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2014年11月23日10:11

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マスターができるまで 久々1307

母が
『ほれ、ほれ』
と言って俺と父を追い出そうとした時の事だった。
俺は、最前、祖母が、母に向かって口にした言葉の片端を思い出した。
それは
『アマタ』
という文句だった。
他にも
『ゆうさん』
『恥さらし』
と言う文句もあったが、ゆうさんの事はわざわざ聞くまでもなかった。
父は、
『ほん』
と言うと、この場から立ち去りたい勢いで、さっさと野球でも見に行こうとしたが、俺は、母の背中にまつわるように、
『なぁ、なぁ』
と未練げに声をかけ、
『さっき、お婆ちゃんが言うとった事じゃけんどなぁ』
と言った。
その瞬間、母はくるりと俺の方を向くと
『また立ち聞きしとったな!』
と険しい顔で口早に言った。
俺は、ビクっとなったが、やがて、母に叱られても良いと覚悟をきめ
『それはそれじゃ
この事と関係ね!』
と居直り
『お婆ちゃんの言うとった「アマタ」てなんでぃ
なんで誰も教えてくれんの?
ええ加減、教えてくれてもええ頃じゃろ。
秘密主義は婆さんだけの専売特許かと思うとったら、お母ちゃんもか!
アマタが恥ずかしいからお母ちゃん、明日の葬式にでんとおえんのんじゃろ?
そがん恥ずかしいもんにあのクスさん言う人は関係を持っとったんか?』
と言い
『アマタ、アマタ』
と、「アマタ」を連呼した。
母は
『うるせぃがな』
と制し
『そがな大きな声だして
あっち(仏間)に聞こえたらどうするんでぃ』
と言った。
俺はわざと大きな声を出してやろうかと思ったが、母の立場も考え
『じゃけん、ここでこっそり教えね』
と囁いた。
母はけんもほろほろに
『そがん事、どうでもええけん
あっち行ってなせぃ
わたしゃぁ、美保子さんの女中をせんとおえんけん、それどころじゃねえんじゃ』
と言った。
俺は
『じゃけど、、』
と食い下がった。
この期を逃すと、いつまでたっても、「アマタ」の事を教えてくれそうになかったからだった。
その時、ぐずつく俺をせかすように
『お湯、湧かしてくれた』
と言いつつ美保子叔母がやって来て、このはなしは頓挫した。
美保子叔母の言い方はさながら高貴な女主人のようだった。
廊下で聞いていた父が険しい顔になり、戻って来ると、
『そこまでしてウドンが喰いてぃんならイケモトで出前でもとれや
これ以上、ワシとこをつつくな』
と抗議した。
しかし、美保子叔母は動じる気配もなく
『おえん、おえん
出前のうどんやこ、
持ってきょうるまにどびて(伸びる)しまうわぁ
そがなモン、実さんが食べてくれん』
と言い
『ノブエさん、お湯
早よ湧かして』
と言った。
母が目顔で、父と,俺に
『早よ、あっちへ行け』
と合図を送って来た。
俺は食い下がって行きたかったが、父は、俺の腕を取ると
『わしはウドンやこ喰わんぞ!』
と言い、六畳の間に引っ張って行った。
よほど、腹が立っていると見え、父は、ズボンのポケットから出した煙草の尻をテーブルの上で叩き続け、いっこうに火をつけようとしなかった。
俺は、次第につぶれて行く煙草を見つつ
『お父ちゃん』
と言った。
すると、父はその呼び声が引き金になったように、動かしていた手を止め
『ヨシヒロよ』
と言い
『アマタの事、知りてぃか』
と言った。
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