともいわれています。
○「梶の神社(楫の三郎山)」
京急三崎口駅前から城ケ島行のバスに乗り終点で降りて、西方の土地の人がなんど崎と呼んでいる灘ヶ崎に向かうとすぐに「楫（梶）の三郎山」(地元では三ツ山と呼ぶ)があり、小丘に上ってみると「梶の神社」の小さな鳥居と宝篋印塔があります。登り口の説明板に、次のように書かれています。
《ここ楫の三郎山は、対岸の三崎にある郷社海南神社の祭神藤原資盈（すけみつ）公が貞観6年（864）故あって九州博多を出帆し、途中暴風にあい漂流の末、三崎に着岸されました。このとき、御座船の楫とり役を司どっていた家臣三郎をこの山に祀り楫の三郎山と呼ぶようになったと伝えられています。また資盈が「我が住むべき地があるか」と問われたので、三郎がそのとっていた楫で占って楫が落ちた処に鎮座、これが神号になったとも伝えられています。大正初年頃までは、この山に主の大蛇がすんでいるから登るとたたりがあるとの言い伝えがあり、誰一人登ったことがなかったといわれています。今では、航海の安全と大漁を祈願する漁業関係者の信仰が厚く、毎月7日、17日、27日に多くの人々が参拝に訪れています。》
【宝篋印塔】
宝篋印塔は完全ではなく上部の相輪と塔身・台座は欠損していますが、屋根や基壇の反花座（かえりばな）等の特徴から関西形式であるといわれています。造立は鎌倉時代後期で、津（港）の入口での航海安全祈願のために建てられたものとされています。
○「城ケ島灯台」
バス停に戻り売店の中を南に向かうと「城ケ島灯台」があります。灯台の歴史は古く、慶安元年（1648）当時三崎奉行であった安部次郎兵衛が徳川幕府の命によって、航行する船のために島の東端安房崎に狼煙(のろし)台を設けたのが始まりです。燃料は、三崎城空堀の竹でした。それから30年後、延宝6年（1678）にこれを廃して島の西端に灯明堂(和風灯台)を設けました。その後、享保6年（1721）に代官河原清兵衛がふたたび篝(かがり)火に変えました。この篝火による灯台は、明治3年8月12日夜まで続きましたが、以後フランス人技師・ヴェルニーの設計造築(観音埼灯台と同じによる設計)による、高さ11.5mの新灯台に変わりました。この新灯台がわが国２番目の白色光の洋式灯台で、関東大震災（1923年）で損壊しましたが、大正15年に改築、現在の灯台は今日まで城ケ島沖を航行する船人の心の灯となっています。現在は高さ9m、燭光は12万です。
○「丸山塚」
城ケ島は『小田原記』によると、弘治2年(1556)後北條氏と房総里見氏との合戦があったところで、十年間の争奪戦のあげく、ついに里見軍は断念し引き上げたといいます。城ヶ島交番から南に上がった付近、島の中程にある「丸山塚」は、両軍の戦で没した士を供養した塚といわれていますが、すべて笹薮の中で場所は確認できませんでした。北条氏康は戦勝を祝して、永禄8年(1565)小田原城から家臣を連れ、桜見物の祝宴に講じたといいます。城ケ島公園の駐車場の辺りは、かつて一番堀・二番掘との古名が残っており、近くの常光寺のある場所は、里見軍の布陣跡といわれます。
○「馬の背洞門」
丸山塚から南の海岸に向かうと「馬の背洞門」があります。自然が作った海蝕洞穴で、長い年月をかけて波浪・風雨等に浸食され見事な形となったものです。地層は第三紀層、鮮新統(今から520〜160万年前の鮮新世に堆積した地層)、三浦層群に属し、土質は凝灰質砂礫岩という軟かい岩質です。高さ8ｍ、横6ｍ、厚さ2ｍで、土地の人は、ほかに「めぐりの洞門」「眼鏡の洞門」などと呼んでいます。そのどの名前もみな洞門の形から推して名付けたものです。明治の文豪・大町桂月はここに訪れて次のように述べています。
《−馬の背に至る、怒濤脚下の巌を噛む、左は房州、右は伊豆、前には雲の峰聳ゆ、その雲の峰少し薄らぎて中より大島あらわる、馬の背はやがて馬の首となり長厳海に突出す。云々》
海岸ルートと高台ルートがあり、海岸ルートは長津呂の海岸や相模湾を眺めながら海岸沿いを散策するルートで、晴れた日には富士山を眺めることができます。高台ルートは高台を散策するルートで、馬の背洞門は上から眺めることができます。また、コースの両脇には水仙の株が植えられています(水仙ロード)ので、１月から２月にかけて多くの水仙を見ることができます。
○「ウミウ展望台」
崖沿いに東へ進むと、赤羽根海岸の上に「ウミウ展望台」があります。展望台の東に広がる赤羽根海岸の断崖には、毎年10月下旬になるとウミウ・ヒメウが遠く千島列島から飛来し、翌年の4月まで見ることができます。この断崖は幅約300ｍ、高さ30ｍにわたり、波打ち際からの垂直の崖が人を寄せ付けないことから鵜の群のよい生息地となっており、「城ケ島のウミウ・ヒメウ及びクロサギの生息地」として神奈川県の天然記念物に指定されています。ウミウやヒメウは、昼間餌を探して出かけることが多いため観察は夕方がおススメです。
○「城ケ島公園」
城ケ島の東半分を占めるのが、「城ケ島公園」です。公園入口から園路をたどり岬の先端へ向かうと、松林を抜けた途端、独特な草原風景が広がります。この景観は太平洋から吹き付ける強風と、降り注ぐ日差しがつくりだしたもので、ほとんどの植物は高くなれず、クロマツも風を避けるように島の内側に傾いて枝を伸ばします。展望休憩所からの眺望も島ならではのものです。眼下には岩礁に波が打ち寄せ、視線を上げれば房総半島から伊豆大島・伊豆半島までが一望のもとです。１月には、スイセンが香りとともに清らかな花を開き、この季節には大勢の人が訪れ一足早い春を楽しんでいます。現在の駐車場の中に、太平洋戦争当時の高射砲の陣地と思われる丸い台座が残されています。
○「安房ヶ崎灯台」
城ケ島には、東西南北にそれぞれ安房ヶ崎（東）、長津呂崎（西）、赤羽根崎（南）、遊ヶ崎（北）という岬があります。城ケ島公園の東にある安房ヶ崎には、安房埼灯台が建ち神奈川県の最南端でもあり、安房の国に面しているので安房崎といわれています。東京湾口に位置することから、江戸時代以来防衛上重視され、東安房ヶ崎には、慶安元年（1648）に狼煙台が設けられ、文化５年（1808）には砲台が設置されました。
○「洲崎明神」
安房ヶ崎に「神楽高根」というところがあって、昔、鎌倉将軍が「洲崎明神」へ奉納の神楽を奏したところと伝えています。このお宮は『新編相模国風土記稿』によると、「須能美佐木（すのみさき）」と記して、《海を隔て房州洲崎明神の社地と相対す、故に神号とす、藤原資盈が郎等の霊を祀りしと云ふ》とあり、社地の称のみで社はないと記していますが、現在、安房ヶ崎灯台への階段を下り、海辺へ出る直前に説明板があり、右側の草やぶの内に入って行くと小さな社があります。入り口が不明なほど草に覆われていますが、社地そのものはひっそりとした聖域を思わせるところです。ただ、残念なことに鳥居が朽ちて傍らに置かれて、その役目を果たしていません。『永享記』という記録には、室町時代の末に江戸城を築いた太田道潅が、江戸神田に安房の洲崎大明神を祀ったことや、神奈川（横浜市）や品川にも洲崎明神が祀られていることを伝えています。また、三浦半島にも洲崎神社と地理的に対峙するゆかりの神が祀られています。宝暦6年（1755）に書かれた『三崎志』に「海南家司四郎殿ヲ祭ル」とあり、海南神社の祭神藤原資盈の家臣・太郎（向ヶ崎諏訪神社）・二郎（宮城の住吉神社）・三郎（城ケ島灘ヶ崎の揖の三郎山社）、そして四郎の洲の御前神社の「四天王」が揃います。『三崎郷土史考』（内海延吉著）によると、《洲の御前（みさき）社の祭神四郎は、勇猛大剛で石を噛み砕き鉄をひねり折るほどの勇ましい神であったので、沙荒（すあら）御前と称しましたが、仁和元年（885）の7月から8月にかけて、天が砂の雨を降らしたので、荒の字を除いて、「沙」を「洲」に改めた》とあります。現在の社殿は明治36年に建てられたものといわれています。現在は通行止めになっていますが、かつては、県の水産技術センターの方へ抜けることができたのですが、今では、落石の危険に加えて、岩礁の道も荒れているため通行できずに残念です。
【水っ垂れの松】
洲崎明神から西に城ヶ島大橋に向かうと、その道の途中に「水垂（みぞったれ）」というところがあって、岩清水が滴りやせた松の根元に水が溜まっていました。鎌倉将軍の来島の際は、茶の湯または硯の水に供したといわれる名水であったそうです。頼朝はとりわけこの奇勝が気に入り、清水で墨をすり、茶をたてたといいます。北原白秋も次のように詠っています。
�狄綽發隆笋龍�を垂（た）る水の瀟々として真昼なりけり��
�狄綽發両召里�げゆくあはれなり麗らなる日のべら釣り小舟��
�犹虻蠑襯嬰腓凌綽發隆笋棒屬さ管換隋覆罎蝓砲い弔未譴伸�
崖の中腹より斜めに、磯上に張り出した古松の名木があったのですが、惜しいこと枯れてしまい伐採されて、その幹の一部が展示されて「愛を招く」とのことで白秋記念館に残っています。
○「水産技術センター」
水産試験場ができたのは昭和39年、51年には栽培漁業センターが併設されました。アワビ、マダイ、ワタリガニなどを養殖し、放流し、育てる漁業として期待されました。見学も可能です。
○「白秋記念館と白秋の碑」
城ヶ島大橋の下に「白秋記念館」があります。入館料無料。10ヶ月ほど三崎で過ごした北原白秋の、自筆ノートや遺墨等など貴重な資料が展示されています。大正2年5月白秋は家族とともに東京から三崎に移り、向ヶ崎に新居を構えました。ときに白秋27才の春でした。これは、世にいう「桐の花事件」による挫折、傷心から再起をはかるにあたり、この三崎の地が白秋の心を深くとらえていたからでした。そして、白秋は三崎を訪れた数多い詩人の誰よりも三崎を愛し、なつかしんだ人でもありました。それは翌年大正3年3月まで10ケ月ほどの三崎時代でしたが、この間詩、歌、『雲母集』、『真珠抄』、『白金独楽（はっきんのこま）』のほか多くの作品が残されていることでもわかります。「桐花事件」とは、白秋が隣家の人妻松下俊子と関係を持ち、明治45年7月5日、夫の松下長平から姦通罪で告訴された事件です。
【白秋の碑】
記念館の前の浜に、白秋自筆の草書が刻まれた歌碑「城ヶ島の雨」があります。
�牘�はふるふる 城ヶ島の磯に 利休鼠の雨がふる��
詩は、1913年に詩人・北原白秋によって作られ、城ヶ島や三崎の風情を詠った詩に梁田貞によって曲が付けられ、奥田良三が吹き込んだレコードが全国的にヒットすると、城ヶ島はロマンの島として全国に知られることとなりました。この詩碑は、白秋の筆跡を彫り昭和24年7月、ここから50ｍ東の磯に建てられのち現在地に移りました。また、白秋詩碑のある辺りは「遊（あそび）ヶ崎」といわれ、鎌倉将軍遊宴の地といわれています。
○「常光寺」
白秋の碑の西に「常光寺」があります。ここはもと阿弥陀堂跡で、天正元年(1573)に僧了善が一寺を建立し開山しました。常光寺は、享保9年(1724)に正木左近太夫が房総の里見軍を率い布陣した跡で、当時の名主飯島久右衛門が、三崎窪村の大工六次郎に依頼し堂宇を造営したといいます。明治7年には私塾「長浦学舎」(現在の長浦小学校の前身)ができるなど、島民たちの生活や教育にも大きく関わっていた場所です。昭和11年の城ヶ島大火により焼失しましたが、昭和28年に再建されました。
【楊枝を挿したら大木に】
田辺悟著『三浦半島の伝説』に次の話があります。
《今から800年も前のある日、源頼朝は多勢の武将とともに風光明媚な三浦三崎にやってきた。そのとき頼朝は「今日は良い天気ゆえ、島に渡って酒宴を開けるようととのえよ」と家来に命令した。島に渡った一行は、安房の国（千葉県）に向かって長くのびた安房の洲崎の午前とよばれる地で宴を開いたが、そのとき頼朝が楊枝を土に挿すとこの楊枝が幾日かたって芽をふき、枝葉をだして大きな柏槇に成長した。やがてその木は人がかかえられないほど立派なものになったので、三浦の五名木の一つに数えられるようにさえなり、いつでも近郷の人々の話題になるほどだった。ところが貞享3年4月に「たつみの大風」が吹いて、老木の洞穴より自然に火が出て炎上し、ついに由緒ある名木も枯れてしまったのである。名木が遺したものは無残な巨幹だけだった。ところが、名木は枯れても名木である。やがてこの柏槇をけずって煎じて飲めば「絶対に風邪をひかない」とか「風邪がなおる」といううわさが村から村へつたわると、近在の村人達によってだんだんけずりとられ、もちかえられてさすがの名木もしだいにほそくなった。そこで一時は島の海南神社に置いてあったのだが、常光寺の本堂の脇に保存するようにした。しかし昭和11年の大火で柏槇は本堂と一緒に焼失してしまい、長い間語り伝えられた名木もこんどは影をもとどめなくなってしまったのである。》
○「城ヶ島渡船・白秋」
今から約50年前、城ヶ島大橋の開通により廃止された「城ヶ島渡船」が平成20年に再開されました。城ヶ島ポンツーン(灯台入口)と三崎港産直センター｢うらり｣とを結んでいます。12人乗りの小さな船で、旅情をかきたててくれます。大人200円。1時間に3便。また、三崎にある産直センターからは、水中観光船「にじいろさかな号」が運航されています。城ヶ島大橋の下をくぐって宮川湾の海中展望場所まで行き、船内展望室の両側は窓になっていて、宮川湾の魚たちをたくさん見ることができます。約40分の「海中散歩」ができます。大人1200円。1時間に1便。
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