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2015年03月31日08:21

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『栖鳳閑話』竹内逸

 『竹内栖鳳』田中日佐夫を読了。もう一冊栖鳳関係があったはず。
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 ありました。『栖鳳閑話』竹内逸(昭和十一年十二月十五日改造社)、函の背があったはずなのに外れてどこかにいってしまったみたい。この本は、戦後の版のみしか日本の古本屋に出ていない。なんでやろ?需要がないということか。
 栖鳳の姉の話。
 料亭「龜政」を継ぐべき栖鳳を絵かきにするために店を守ることにした姉(逸には伯母)は、≪伯母は家業を嗣ぎ、独身を守り、死ぬまで湿った石畳の料理場をさ迷つていた。≫二条城の東南にあった料亭は繁昌していたが、やがて繁華街が東に移っていった。
≪その頃私はこの伯母に、時折、月末に呼出された。最う私は上級の小学生だつた。夕食後、昆布の積んである薄暗い段梯子裏で、伯母は私の肩に手を当てて、小さく鈴のやうな綺麗な寂しい声で、魚問屋や乾物屋へ支払ふための借財を頼んだ。即ち私は伯母から母への使者である。多分伯母は、こんなことが家の者に知れては、一家の統制がとれないと思つてゐたのだろう。
 私は一目散に駆けて、母の懐からネヂ出す札束を握つて、また一目散に伯母の家へ駆け戻つた。そして、「御入用なら遠慮なく言つて下さい」と、母の伝言を伝へて手渡した。伯母は札束を拝んで、帯の間に挟み入れ、私の頭を撫でながら襦袢の袖で軽く涙を拭いた。私は昆布を引裂いてムシヤムシヤと食つた。
 間もなく伯母は卒中で死んだ。≫
 この本には、≪「栖鳳閑話」なる一文が大阪朝日新聞の夕刊に連載された時≫の挿絵が入っている。(表紙も栖鳳)
「日永」
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「初夢」
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「長閑」
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