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2014年11月29日10:24

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マスターができるまで 久々1309

実伯父や、祖母を言いくるめ、表に出て来た父は子供のように
『してやったのう』
と言い、
『ははは』
と弾んだ声で笑った。
その声に驚いたように、銭湯に入っていこうとする人が振り返った。
祖母は、出て行こうとする父と俺に向かって
『ぬくぬくのウドンが出来とんで、
しかも美保子の味付けじゃけん、そんじょそこらのうどん屋のウドンよりおいしいぞな。
喰わんのんか?』
としきりと言った。
それでも「喰うと」は言わない父に、祖母は、放り出すように
『好きにしなせ
子供のような事ばぁして』
と言い、それでも俺にだけは
『アンタは喰うじゃろ』
と猫なで声で聞いて来た。
『いらん』
俺がそう答えると、祖母はにわかに、舌きりスズメのお婆さんのような顔になり
『アンタまで』
と、不機嫌きわまりない声をだした。
その間、実伯父はいっさい、口を差し挟もうとはせず、聞いて聞かない顔で、新聞を読んでいた。
それは、我が家の問題には一線をひいているという、謙虚な自分を演じているポーズだった。
俺は、その時の実伯父を思い出し
『実伯父さん、すました顔して新聞読んどったなぁ、、』
と言い、
『新聞言うもんはああいった使い方もあるんじゃな』
と言った。
父はすかさず
『へじゃけんど、アイツ、耳だけはダンボになっとったで、
新聞より大きゅうなっとったわぃや』
と答えた。
その時、俺は、ふと、母の事を思い出していた。
祖母を中心に、実伯父と美保子叔母は和気あいあいとウドンをすすっていたが、その輪に、母だけは加えさせてもらせず、黙々と、流しで、鍋やカマを洗っていたからだった。
祖母が
『ノブエさん、洗いもんは後でええけん
ウドン、どびん(伸びない)ウチにお食べぃ』
と取って付けたような事を言っても、諾おうとはせず、母は
『へぇ、
へぇでも』
と言うと、敵ウチのような顔で鍋を洗っていた。
心持ち、そのおりの母の口元は
『なんじゃ言うんでぃ
なんじゃ言うんでぃ」
と呟いているように見えた。
『実伯父さんは何の権利があってあがにえばっとんでぃ。
自分の家でもあるまいし』
俺が、そう言うと、父も母の事を、その言葉から連想したに相違なく
『ほうじゃのう、、、』
と困った顔をし、
『どこから話せばええもんやら
これも、クスさんどうよう、長い長い、偏愛のあげくの事じゃけんの』
と言い、
『まぁ、一言で言うと、お婆ちゃんと、お爺ちゃんが、あがなスタイルを作ってしもうたんじゃろの、、
お爺ちゃんは、激情家じゃったけんど裏表のねぇ人で、ワシや、おめぇの事をタダ単純に、盲目的に可愛がってくれとっただけじゃったけんど、お婆ちゃんいう人はオトナシマク(おとなしい人)で、腹のウチがよう、わからん人じゃ、、
積もり積もった長年の思惑が、今のスタイルを作ったんじゃろの、、
まぁ、なかなかのお人じゃ、あの人はの、、、』
と言った。
俺は
『ふうん、、』
と言ったきり黙って歩いた。
父もそう言ったきりだまって歩いた。
やがて、俺達は、いくつもの路地をまがり、クスさんの長屋に着いた。
夕方までいた長屋だったが、今見たら、それは、祖母の積年の思惑が交錯しているような不思議な色合いをおびた長屋だった。
父が小腰をかがめ
『こんばんわ』
と言い、扉をあけた。
『はい、なんでしょう』
と言う声が中から聞こえて来た。
それは、寝ているようなクスさんの枕元で、最前と同じようにあぐらをかいてすわっているおじさんの声だった。
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