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2015年05月30日10:01

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マスターができるまで 久々1357

バスは、レモンの看板の喫茶店の角を曲がり、ゆるやかな坂道を登って行った。
その、のぼりつめた先に目指すプールがあった。
俺はカワタカに
『今のレモンの店、行った事ある?』
と聞こうとした。
しかし、カワタカは通路をはさんだ席のクロザサと水泳のはなしでもしているのか、やたら、盛り上がっていた。
俺は小さく
『なぁ、なぁ』
と呼びかけたが、カワタカは、返事もしてくれなかった。
新聞やの息子が、そんな俺を見てニヤリとわらった。
見透かされたような気分になった俺は、瞬間的にむっとし、
『こりゃ!
聞いとんか!』
と言ってカワタカの脇腹を激しくこづいた。
すると、カワタカは
『なんでぃ痛いなぁ』
と言いながら渋々のように俺の方に体を向けて来た。
しかし、その時には、バスは遥かに、レモンの店から、遠く離れさっていた。
カワタカは
『何、はなしって』
と言ったが、俺は
『もうええ』
と言いヨコを向いた。
『頼まれても、帰りに、デートやこせんぞ』
と思った。
しかし、思うはしから、よけい行きたい気がつのった。
その矛盾した思いが俺をさらに、いらつかせた。
グッとバスが道なりに曲がった。
その時、誰かが
『お』
と言った。
生い茂った緑の樹木が連なっている崖の下の方に、キラキラ光る鏡のようなモノが見えて来たからだ。
それは光にあたって反射しているプールの水面だった。
その声に誘われたみたいに車内は騒然となった。
タカオ先生が、その声をしずめるように
『騒ぐな!』
と言い
『仕度せいよ、着くぞ!』
と言った。
カワタカやクロザサは元気よく、
『はーい』
と返事をしたが、俺は黙ったままだった。
カワタカが、そんな俺をチラっと見た。
バスはプールに到着した。
バスからおりつつ、俺は、このプールにも何度か来た事を思い出していた。
それは決まって夏休みの事だった。
タジマのいとこと来た事もあったし、シゲイチのお父さんが元気だった頃には、シゲイチの一家と来た事もあった。
その時は、大勢の客を目当てに、入り口の脇に、真っ赤なケチャップがかけられたホットドックを商っているライトバンが止まっていたが、勿論、今日はそんなモノの姿は見受けられなかった。
俺は、カワタカに
『ホットドックの店、今日はねえなぁ』
と言おうと思ったが、口をききたくなかったので、言うのは控えた。
駐車場には、俺達が乗ってきたバス以外に、何台ものバスがすでに止められており、見かけない他校の生徒の姿が散見された。
その姿の多さで、この大会の規模の大きさが伺われた。
タカオ先生は、大熊先生に手伝わせ、俺達を数列にならばせ、点呼をとった。
二回それは繰り替えされた。
やがて、数があっている事を確認し終えた大熊先生は、何故か
『古谷もおります』
と言った。
そこにいた生徒全員が爆笑した。
タカオ先生も笑っていた。
わざわざ俺を名指しで言う事もなかろう、と思ったが、客観的に考えて、最も、行方不明になりそうな生徒は俺だったので、仕方ないかなぁと思った。
しかし黙ったままと言うのもシャクだったので、俺は
『そのウチ、消えるかもしれんです』
と言わずもがなの事を言った。
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