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2015年08月08日10:00

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マスターができるまで 久々1374

ストレッチャーに乗せられた患者さんは開いたICUの扉の中にあっと言う間に運ばれて行った。
女の人は、自分もついて行きたそうな素振りを見せたが看護師さんに
『奥さんはココまで』
と止められた。
女の人は憔悴したようになり
『ウチの人は大丈夫なんでしょうか。』
と聞いた。
看護師さんは
『先生が最善の事をして下さいましたから。
奥さんはお部屋のほうでまっていて下さい
ええ時間がきたらお呼びしますから、、』
とだけ答えると、再度、ICUの扉をあけ、自分だけなかに入って行った。
中から、薬液の匂いが流れて来た。
それはどこか患者の心を強くさせる匂いだった。
俺は、この女の人に何か話しかけてみたくなったが、さて、何から話しかけてみたら良いものか糸口がみつからなかった。
女の人はしばらく、窓ガラスにへばりついたようにして、中を伺っていたが、やがて、あきらめたように肩を落とすとトボトボと、最前、ストレッチャーと共にやって来た方へ、歩き始めた。
窓ガラスに、白く、女の人の額の跡のシミがついていた。
その時、女の人と交代するみたいにバタバタと音をたてて母がやって来た。
母も瞬時に女の人の異様さに感づいたのか、すれ違いさま、振り向いていた。
母の背後にはヒトミとミドリがついて来ていた。
俺と同い年のヒトミは花の茎のようにやせており、体のどこにも女の子らしい丸みがなかった。
一方、年子の妹であるミドリはすでに女の子らしい丸みを体の至るところに見せはじめており、知らない人がみたらミドリの方がお姉さんに見えた。
俺が
『ヒトミちゃん!』
と言うより早く、ヒトミは
『ノブエさん、ノブエさん』
と母をお手伝いのように呼び
『お母ちゃま、この中にいるの?』
と聞いた。
母が
『そうよ
この中で頑張っとんですよ、お母ちゃま』
と答えると、ヒトミは一瞬、
『は!』
と言う音をたてて息を飲み、やがて、
『お母ちゃま、お亡くなりになったの?』
と言った。
母が
『そんな事、、』
と言いかけた矢先、ミドリが
『また、そんな事、くだらない事、オネエちゃまは言う
お母ちゃまは絶対に死なんて、出て行かれるまえに、お父ちゃまも、古谷のお婆ちゃまも言うたでしょ』
と言った。
するとヒトミは
『だって、じゃぁなんで、ノブエさんがいきなり私達を呼びに来たんよ
死なないんじゃったらお家で待っててもええはずでしょ
こうして呼びに来たって事はなんか異変が起こった証拠でしょ』
と言い募った。
今度はミドリも納得したのか反論しなかった。
かわりに黙ってしまった。
やがて、ヒトミはヒューヒューと笛の音色のような声で泣き、ミドリまで手で目を押さえる始末だった。
母は自分が呼びに行きましょうかと言った手前、とんだ誤解を招いたと思ったのか
『困ったなぁ、、』
と言うと
『違うんよ、ヒトミちゃん、ミドリちゃん、
さっきから言うとるでしょ
これはノブエおばちゃんの一存で、あなたらを迎えに行っただけなの
けしてお母ちゃまがどうだとかこうだとか言った問題ではないの』
と言い、俺に援軍を求めるように
『な?な?』
と言った。
俺は自分の親の事はクソ丁寧に
『ちゃま』
付けで呼ぶくせに、かりそめにも、オバである俺の母をお手伝いさんのように
『ノブエさん』
と言うヒトミの物言いにハラが立ってしまい、母の縋るようなまなざしを無視して
『そういやあ、さっきから、やたら看護婦さんらが出入りしとったけん
もしかしたら何かあったんかもな』
と言わずもがなの事を言ってしまい、ヒトミの泣き声を嫌が上にも助長させてしまった。

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